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第二章 アウゼフ王国義勇軍編

第三十九話 とっておき

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ついにカイルとジェイクが駆けつけ、カイル隊の主要メンバーが集結した。軍全体はカイルの指示により戦いながら少しずつ後退をしており、今ではザールとカイル達だけの残っている状態になっている。ルーカスの分断作戦は狙い通りの構図になっていた。

「ゴミ共が集まってぺちゃくちゃおしゃべりは終わりか?めんどくせーから早くかかってこいよ。」

煽るようにこちらに向かってザールが話しかけてくる。

「あぁ!?上等だ!テメー!」

それに反応し飛び出したのはジェイクだった。元々勝気な性格だが、戦場においてはそれが更に好戦的になるようだ。

「ジェイクに続くぞ!」

すぐにカイルがジェイクの後を追う。

「食いやがれ!竜巻切り!」

ジェイクが双剣を両手に持ちスキルを発動する。すると、回転しながらジェイクが怒涛の連撃を繰り出していく。

「オラオラオラオラァァァァ!!」

それはカイルも見たことがない技だった。
ガギン!ギィン!という激しい金属音を鳴らしながら幾度となくジェイクが斬りつけているがそれを全てザールは片手で防いでいる。

「くそぉ!まだこんなもんじゃねーぞ!」

ひたすらに斬りつけながらジェイクが叫び、更にペースを上げだした。

「はっ!お前如きの攻撃じゃ俺に届かねーよ。意外性が何も無え。」

「俺もいくぞ!白光一閃!」

カイルが白光状態になって連突きを繰り出していく。それをザールは両手を使い、ジェイクとカイルの攻撃をいなして行く。

「あー、防ぐのもめんどくせぇ。フレイムガード!」

魔法を唱えると炎が全身から噴き出し、ザールを包み込んだ。炎が球体状にザールの周りを覆っている。

「くそっ!これじゃあ、近づけねぇ!」

ジェイクがすぐに距離を取り叫んだ。
近くにいるだけで激しい熱風が襲ってくるのだ。

「でもやるしか無い。どこかに攻略の糸口があるはずだ!」

カイルが熱風を受けながら突っ込んでいく。

「クッ!オリャァァ!!」

突きを繰り出していくが、近づけば近づくほど熱のダメージが大きくなる。更に厄介なのは炎の壁によりザールの動きが見えないことだった。

「ダークボール!」

そう声がしたと思ったら、いきなり黒い球体が飛び出してくる。どうやら向こうからはちゃんと見えているらしい。

「くそっ!」

なんとかギリギリダークボールを回避し、バックステップで一旦距離をとった。

「カイル!大丈夫か?」

すぐにバロウが近づきヒールをかける。その間、シルビアも矢を放っているが炎に阻まれ防がれてしまっていた。

「カイル、実はまだとっておきを残してる。あれを使うとぶっ倒れちまうから使えなかった。なんとか奴の注意を引いてくれないか?」

カイルにヒールをかけながら小声でバロウが言う。カイルはザールに悟られないように無言で聞いている。

「了解」

最後に小声でバロウにだけ聞こえるように返事をした。

「ジェイク、ルーカス。今から波状攻撃を仕掛ける!俺に合わせてくれ!」

カイルが二人に声を掛ける。二人は何をするのかは全くわかっていなかったがわかったと返事をした。

「セット 弥助!」「剛力!」

カイルの動きに合わせてジェイクとルーカスも剛力を発動した。

「クリエイトブロック!」

生活魔法クリエイトブロックを発動し、空中にブロックを作り出した。

「いっけぇぇ!!」

そのブロックをカイルが思いっきり殴りつける。すると、ブロックがまるで弾丸のようにザールに向かって飛んでいく。

「ちぃ!」

ザールは舌打ちをしながら中でブロックを弾いたのか飛んでいったブロックが斜め上方向に飛び出してきた。

それを見ていたジェイクとルーカスがすぐに動きを合わせた。

「クリエイトブロック」「クリエイトブロック」「クリエイトブロック」

次々にブロックを作り出し、それを剛力で飛ばしていく。ザールに向かってブロックの弾幕が降り注がれていく。それをザールは全て弾き返していっている。

「ダークボール!」

今度はザールがダークボールを連続で発射する。
周囲にダークボールによる爆発がいくつも巻き起こる。どうやら狙って出しているのではなくあたり構わず発射しているようだ。

