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彼女の残したわずかな手がかり
しおりを挟む「アビーー! どこなのーー!」
「アビゲイルーー!」
ミア、グレン、アインの三人に、この辺りの土地に詳しいからと道案内を名乗り出たマルコムを加え、四人は雨の降る山道を登っていた。近くには大きな川があり、雨で増水したらアビゲイルが危ないかもしれない。ざあざあと降る雨の音で声も少し聞こえ辛くなっており、四人の焦る気持ちを煽った。
「これでは、足跡などの痕跡もかき消されてしまいますね。体温も下がるし、崖下に落ちていたりしたら厄介だ」
アインがぼそりと呟いた。嫌な想像が、四人の頭をよぎる。
「過剰に心配しても仕方ない、今は探すしかないだろう。足をくじいて、どこかで雨宿りしているかもしれないな。そんな場所があれば優先的に探そう。崖下に降りて探すのは、明日の朝になってからの方がいい」
「でしたら、あちらの方に洞窟があります。少しルートからは外れますが、行ってみましょう」
マルコムが寒さで白くなった息を吐きながら、北の方を指差した。一行は頷いて、マルコムの後に続く。ふりしきる雨は徐々に強くなっていき、確実に捜索隊の体力を奪う。
「あら? あれは……」
ふと、道端でなにかキラリと光るものを見つけた気がして、ミアは走り寄った。泥で汚れているが、綺麗なガラス玉がついた髪飾りだ。ミアはそれを拾い上げて泥を落とし、皆に見せた。
「これ、アビーの持ち物ですよね? もしかしたらこの近くに居るのかもしれません」
「はい、これは確かにお嬢様のものです。落とすとしたら、何かあった時に違いないでしょう……。この辺りを少し手分けして探しませんか?」
「ええ、そうですね」
四人は、迷わないようにお互いの姿が見える程度に離れつつ、アビゲイルを大声で呼びながら辺りを探し回った。もうそろそろ、喉が枯れそうだ。アビゲイルがこの寒い中道に迷っているとしたら、体力の限界が近いかもしれない。
お願いだから、無事であってくれーーと、全員が思った、その時。
「ッぐあぁぁぁああ!!」
ミアの前方の少し離れたところにいたマルコムが、叫び声を発してその場に倒れた。
「え?! マルコムさん、大丈夫ですか?!」
マルコムの姿は、茂みの影に隠れて見えなくなった。ミアはあわてて、彼に走り寄ろうとする。
「ミア!! 駄目だ、逃げろ!!」
グレンはミアを大声で呼び止め、木々の合間を縫って走ってくる。グレンがこちらに向けて大きな跳躍をしたと思ったその瞬間、ミアは地面に押し倒され、グレンに抱えられたまま泥でぬかるんだ大地を転がった。
「いっ……たた……」
「走れミア、攻撃されている! アインと一緒に逃げろ!」
グレンはすぐに立ち上がり、素早く槍を抜いて臨戦態勢に入った。ミアを守るように立ち、辺りを警戒している。
「っ、グレンさん、それ……」
そして、グレンの肩にはーー何者かが放った矢が深々と突き刺さっていた。ミアを狙った矢を庇って、代わりに撃たれたようだ。
「俺は大丈夫だ。アイン! ミアを!」
「グレン団長! ミア様!」
アインが腰の短剣を抜いて駆け寄って来たのと同時に、茂みから見知らぬ男たちが飛び出してきた。
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んま、グレン様もアインも素敵です。
ミア様もずっと習慣になさると良いですわ‼️
健康的!
ミア様、寝不足のようですけど、大丈夫かしら?
グレンは睡眠時間短くても大丈夫そうですが、ミアは昼くらいには眠くなりそうですね!笑