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第1話 天才

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 冬は早朝がいい。魔粉が降っている朝は言うまでもないが、窓に凍ったスライムがへばりついてる朝もいい。また、そうでなくても自分の魔法で起こした炎で暖を取るのもまた一興だ。

 今日はそのうちの三つ目だ。俺は部屋の真ん中に設置しておいた炎をフッと消し、荷物を全て異空間に運び込んだことを確認して、一回部屋にお辞儀をした。
 この寮でお世話になるのも終わりだ。この九年間ここで色々なことがあった。楽しいことばかりではなかったが、色々なことを学べたと思う。

 今日、俺は魔物学校を卒業する。

 寮を出てまっすぐ進むと、デッカい禍々しい建物が出てくる。年季の入った褐色の壁は、魔物文化の歴史を感じさせる。

「おはようスピノ。お、ピシッと決まってるんじゃないの?」

 俺が学校の姿に耽っていると、後ろから聞き慣れすぎた声が聞こえてきた。

「おはようモサ。お前、髪の毛ワックスで固めてるんじゃねーよ。気合い入り過ぎだろ」

 コイツは俺の幼馴染兼ライバル。何故かずっと同じ学校に通い、ほぼ同じクラスになった腐れ縁と言っては腐れ縁である。
 俺と同じで悪魔族で、見た目はほぼ人間と同じである。俺と唯一違うのは尻尾の形、俺は真っ直ぐだが彼は巻いている。面白い違いだ。

「スピノ、お前首席なんだって? 凄すぎんだろ、ここで首席ってことは魔王幹部クラス確定だろ?」
「お前、次席だろ。あんま変わんねぇよ。お前もそのくらいのクラスだろ」

 俺らが良い気になっているんじゃないかと言われたら、否定はできない。なにせ、今日は俺らの人生のルートが決まる日。魔物達の運命の日であるからだ。

 俺たちの世界での配属先が決まる。

 魔物は最初、魔物だけの世界で過ごすことになる。所謂、魔物達の成熟を待つ場所である。そのほとんどの魔物達は、この魔物学校で九年間学ぶことが義務付けられている。
 そして、学んだ後は人間と動物達も居る世界に放たれる。ここで重要になってくるのは適材適所という言葉だ。
 強い魔物は魔王の近くに、弱い魔物は戦いの少ない場所に配属されるのだ。
 そして今日、それが発表になる。
 俺はこの学校の首席だ、良い場所に配属されるのは言うまでもない。この日のために九年間頑張ってきたのだ、少しくらい良い気になったっていいだろう。

 体育館の中に入っていくと、多くの魔物が既に入り込んでいた。これは卒業式という物らしい。大して厳格な物ではなく、自分の時間が近くなったら体育館に行き、校長から卒業証書と配属先が言い渡される、ただそれだけである。
 俺は1番最後、モサの一個後ろである。成績順に証書が授与されるのだ。
 他の魔物たちが帰らずにこの体育館に居座っているのは、この為だ。そう、俺の配属先を聞くため。

「おい、スピノ。スラ子ちゃん平原配属になったって」
「マジで? あのフォルムで平原は映えるなぁ...」

 クラスのマドンナスラ子ちゃんは1番安全な平原配属になったらしい。俺も小さい時好きだった。誰だってあのプニプニフォルムは我が物にしたくなるだろう。

「モサ、前に出なさい」

 ぼーっとしていたら、いつのまにかモサの番になっていた。
 彼はゆっくりと階段を上がり、校長の前に立った。周りは先ほどと違って静かだ、皆んなモサの配属先が気になるのだろう。

「コホン、よく聞きなさい。お前の世界での配属先は...」

ゴクリ...

「魔王アルファ様の本部だ」

「「「うわぁぁぁぁぁ!!!」」」

 魔王アルファ。世界で最も強い魔王として君臨する、所謂魔物達の総指揮官だ。モサはその魔王の元で働くことになったのだ。

「ありがとうございます」
「モサ、やったな! 夢だったろ、魔王様の元で働くのは」
「マジで...嬉しくて...」

 モサの目には涙が浮かんでいた。それもそのはずだ、彼はこの九年間死に物狂いで勉強に励んでいたのだから。
 彼の夢が叶ってくれて、俺もとても嬉しい。

「モサがこの役職って...スピノどうなっちゃうんだ?」
「まさかアルファ様の幹部とか?」
「いや、あるんじゃねーか?」

 周りの魔物たちが口々に何か言っている。
 やばい、手の震えが止まらん。

「スピノ、前に出なさい」

 遂に俺の番だ。
 俺はゆっくりと壇上に上がり、まっすぐ校長を見た。

「お前の配属先は...」

ゴクリ......

「えっと、魔王...えっと、魔王シルク様の...幹部...だ」
「は?」
「「「は?」」」

 え、まて。あれ?

「誰?」

 校長は俺の資料をまじまじと見返し、数回咳払いをした。

「魔王シルク様は新しく選挙で選ばれた魔王様だ」

 聞いたことない。

「あ、知ってる俺。なんかの手違いでなった魔王でしょ?」
「あー、あの。皆んなノリで入れたらなっちゃった人でしょ?」
「あれか、魔権放送でかみかみで泣きそうになってた人!」

 へ?
 いや、ちょっと待って。これ、まずいんじゃね?
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