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火輪

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娘 2

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身ごもったマリーンを後宮に置いておくわけには行かない。
早急に宿下がりとなるところを王太子が二妃に懇願した。
せめて身二つとなり、産後の体調が回復するまで王宮で面倒を見たいと。
その願いが聞き届けられ、マリーンは王宮の片隅にある離れの家で出産をすることになった。
それを後に悔やむ事になろうとは夢にも思わなかった。
あの時さっさと王宮から出していれば、マリーン母子は今も穏やかに暮らしていたのだろうか…。

マリーンが出産したのは皮肉にも王太子とアナベルの婚礼の日だった。
王都中の祝福の歓声の中で、淋しい離れの屋敷でひっそりと産み落とされた赤ん坊は王家直系の青味がかった銀髪の女児だった。
この事によりマリーンと赤児は王宮より出る事は叶わなくなった。たとえ赤児の瞳が魔素を持たぬ灰色であろうとも。

マリーンの産んだ赤児はミラルカと名付けられる。
王太子の第一子である事は伏せられ、王陛下の十三番目の子で第八王女となった。

王女という身分であるのに誰にも顧みられる事なく粗末な離れの家で母娘は暮らしていた。
その場所に王太子は訪れていた。
頻繁ではないもののこれ程の期間があればいくら気をつけていても気づかれてしまったのだろう。
マリーンとミラルカは毒を盛られた。
おそらく命じたのはアナベル。
今は妻となったアナベルの性格はいやと言うほど理解している王太子だ。
もちろんアナベルの所業は許しがたい。だが、王太子は自分の立場も理解していた。今回の件でアナベルを問い質す事は出来ない。

「マリーン……」

王太子は失われた愛しい者の名を呟いた。
先程話会った自分とマリーンの娘。
何度かマリーンにミラルカの事を話されていたが、正直に言えばほとんど興味が無かった。
厄介な髪色で産まれた無能の娘。

けれども教師をつける事を約束した時のミラルカの笑顔は、マリーンにとても似ていた。
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