微笑みと心中

伊藤

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出会い

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 その日、雨野あめのは非常に不機嫌だった。大学の友人に呼ばれた合コンで、気に入った女の子がイケメンを選んだからである。雨野は特にこれといった特徴のない平凡な顔立ちの男であったので、あまりモテなかった。

「結局は顔か。俺にもっと金とか顔とかがあればなあ」

 独り言を言いながらビールとあたりめを入れたビニール袋を片手に、足早に自宅である安アパートへと帰って行く。
 ふと、家の目の前にあるゴミ捨て場に目をやるとまだゴミのない空き地に人影があった。このまま無視していくのも忍びなく思ったため、人影に声をかけた。

「おい、あんた大丈夫か? うわ、酒臭い」

「うんん」

 雨野の声掛けに人影は反応したが、すぐに寝息を立て始める。

「ただの酔っぱらいかよ。おい、あんたこんなところで寝てたらやばいぞ」

 今度は強く肩を叩いて声をかけたが完全に寝入っているようで反応はない。

「男……だよな。ならいいか。連れて帰ろう」

 酔っぱらいには呆れたが、このまま放っておくには目覚めが悪い。女なら110番通報するところだが、男ならば一晩くらい良いかと酔っぱらいを家に連れて帰ることにした。


「すみません。迷惑かけました」

 次の日、目を覚ました男は開口一番に謝罪した。

「酒の失敗はよくある事だけど、これに懲りたらあんまり酒を飲み過ぎないほうがいいと思うぞ?」

「善処はします」

 男はあいまいに頷いた。雨野はそんな返事に呆れつつまじまじと男を見る。
 明るい場所で見ると、とても独特の雰囲気のある男だった。綺麗な顔立ちをしているとは思うが、色味が特徴的なわけではない。普通の黒髪黒目である。大学生の雨野より少し年上だろうが見た目の年齢にそぐわない妙ななまめかしさが体全体からにじみ出ていた。 

「今は何も持っていないのですが、何かお礼がしたいのです。何をしたらいいですか?」

 男は、ゆっくりと雨野に近づく。しかし、雨野は男に近寄られるとなぜか落ち着かなくなった。

「え、いや別に俺は大したことはしてないよ。ううん、そうだな」

 雨野は男から距離を取ろうと必死に用件を考える。

「あ、じゃあ俺のモデルをやってくれよ。もうすぐ課題があるし」

「モデルですか?」

「俺はこう見えて芸術系大学で油絵専攻してるんだ。新しい課題で作品作んなきゃならなかったしちょうどいいや。そのモデルになってくれ」

「……わかりました」

「よし、決まりだな。あ、俺は雨野って言うんだ。よろしくな。あんたの名前は?」

狭霧さぎりです。よろしくお願いします」

 そう言って、狭霧は微笑んだ。
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