時代錯誤の大剣豪、異世界を駆ける 〜目覚めたら第二王子だったのだが、私はこの身体を立派な武士に仕立ててから持ち主に返すつもりである〜

 
『治に置いて乱忘れず』

 天下泰平の世において、余りにもストイックに武士たることを追求しつづけた一人の男がいた。その男の名は子龍。時代錯誤と揶揄された剣豪である。

 その男の日常は常軌を逸したものであった。早朝より怒声と共に木刀の打ち込みをすること500回。その後、居合いをすること300回。終われば槍の稽古、弓、鉄砲と続き、最後は馬の稽古で締めとなる鍛錬を毎日欠かさずこなし続けた。

その狂人振りは鍛錬だけには収まらない。

 様々な武具を集めては部屋に乱雑に置き部屋は武具で溢れかえっていた。兵法書も好み、読み集めた兵法書は1700冊を超えている。兵法書を読む合間も机を叩き拳を鍛えあげ、夜は合戦を想定し甲冑を着たまま就寝した。常在戦場を胸に掲げ、食事は玄米に味噌だけで過ごしてきた。

 そんな男も69で病にかかり、その生涯を終えることとなる。男は人生を振り返り心の中で願った。

(せめて、一度でも己の修練の成果を発揮できる場があったらば…)

 男はそのまま息を引き取った。

 死んだはずであった男が次に目を覚ますと世界は一変していた。男は異世界で小国の第二王子として生きることになってしまった。

 だが、男はこれを良しとはしない。若者を犠牲にしてまで果たしたい願いなどない。こうして男は、入れ替わってしまった身体の持ち主であるカイルが目覚めるのを待ちつつ、この身体を立派な武士として仕上げておくことを決意するのだった。

 果たして、男はこの異世界で何を思い、どのような生き方を選択するのか。

武士×異世界の物語が今始まろうとしている。
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