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昨日の悪夢は再び
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謝罪のくだりを静観していたヘンリーが口を挟んだ。
「ええ。ヘンリー様、あなたは昔から王位を継ぎたくないと、継ぐべきは自分ではないと仰っていたでしょう?」
「そうだね。その話で、どうしても王妃になりたい君とはぶつかった事もあったね」
それが話にどんな関係が? とヘンリーは首をかしげる。
「だから、わたくしとグレン王子が婚約すれば良いと思いますの!」
……はい????
エルザの発言に、その場にいた全員の目が点になった。
「グレン様が国王となり、わたくしが王妃となる。そうすればヘンリー様の王位を継ぎたくないという我儘も叶いますわ。新しい婚約者に、わたくしの従姉妹を紹介するから安心してくださいね。グレン様も、ミアさんより家柄も器量もいいわたくしと婚約した方がいいでしょう?」
ーー突っ込みどころが多すぎて、誰もが呆然として動かない。昨日の今日で、良くここまでの掌返しができたものだ。
ね? と小首を傾げながら、彼女はグレンの手を握ろうとしたが、グレンは汚いものを避けるように一歩後ずさってそれを避けた。
「お前は馬鹿なのか? それで俺たちが受け入れると本気で思っているなら大したものだ」
「器量がいいとか自分で言っちゃうんだ……」
あまりにも自己中心的な発想に、グレンとヘンリーは本気で引いている。
「いくらなんでもそれは流石に……」
ミアも苦笑いしながら苦言を呈した。エルザの案だと、ミアはただの婚約破棄され損である。
「俺がお前と婚約することは絶対にない。俺はミアと婚約するか、誰とも婚約しないかどちらかだ。分かったら帰れ、朝から最悪の気分だ」
グレンは有無を言わせない迫力でエルザを睨む。
「っ、なぁに? そんな脅し効かないわ。わたくしはマルドゥック家の長女よ?! その方が絶対に良いって分からないの?」
「全く分からないな、反吐が出る。それにお前が俺と婚約などできるはずが無い」
「それならご心配なく。十分できますわよ? 見た目麗しいグレン様とわたくしなら、お似合いだと思いますの」
エルザは自信満々に言い放つ。
グレンは黙って革手袋を取り、傷痕の残る手を見せつけた。
それを見たエルザはのけ反って、小さな悲鳴をあげる。
「嫌ッ……なんておぞましいの」
「手だけじゃ無いぞ、背中も腹も傷がある。ノラム公国に追放されたおかげで随分苦労してな。……その件はマルドゥック家のお前なら、何か心当たりがあるんじゃないのか?」
その言葉に、エルザは目に見えて動揺した。
「し、知らないわ。言いがかりよ。意味が分からない」
「色々と汚い手を使ってきたのに、今更王妃になれない可能性が出て来たからと焦っているのか? 残念だったな、下衆め」
「なんですってッ?!」
怒りに任せてグレンに掴みかかろうとしたエルザの手を、静観していたアインが掴んでねじり上げた。鋭い痛みに、エルザは悲鳴を上げる。
「我が主に手を触れないで頂きたい」
「何よあんたッ! 平民風情がわたくしにさわらないで、この手を離しなさい!!」
「グレン様から離れて下されば、すぐにでも」
「ヘンリー! こいつに罰を与えて! あなたの婚約者に手を出したのよ?!」
ヘンリーはアインを手で制し、鬼の形相で醜くわめくエルザを開放させた。
そして、悲しそうな目で問いかける、
「そうやってまた、自分勝手に癇癪をおこして、昨日と全く同じ展開じゃないか。なんで学習できないの? これ以上恥をかかせるなら、本気で婚約破棄も検討させて欲しい」
その言葉に、エルザは顔面蒼白になる。今までヘンリーの優しさに甘えて好き勝手して来た彼女も、こうはっきりと釘を刺されたのは初めてだった。
「そんな……そんなこと……」
エルザはがっくりとうなだれて、その場にへなへなとしゃがみ込んだ。
「ええ。ヘンリー様、あなたは昔から王位を継ぎたくないと、継ぐべきは自分ではないと仰っていたでしょう?」
「そうだね。その話で、どうしても王妃になりたい君とはぶつかった事もあったね」
それが話にどんな関係が? とヘンリーは首をかしげる。
「だから、わたくしとグレン王子が婚約すれば良いと思いますの!」
……はい????
エルザの発言に、その場にいた全員の目が点になった。
「グレン様が国王となり、わたくしが王妃となる。そうすればヘンリー様の王位を継ぎたくないという我儘も叶いますわ。新しい婚約者に、わたくしの従姉妹を紹介するから安心してくださいね。グレン様も、ミアさんより家柄も器量もいいわたくしと婚約した方がいいでしょう?」
ーー突っ込みどころが多すぎて、誰もが呆然として動かない。昨日の今日で、良くここまでの掌返しができたものだ。
ね? と小首を傾げながら、彼女はグレンの手を握ろうとしたが、グレンは汚いものを避けるように一歩後ずさってそれを避けた。
「お前は馬鹿なのか? それで俺たちが受け入れると本気で思っているなら大したものだ」
「器量がいいとか自分で言っちゃうんだ……」
あまりにも自己中心的な発想に、グレンとヘンリーは本気で引いている。
「いくらなんでもそれは流石に……」
ミアも苦笑いしながら苦言を呈した。エルザの案だと、ミアはただの婚約破棄され損である。
「俺がお前と婚約することは絶対にない。俺はミアと婚約するか、誰とも婚約しないかどちらかだ。分かったら帰れ、朝から最悪の気分だ」
グレンは有無を言わせない迫力でエルザを睨む。
「っ、なぁに? そんな脅し効かないわ。わたくしはマルドゥック家の長女よ?! その方が絶対に良いって分からないの?」
「全く分からないな、反吐が出る。それにお前が俺と婚約などできるはずが無い」
「それならご心配なく。十分できますわよ? 見た目麗しいグレン様とわたくしなら、お似合いだと思いますの」
エルザは自信満々に言い放つ。
グレンは黙って革手袋を取り、傷痕の残る手を見せつけた。
それを見たエルザはのけ反って、小さな悲鳴をあげる。
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「手だけじゃ無いぞ、背中も腹も傷がある。ノラム公国に追放されたおかげで随分苦労してな。……その件はマルドゥック家のお前なら、何か心当たりがあるんじゃないのか?」
その言葉に、エルザは目に見えて動揺した。
「し、知らないわ。言いがかりよ。意味が分からない」
「色々と汚い手を使ってきたのに、今更王妃になれない可能性が出て来たからと焦っているのか? 残念だったな、下衆め」
「なんですってッ?!」
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