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グレンさんが訓練を見に来たようです
しおりを挟むそれからは、ミアとアビゲイルは毎朝兵士たちに混ざって訓練することが日課になった。毎朝剣を振り続けたら、ミアの剣を持つ姿勢も随分様になってきていた。
午後からはアビゲイルの勉強に付き合って、ミアも一緒に勉強したり本を読んだりした。アビゲイルも一緒にやる人がいると集中できるようで、いつもより真面目に机に向きあえているようだった。自分から勉強する娘の姿を見たバドラー伯は、たいそう感激してミアに何度もお礼を言ったのだった。
ある日の午前中、訓練をするミアたちのもとに、グレンとアインがやってきたことがあった。
「話では聞いていたが、結構本格的にやっているのだな」
「グレンさん! それに、アインさんも。今日も視察に行くと聞いていましたけれど、どうしたんですか?」
「手配していた迎えの馬車が遅れているようで、急に時間が空いた。ずっと兵舎にも行きたいと思っていたからこの機会にと思ってな。ミアの特訓の成果も見たい」
「そうでしたか。私の剣なんて、グレンさんに比べたらお遊びみたいなものなので、恥ずかしいですけど……」
「そんなことはない、誰でも初めは初心者だ」
「あっ、グレン様だー!!」
少し離れたところで教官と話していたアビゲイルがこちらに気付き、模造刀を持ってこちらに走ってきた。
……この光景はデジャヴだろうか? 見るからに、飛び掛かる気満々の態勢である。グレンはまたかとため息を付き、背中の槍に手をかけた。
しかし、その瞬間。アビゲイルの剣はグレンに届く前に、彼女の手から離れて宙に舞った。はたき落とされた剣は、くるくると空中で回転し地面に落ちる。
「同じ手をくわされるとは、思わないで頂きたい」
グレンの前に立ちはだかったのは、しかめっ面をしたアインだった。
「ちょっと! 邪魔しないでよ」
せっかく次は負けないようにしようと、色々作戦を立ててたに! と言ってアビゲイルは地団駄を踏んだ。
「初対面の時はまさか飛び掛かってくるとは思わず先手を取られましたが、二度目はありません」
「ボクはグレン様と戦いたいの! どいてよ!」
「私を倒してから、できるものならどうぞ」
アインが挑発するように鼻で笑ったので、アビゲイルは大声をあげながら落ちた剣を拾い、アインに切りかかった。アインは持っていた槍でなんなくそれを受け止めて、流れるような動作でいなす。グレンには及ばないとしても、彼もノラム公国の元騎士であり、その強さは申し分ない。
二人の剣と槍はぶつかり合い、カンカンという小気味のいい音が訓練場に響いた。
「わぁ、アインさんも凄いんですね」
「あいつは同じ年ごろの若手騎士の中では、一二を争う実力だったからな。ノラム公国では槍を使う習慣があるんだが、剣より射程が長いから、アビゲイルにとっては戦いづらいだろう」
「そうなんですか。武器によっても違うんですね」
二人の攻防を見ていた兵士たちが近寄ってきた。アインの槍術を興味深そうに見ながら、自分だったらこう戦う、などと意見を交わし合っている。グレンもそこに加わり、槍に相対した時の戦術についてアドバイスを始めた。兵士たちもグレンの話を興味深そうに聞いている。
「グレン様、俺とも手合わせをしていただけませんでしょうか!」
腕に自信のある兵士がそう言い出すと、俺も俺も、と続けざまに何人かが立候補する。
「いいだろう。まとめてかかってこい」
グレンは背中に差した槍を抜いて、そう言った。
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