異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ

文字の大きさ
上 下
16 / 40

許さない

しおりを挟む
 こんなところで魔法が…………………。
『ショッピングモールで爆発事故』そういえば真守がこんな事言ってたな。
 原因不明の爆発で色々な噂がされていると聞いた。
 もしかしたらその事故───いや事件を起こした犯人だったりしないよな。

 とにかく暗すぎる。
 これじゃあまともに歩けない。

 俺はポケットからスマホを取り出し、足元を照らす。

 冷静な人達は早くも警察に電話をし始めていた。

「痛ッ」

「大丈夫か、リーシャ」

 全員が冷静に状況を見れている訳もなく、完全にパニックになって、逃げようと走り回る人達もいる。
 その人達がリーシャにぶつかったのだ。

 俺はリーシャを自分の元に寄せ、出来るかだけぶつからないようにした。
 距離感でいうとほとんどハグしているようなものだ。

「悪いなリーシャ、少しの間我慢しててくれ」

「べ、別に嫌じゃありませんよ………………」

「そ、そうか。それなら良かった」

なんだかちょっと照れくさいな。

「逃がさねぇよ!!」

 そんな声が聞こえた後、ドォォォン───!!とまたしても爆発音が鳴り響く。

 出入り口辺りから聞こえたので、逃げられないように爆発させたのだろう。

 やはり、俺みたいに魔法が使えるやつが関わっているようだ。

 とにかくパニックになっている今の状況はよくない。

 もし爆発で出入り口を塞がれているのなら、俺の魔法で瓦礫を壊せば問題なく出れる。

 だがそこまでどうやって行くかだ。
 何度か起きた爆発によって発生した炎でショッピングモール内は少し照らされていて数メートル先までは普通に見えている状態だ。
 集団で動けば、確実にバレる。
 それに向こうが持ってるスキルが分からない以上、下手に動くのは自殺行為だ。
 戦っても勝てる確証は無いし、どうすればいいだろうか。

「リーシャ、この爆発がなんの魔法か分かるか?」

「そうですね……………おそらく火属性上位魔法、<業火爆発《ジラスト》>です。相当威力を抑えて放っているみたいですけど」

「抑えなかったとしたらどうなる?」

「………………このショッピングモールくらいなら簡単に吹き飛ばせます」

 緊張の表情を見せそう言うリーシャ。

「マジかよ……………」

 だがこれで相手は<火魔法>を持っている事が分かった。
 それにスキルのLvも4以上あるという事も。

 あれ?俺より強い気がするんだが………………。

 予想以上に厄介だ。

「聞け貴様ら!」

 その声に引っ張られ、俺含め全員がショッピングモールの真ん中に目を向けた。

 そこには一人の男が浮かんでいた。

 今なら攻撃できる───がやめた方が良いだろうな。
 相手を刺激するのは良くない。
 特にこういうことするような奴は何するか分からないからな。

「俺はお前達を殺そうと思えば、いつでも殺せる。死にたくないなら言う事を聞け」

 宙に浮かべる人間なんて普通は存在しない。
 それは誰しもがわかる事だ。
 ほとんどの人は壊れた人形かのように首を縦に振った。

「簡単に殺せるだと?ふざけるな!さっさと俺達をここから出せ」
「そうだ!ふざけた事言ってないで解放しろ!」

 一定数反抗の態度を見せる者もいる。

「黙れ!」

 宙に浮くその男は反抗する人に向け、ギリギリ当たらないように<│火の玉《ファイアーボール》>を打った。
 魔法を放つ様子を目の前で見た人達は固まり、誰も反抗することは無くなった。

