上 下
48 / 48

彼女の残したわずかな手がかり

しおりを挟む

「アビーー! どこなのーー!」
「アビゲイルーー!」

 ミア、グレン、アインの三人に、この辺りの土地に詳しいからと道案内を名乗り出たマルコムを加え、四人は雨の降る山道を登っていた。近くには大きな川があり、雨で増水したらアビゲイルが危ないかもしれない。ざあざあと降る雨の音で声も少し聞こえ辛くなっており、四人の焦る気持ちを煽った。

「これでは、足跡などの痕跡もかき消されてしまいますね。体温も下がるし、崖下に落ちていたりしたら厄介だ」

 アインがぼそりと呟いた。嫌な想像が、四人の頭をよぎる。

「過剰に心配しても仕方ない、今は探すしかないだろう。足をくじいて、どこかで雨宿りしているかもしれないな。そんな場所があれば優先的に探そう。崖下に降りて探すのは、明日の朝になってからの方がいい」

「でしたら、あちらの方に洞窟があります。少しルートからは外れますが、行ってみましょう」

 マルコムが寒さで白くなった息を吐きながら、北の方を指差した。一行は頷いて、マルコムの後に続く。ふりしきる雨は徐々に強くなっていき、確実に捜索隊の体力を奪う。

「あら? あれは……」

 ふと、道端でなにかキラリと光るものを見つけた気がして、ミアは走り寄った。泥で汚れているが、綺麗なガラス玉がついた髪飾りだ。ミアはそれを拾い上げて泥を落とし、皆に見せた。
 
「これ、アビーの持ち物ですよね? もしかしたらこの近くに居るのかもしれません」

「はい、これは確かにお嬢様のものです。落とすとしたら、何かあった時に違いないでしょう……。この辺りを少し手分けして探しませんか?」

「ええ、そうですね」

 四人は、迷わないようにお互いの姿が見える程度に離れつつ、アビゲイルを大声で呼びながら辺りを探し回った。もうそろそろ、喉が枯れそうだ。アビゲイルがこの寒い中道に迷っているとしたら、体力の限界が近いかもしれない。

 お願いだから、無事であってくれーーと、全員が思った、その時。

「ッぐあぁぁぁああ!!」

 ミアの前方の少し離れたところにいたマルコムが、叫び声を発してその場に倒れた。

「え?! マルコムさん、大丈夫ですか?!」

 マルコムの姿は、茂みの影に隠れて見えなくなった。ミアはあわてて、彼に走り寄ろうとする。

「ミア!! 駄目だ、逃げろ!!」

 グレンはミアを大声で呼び止め、木々の合間を縫って走ってくる。グレンがこちらに向けて大きな跳躍をしたと思ったその瞬間、ミアは地面に押し倒され、グレンに抱えられたまま泥でぬかるんだ大地を転がった。

「いっ……たた……」

「走れミア、攻撃されている! アインと一緒に逃げろ!」

 グレンはすぐに立ち上がり、素早く槍を抜いて臨戦態勢に入った。ミアを守るように立ち、辺りを警戒している。

「っ、グレンさん、それ……」

 そして、グレンの肩にはーー何者かが放った矢が深々と突き刺さっていた。ミアを狙った矢を庇って、代わりに撃たれたようだ。

「俺は大丈夫だ。アイン! ミアを!」


「グレン団長! ミア様!」

 アインが腰の短剣を抜いて駆け寄って来たのと同時に、茂みから見知らぬ男たちが飛び出してきた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(17件)

RoseminK
2020.10.28 RoseminK

んま、グレン様もアインも素敵です。
ミア様もずっと習慣になさると良いですわ‼️
健康的!

解除
RoseminK
2020.10.26 RoseminK

ミア様、寝不足のようですけど、大丈夫かしら?

最上ケイ
2020.10.26 最上ケイ

グレンは睡眠時間短くても大丈夫そうですが、ミアは昼くらいには眠くなりそうですね!笑

解除
RoseminK
2020.10.24 RoseminK
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。