上 下
12 / 53
第一章 はじまりのダンジョン編

第十二話 新武将開放

しおりを挟む
カイルは後の先によりシェイドを打ち倒した。

いつものように魔石を回収しようとすると、魔石では無くカードが落ちている。

それを手に取り、見ると忍者っぽい格好をした男が描かれていた。
手は何かの印を作っているカードだった。

「忍者?なんでこんなものが。」

ボスからドロップした謎のカード。この世界には明らかに存在しないはずのものだった。
不思議に思って見ているとカードは光を放って消え去ってしまう。

[服部半蔵を入手しました]

いきなり目の前にウィンドウが現れ、更にその内容に驚いた。
どうやら新武将を入手したらしい。

「スキルオープン」

武士ウィンドウを確認すると先程のカードが下段に追加されている。武士スキルに新たな武将が開放されていた。

意識を向け、服部半蔵の説明画面を確認することにした。

服部半蔵はっとりはんぞう
固有スキル:分身の術
スキル:索敵、忍流短剣術
説明:伊賀の忍。徳川家に仕え、半蔵の名は世襲制のため複数の半蔵の逸話が服部半蔵の逸話として語られている。伊賀越えで大いに活躍する。

「ふむ、なるほど。服部半蔵ね。色々気になるが、シェイドはクラムが新たに作った魔獣と考えるべきだな。ーーーどうりであんな動きを。」

無限大を描くようなあの動き。思い当たるのは記憶を読まれた時の事だ。戦国武将に関すること以外にも色々見られたらしい。記憶をヒントに魔獣にギミックとして追加したと予想した。

「新武将は魔獣の姿をしているということか。そして、それを倒して集めろと。」

クラムは別れ際に強くなりたければカードを集めろと言っていた。
それがこのカードの事なのだろう。
クラムの意図は理解できた。しかし、今後出てくる魔獣にどんなギミックが仕込まれているかが不安で仕方が無かった。

他にどんな記憶を読まれたのか検討もつかないが人間離れした技なんてカイルの記憶にはいくらでもあったのだ。

「はぁー。遊び心にも程があるってもんだ」

そう思うとなんだか一気に疲れが襲ってきた。

「蘭丸、一旦帰ろうか。」

この階にはボス撃破後の宝箱は出現していないようだ。カードが報酬ということだと納得し、拠点に戻ることにした。

ーーーーーーーーーーーーー

ダンジョンを入り口に向かって戻って行き、いくつか戦闘がありながらもダンジョンの外に出た。

「蘭丸、晩飯を頼む!先に拠点に行ってるぞ。」

指示を出すと、蘭丸は勢いよく走り出して行った。

「ほんとに賢いな。助かるよ。」

走り去っていく蘭丸の背中に向かってお礼を言い、先に拠点に戻りまず火起こしをした。
ついでに火がついた木をいくつかアイテムボックスにいれる。
これで火起こしが格段と楽になるはずだ。

何回か出したり、しまったりしたが火はずっとついていた。ボックスの中は時間が止まっているようだ。

次に武器を出したりしまったりしてみる。
ふと思いつき、着ている具足をしまうイメージをしてみると、すっと着ていたはずの具足が消え去った。

次に着た状態で出すイメージをする。
今度はパッと着た状態で具足が現れた。

とんでもなく便利な仕組みだ。
この世界は色々なものがイメージと連動しているようだ。想像の力が色々可能性を広げているように思えた。

(逆に凝り固まった頭ではこの使い方に辿り着かないかもしれない。この世界では柔軟な発想力を持つことが重要なのか。)