「被弾しないように気をつけて!」

カイルがみんなに声をかけながらブロックを飛ばしていく。しばらくお互いに弾幕合戦が続いたが剛力の効果が切れ、クールタイムに突入した。

「セット 服部半蔵」「分身の術!」

剛力の効果が切れるとすぐに半蔵に切り替え分身を作り出す。その動きに合わせ、ジェイクとルーカスも分身を作り出した。

「次はこれだぁ!」

カイルが分身をザールに向かって突っ込ませていく。分身は爆炎によるダメージを受けながらもそのままザールに向かって突っ込んでいった。

「テメェ!おかしなスキル使いやがって!」

炎の球体の中で、ザールに突きを放ち、躱されてしまったところで分身は消滅する。ついで、ルーカスとジェイクの分身が突っ込んでいく。

「フレイム!」

ザールがフレイムを放ち、分身を消滅させた。

「分身の術!」

3人がすぐに追加で分身を作り出した。消滅を繰り返しながら次々に分身を放っていく。

「うざってぇんだよー!」

怒ったザールが炎を纏ったままカイルに突っ込んできた。このまま肉弾戦に持ち込むつもりらしい。

「セット 直江兼続!」

「ディフォメーション!」

カイルが直江兼続の固有スキル築城術の一つディフォメーションを発動させる。

すると地面が変形を始め、隆起しながら先端が尖っていきザールに向かって伸びていく。

ザールはそれを横に飛んで回避した。
回避した先でジェイクが同様にディフォメーションを発動させた。

「ちぃ!うぜーうぜーうぜー!!」

ジェイクの攻撃を回避してすぐにザールは身体から黒いオーラを放ち爆発させた。

「ぐぁ!」

カイル、ジェイク、ルーカスが爆発に巻き込まれてしまった。

「ゴミ共!調子に乗ってちょこまかとウゼぇんだよ!もう終わりにしようや。これで終いだっ!」

ザールはフレイムガードを解き、両手を上に掲げた。すると頭上で黒い球体がどんどんと大きくなっていっている。

「これが俺の最強魔法だ。ここら一帯を消し炭にしてやる。あとのことなんて関係ねぇ。お前らは俺を怒らせた。それだけで万死に値する!」

そう叫びながらも球体は更に大きく膨れ上がっていた。

「フレイムガード解いちゃって大丈夫なんか?」

不意にザールの後ろから声をかけるものがいた。

「あぁ??」

この状況に似つかわない声のトーンに、思わずザールは後ろを振り向いた。

そこには、いつの間にかバロウが立っており魔導武器を手に持っている。その武器は剣の握り部分だけでできており、既に魔力を流しているようで眩い光を放つ剣身が伸びていた。

「おいっ、なんでお前がそんなもん持ってやがる。やめろ!やめろこの糞野郎!」

ザールがバロウの武器を見て焦った様子を見せた。

「やめるわけねーだろ!いい加減くたばりやがれ!ザール!」

バロウが叫びながら魔導武器を振った。

「ギィアアアアアアアア!」

バロウの魔導武器の一撃は切ったそばからまるで浄化していくようにザールを焼き尽くしていく。
ザールが激しい断末魔と共に両断され消滅していく。

「覚えてやがれ!人間共ォォ!!」

最後に恨み節を唱えながらついにはザールが完全に消滅した。

「たはぁー。やっぱ疲れるぜ。この武器は。魔力全開放で立ち上がれねー。」

バロウは地面に膝をつき、そのまま大の字に寝転がった。バロウが使った魔導武器は瞬間的に全魔力を剣身に変えることができるいわば捨身の武器だったのだ。

「バロウ!やったね!」

カイル達がバロウの元に駆け寄り声をかける。

「あぁ!バッチリだったぜ!」

バロウはカイルに向かってニカッと笑う。

「しかし、バロウはいつの間にあんな位置にいけたんだ?俺たちも気づかなかったぞ。」

ルーカスが疑問を口にする。

「あぁ、あれはカイルのおかげだよ。カイルがザールにディフォメーションを使った時に、俺の目の前にも移動用の壁が現れた。その壁で気付かれずに移動できたんだ。」

「なんだ?戦いながらそんなことまでしてやがったのかよ。敵わねーな、お前には。」

バロウの説明を聞き、ジェイクが呆れたようにカイルに言う。

「後ろから全部見てたが、中々いい連携だったぞ。」

どうやらシルビアには全部の動きが見えていたらしい。

「ははっ、でも倒せたのはバロウのおかげだ!あの決定打を与えるすべを俺達は持っていなかったからね。ありがとう!バロウ。」

カイルがバロウにお礼をいいながら手を差し伸ばす。

「へへへ、俺のコレクションを全放出だ!武器達も喜んでるぜ。」

バロウが笑いながら立ち上がる。

「さて、もう一踏ん張りと行こうか!残党を殲滅する!」

ザールを打ち倒し、後方を振り返るとまだ戦闘は続いていた。カイルの掛け声で全員が最後の掃討戦に走り出した。
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