「今すぐショッピングモールの中央に来い。逃げようとしたら殺す」

 俺含め全員、男の指示に従い、ショッピングモールの中央に集まった。
 男は不気味な笑みを浮かべた状態で俺達を見渡していた。

 だが何か要求がある訳でもなく、ただただ時間が過ぎるばかりだ。

「おい、何が目的なんだ!」

 痺れを切らしたある人がそう言った。

「まあまあそう焦るな。寿

 狂気に満ちた笑顔を向ける男。
 それを見て、その人は完全に口を閉ざしてしまった。

 しばらく何も無く待っていると、外からパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
 不思議と心に安堵感を感じたが、出入り口を塞がれている状態なので、ほとんど意味が無い。

「役者が揃ったみてぇだなぁ」

 空宙に仰向けで寝転んでいた男がそう言った。

「今から俺の目的を言う。それは………………このショッピングモールを完全に吹き飛ばす事だ!ヒャヒャヒャヒャヒャ」

 不気味な笑い声と共に意味のわからない事を言い出す男。

「ふざけるな!指示を聞いてたら殺さないんじゃなかったのか!」

「おいおい、ほんとにその言葉を鵜呑みにしてたのかよ。甘いヤツだなぁ」

「し、死にたくない…………」
「イヤーーーーー!!」
「助けてくれ!!」

 出れるはずもない出口に必死になって走っていく人達。

「良いね良いね!もっと怖がれ!もっと怯えろ!その姿を見ただけで俺は……………!!」

 そう言う男の顔はあの新人狩りを彷彿とさせる狂気の目───人殺しを楽しんでいる───人間の目をしていた。

「アマネさん!」

「リーシャ!……………くそっ邪魔だ!」

 逃げ惑う人達に押され、リーシャとの距離が離れていく。
 俺は人混みをかき分け、逆方向に歩みを進めていく。
 あまりの人の多さに中々足を進められない。押し戻されてはまた進むの繰り返しで止まっているように感じてしまう。

 やっとの思いで人混みを抜けた時、俺は信じられない光景を目にした。

「ア、アマネさん……………助け……………」

「何で助けを求める?君は俺が持って帰るって言ったじゃねぇか」

「何してんだお前………………」

 男がリーシャの首に手を回し、がっしりと摘み、逃げられないようにしていた。

「何って…………可愛がってるだけだぜ」

 男はリーシャをぎゅっと抱きしめる。

「離れろ……………」

「えっ?何て?」

「離れろって言ってんだろ!」

「何だとてめぇ!そんな口聞いていいと思ってんのか!こいつの命は俺が握ってんだぞ!」

 男は手のひらに炎を浮かべ、リーシャの顔に近づけた。

「お前が何もしなければ、こいつだけは助けてやる。俺が持ち帰って毎晩可愛がってやるよ!安心しろよな……………」

 この男がリーシャになるをするつもりなのか、嫌という程、簡単に想像出来た。

「ふざけるな………………」

 俺は誰にも聞こえない声でそう漏らした。
 心の中でとどめるはずだった言葉が意図せず口から飛び出した。

「アマネ……………さん?」

 リーシャは自分じゃこの男に勝てないとわかったのだろう、だから抵抗しない。
 全身がブルブルと震え、怯えていた。

 ───許さない。

 俺の中で何かが切れる音がした。
 煮えたぎる怒りの炎が全身を焼いていく。
 何も考えられなくなっていた、周りの人の危険も被害の拡大も、全てどうでも良くなっていた。


