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 ひとりで湯船に浸かるフェリスの身体に、キスマークがない場所はない。とくに乳房と華奢な肩、柔らかな太腿の内側に濃く多く残されている。

(十日目の夜、だわ)

 媚薬を飲んだメルヴィルと身体だけがつながってから。真面目な彼が公爵の職務を放棄して、夢中になってフェリスを孕ませようとしている。
 時間も場所も関係なく抱かれて、貞淑だった身体はキスだけで淫蜜を滴らせるようになった。試していない体位はないのではないか、というくらい様々な体勢で抱かれた。

(上に乗るのは……だめ。気持ちがよくて勝手に身体が淫らに動くもの)

 腰を振ってしまうタイミングで突き上げられると、頭がどうにかなりそうなくらいヨガり狂ってしまう。
 それから背後位。メルヴィルの顔が見られないのが寂しいし、顔が見られないぶん、やっぱりヨガり狂ってしまう。
 立ってするのも身長差が大きいせいで不安定で、メルヴィルに縋ってしまう。
 結局、はしたないを超えるほど夢中になってしまう。
 まだメルヴィルを奉仕するのがうまくなっていない。両手で奉仕するのはもちろん、極大な男性器ソーセージをめいっぱい口を開けて咥えようとすると顎が外れそうになってしまう。フェリスの大きすぎる乳房で挟んで奉仕するのも教わったが、メルヴィルが満足した証の精液を出されたことがない。
 心身への愛と快楽を教えられて十日。
 まだ十日。もう十日。
 幸せな時間がすぎるのはなんと早いのだろうか。

(朝になったら……、媚薬の効果がなくなるのかしら? そしたら、また、メルヴィルさまは離れてしまうの?)

 胸の奥が苦しい。愛されたい。心身ともに愛されたい。
 この十日間、体力も経験もないから先に寝落ちてしまうし、会話をする間もなく犯されているが、嫌ではない。
 メルヴィルの息も、体温も、視線も、手つきもなにもかも、愛しい。
 フェリスはちゃぱんとぬるくなった湯をかき混ぜて、柔らかな下腹部を──子宮のあたりを撫でる。
 たっぷりと子種をもらったのだから、授かっているはずだ。絶対に可愛い赤ちゃんが生まれる。メルヴィルが離れたあと、赤ちゃんがいてくれるなら、夫婦じゃなくても家族になれる。

(家族になったら、メルヴィルさまは笑ってくれる? 家族で食事をして、ピクニックに……。……想像できないわ)

 憂いて笑った顔を湯で洗う。コツコツとバスルームのドアをノックされた。

「フェリス。のぼせていないか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 フェリスは立ち上がり、バスタブをまたごうと足を開いた。そのとき、ドアが開いてメルヴィルが顔を出す。

「きゃぁっ」

 バランスを崩したフェリスは、バスタブ内の足を滑らせてしまった。ばしゃっ。大きく湯が揺れた。が、どこも痛くない。
 メルヴィルが肩を抱いてくれたから。
 ぐっしょり濡れた彼の黒髪からぽたぽた水滴がフェリスの頬に落ちる。水がたっぷりかかった眼鏡の向こうの目元が緩む。

「どこか痛いところは?」

 ぽたぽた。涙が柔和な頬に落ちる。メルヴィルの髪からの雫と混ざって、首筋を伝う。

「大丈夫か? 医者を呼ぶから待っ……」

「行かないで、メルヴィルさま」

 フェリスはメルヴィルの首に抱きついた。朝になれば、終わってしまう。だから。

「……だ、抱いて、ください」

 泣き声混じりにこいねがう。

「フェリスからのおねだりだ。もっと甘えて言ってごらん」

「メルヴィルさま。ひとときも離れたくないの。フェリスにキスをください。抱きしめて、手をつないで」

 大きな不安をかき消すキスを与えてくれたメルヴィルは、嬉しそうに微笑む。

「かわいいおねだりだな。フェリスらしい」

 おねだりを叶えてくれたメルヴィルは、フェリスを甘く蕩けさせるのに、なかなか挿入してくれない。彼のかたちを覚えた膣、幾度となく精を浴びた子宮、抱かれるたびにときめく胸の内側がきゅんきゅんして切ない。
 切なくて切なくて、フェリスは淫らなおねだりをする。恥ずかしさよりも一刻も疼きをどうにかしてほしかった。
 夜が深くなれば明日がやって来てしまう。朝なんてやって来なければいい。
 それまで離れたくない。


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