そう思うとなんだかクラムの笑顔を思い出してしまう。

「まったく、クラムらしい世界だな。ははっ!」


そうこうしていると何かが走ってくる音が聞こえ蘭丸だとすぐに気づく。
蘭丸はリトルボアを咥えていた。

「今日もご苦労様。」

蘭丸の頭を撫でお礼を言い、川で洗いながら解体に取り掛かる。もはやこの作業にも慣れたものだ。

肉を焼き、晩御飯を堪能する。
今日はよく働いた。焼肉がいつも以上にうまく感じる。ふと隣を見ると蘭丸も満足しているようだ。   

「しいていうなら、やっぱり調味料がほしいかなぁ~。」

このままでも充分美味しかったがやはり前世の調味料が忘れられない。
あれがあればもっと美味しいと考えてしまうのだ。

ご飯を食べ、お腹も落ち着いたところで検証タイムに入ることにした。

「スキルオープン」

武士ウィンドウで服部半蔵を確認し

「セット 服部半蔵」
と唱えるとカードが服部半蔵に切り替わる。

~スキルウィンドウ~
スキル:槍術3、索敵、忍流短剣術1
固有スキル:武士、分身の術

「おっ、槍術が3に増えたか。索敵に短剣術。白光一閃突きが消えて、分身の術が追加か。なるほど。なるほど。」

どうやら武将の固有スキルはセット毎に変わるらしい。索敵はおそらく敵の場所がわかるのだろう。使ってみたが特に周りに魔獣はいない。

次に短剣を取り出し構えてみると、動きのイメージが頭に流れてくる。ここら辺は槍術の時と同じだ。

「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」

短剣を振り、動きを確かめた。
忍流なだけあって動きは回転斬りや回避斬りなど動き回る動作が多い。

「これはこれで中々いい。」

槍術とは違った戦い方が新鮮で楽しかった。

「最後はこれか。」

そう呟きながら、おもむろに手を重ね印を作る。

「分身の術」

スキルを唱えると真横にカイルの分身が出現した。やはり分身をするにはこのポーズは外せない。もちろん戦闘の時にこんなポーズをするつもりなどない。

このスキルでまず驚いたのは分身の目線が自分も見えるということだった。感覚共有というのだろうか。頭の中で別の視界が同時に情報化されている。

「これは驚いたな。ーーーだけど、ちょっと気持ち悪いな。これ。」

はじめての共感覚に酔いを覚えてしまう。

試しに分身だけを動かそうとすると思い通りに動き出す。だが、自分が動くとつられて分身も動き出してしまう。

「これは慣れるのに時間がかかりそうだ。」

すごいスキルだが一朝一夕にマスターできるようなものでもないらしい。

「分身は更にいけるのかな?」

ふとそう思い立ち、試してみることにする。

「分身の術」

すると2体目の分身は現れたが同時に強烈な頭痛がカイルを襲った。

「いたたたた!か、解除!解除ー!」

思わず頭を抱えながらも分身を解くと頭痛はすぐに治ったが、代償としてか全身にひどい倦怠感が残ってしまった。

「な、なんだこれ。情報過多で脳がパンクしたのか?それとも魔力切れ?」

とりあえず分身は一回までと心に決める。
こんな状態ではまともに戦うこともできない。
たまらずポーションを飲んでみると身体が楽になる。これはやはりすごい効果を持っていると改めて知る。

この世界にあるのかわからないがMPも回復する仕様なのかもしれない。

「うん、今日からこいつをエリクサーと呼ぼう。」

エリクサーを手にしながらふと思う。

(ここでしか手に入らないものかもしれないな。)

こんな効果の代物が世に出回っているはずがない。ダンジョン攻略するのに必要だとクラムが用意してくれた物な気がしている。

今の状況はカイルはアイテムボックスを手に入れている。持とうと思えばいくらでも持てる事にふと気づく。

「蘭丸、明日からはゴブリン退治だ!分身の練習も兼ねて集めまくるぞ!」

とりあえずダンジョン攻略は一旦休憩し、今後の備えに全力を注ぐことにする。

「備えあれば憂い無し!よーし、やるぞー!!」

蘭丸にもたれながら両手を伸ばし、カイルは新たな目標を定めやる気をみなぎらせた。


ーーーーーーーーーーーーー

あれから1ヶ月近く経過しただろうか。

カイルと蘭丸はダンジョン2階層でひたすらにゴブリンを狩り続けていた。

「ハッ!ハァ!ーーハッ!」

ゴブリンは分身を使い短剣で倒している。
分身の扱いは最初はかなり手こずったが、だいぶ慣れてきており、今では自分と分身を同時に操り戦う事ができるようにまでなっている。

忍流短剣術はスキルレベルが2に上がり、新たに動きのパターンも追加された。

エリクサーはもはや数えてすらいないが1日200本以上は集めている。5000は軽く超えているはずだ。これで当分困ることはないだろう。

拠点も大きな葉っぱとツルを組み合わせて簡易的な家を作り、色々と充実させた。
アイテムボックスの中が時間が停止していることも利用し、食料も毎日少しずつ蓄えていったお陰で今ではかなりの量になっている。
ちょっとした長旅もいける量だ。

いつものようにダンジョンを終え、日課の走り込みと筋トレ、槍術と短剣術の訓練をこなしてから
晩御飯を食べる。

「準備は万事整った。蘭丸、明日からダンジョン攻略の再会だ!」

この1ヶ月でやりたい準備は全てやった。
あとは一気にダンジョンを攻略するだけだと気合を入れ、蘭丸と簡易小屋の中で眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...