 ───リーシャを助けないと。


 彼女だけは絶対に傷つけてはいけない。
 それだけが今の自分の唯一の支えだった。


「お前だけは絶対に許さない」

 <炎の魔眼>

 男の着ている服に漆黒の炎が現れた。
 それは瞬く間に全身に広がり、男だけを燃やし始めた。

「アッッッッチィィィィィーー!!」

 男は直ぐにリーシャから離れ、床を転がり出した。

「て、てめぇもか………………業火《ジラ》───グハッ!」

 俺は男が魔法を唱える前に腹を蹴りあげた。

 何だ、この違和感は………………手応えをあまり感じない。
 さっきから男の体は燃えているはずなのに、弱っている様子もない。

 まさか───。

「お前、回復してるな」

「……………ヘッ、もうバレちまったか……………そうだぜ、俺は固有スキル<超速再生>を持ってる……………。どれだけ燃やそうが……………俺は死なねぇ」

 感覚が麻痺してきたのか、我慢しているのか知らないが、ゆっくりと地面から立ち上がる男。

「まずは邪魔なお前を殺してやるよ!」

 不敵な笑みを浮かべた男がそう言った。

「飛行」

「飛ばさせるわけないだろ。束縛の呪いバインド

 宙に浮かぼうとする男を影が引っ張り、それを阻止する。

「何だこれ!?」

 俺は男の顔面に全力の右ストレートを食らわせる。

 吹き飛んだ男に向かいさらに間合いを詰める。

「業火爆発《ジラスト》!」

 俺の足元が赤く光だし、小さな爆発が起きた。

 後ろに飛びそれを回避した俺は爆発で出来た噴煙を利用し、隠れながら一気に間合いを詰めた。

 男の顔面に膝をねじ込ませる。

「ガバッ───」

 男は後ろに体勢を崩しす、が倒れきる直前で耐え、その反動を利用し、俺に頭突きを入れてきた。

 視界が一瞬クラっとし、俺はフラフラと後ろに下がる。

火の玉ファイアーボール

 その隙に男は火の玉を放つ。

「アマネさん!」

「ブレード」

 俺は漆黒の刀を手に取り、防御する。

「見た事ねぇ魔法だな……………」

 俺が殴ってつけた男の顔の傷はすでに完治していた。

 回復がめんどくさいな。
 長期戦は不利だ。

 俺は再度、男に向かって間合いを詰めに走り出す。

 男は火魔法を連続で打ち続け、俺の行く手を阻もうとする。

「業火爆発《ジラスト》」

 俺の頭上にある廊下を爆発させ、瓦礫を落としてきた。

氷の盾アイスシールド。アマネさんもっと近づいてください。庇いきれなくなります!」

 リーシャが間に入ってき、ドーム状の氷のシールドを展開した。

 瓦礫が完全に落ちきり、噴煙が巻き起こる。

「俺に反抗するからこうなるんだよ!」

 勝った気でいる男の声が瓦礫の隙間から微かに聞こえてきた。

「リーシャ、ありがと。じゃあ出るぞ」

「はい……………」

 重い瓦礫を完全に防いだリーシャの顔には疲れが見えていた。
   相当無理して魔法を使ったのだろう。

漆黒の炎シャドウフレイム

 周りの瓦礫に引火させ、一気に燃やして消し去った。

 <魔眼>で男の場所を把握した俺はその場に立ち止まる。

「ハンドガン」

 俺の右手に漆黒の拳銃が現れた。

 刀と同じように作った武器だ。
 弾丸も全て魔法で、発砲音も出ない。
 相手が見えない状態なら、回避は不可能だ。

 俺は拳銃の引き金を容赦なく引いた。

「ゲハッ───」

 そんな声が男から漏れる。

 心臓は外したが、貫通はしているはず。
 それに弾丸は消えない炎だ。
 内部の傷を治すのは相当厳しいだろう。

 俺は男の方へと歩みを進める。

 噴煙が落ち着き、お互いの姿が見えた時、男は一瞬、顔を引き攣った。

「無傷かよ……………しかもなんだこれは…………治らねぇ」

「諦めろ。その炎はお前じゃ消せない」

「そうかもな……………でもお前を殺せば問題ないはずだ!」

「今更何が出来る?」

「俺の目的を忘れたのか?」

「…………………っ!?アマネさん早くここから逃げましょう!!」

 そう言いリーシャは俺の腕を引っ張り出口の方へと歩みを進める。

「急にどうした?」

「あの人は最大出力の業火爆発《ジラスト》を放つつもりです!!」

 っ!?

 俺はリーシャの言葉を聞いて、もう一度男の方に振り向く。
 男は勝ちを確信したような不気味な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...