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第二章

私達らしさ K/S

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「──────血、飲まされたぁ!怖かった・・・怖かったの!」


 起きたばかりの耳に届いたのは、お兄ちゃんの悲しい嗚咽混じりの声だった。血を飲まされたと言うのを聞いて、思わず肩がビクリと揺れた。

 そんな事があっただなんて知らなくかったから、今すぐ謝りたくて立とうとするとお母様に引き止められた。起きていた事にびっくりと共に、何故止めたのか分からなかった。

 お兄ちゃんは私達にこの話を聞かせたくないらしい。さっき言ってたって。だから寝ているフリをして聞くしかないと言われた。

 そっとお母様の指が、私の唇に置かれた。

 上がりそうになった声を飲み込んで、気付いたら流れていた涙を拭いた。私とお母様は、お兄ちゃんの話を息を殺しながら静かに聞いた。

 なんでもっと寄り添う事が出来なかったのか、常日頃から気に掛けていれたのならばと後悔が渦巻いた。そしてお兄ちゃんが泣いている所を久しぶりに見たと思った。

 お兄ちゃんは強いけど強くなんかない。もちろん私も。・・・ただ感情を表に出さないで取り繕う事が可能なだけ。

 お父様とお母様に似てしまって、お兄ちゃんと私も気が付いたら一人で解決しようとしている事が殆どだ。お父様とお母様は手を取り合う事が出来るけれど、私とお兄ちゃんは自分がやれば良いと思ってしまう。

 ずっと一緒に居るから、いや、小さな頃はずっと一緒に居たから分かっていたのに。

 最近は自分の研究で忙しかったし、お兄ちゃんは騎士団の仕事で忙しいから、邪魔に思われると考えて行こうとしなかった。

 その行動の結果、今回お兄ちゃんに溜め込む様な事をさせてしまったのだ。気が付けなかった私の責任だ。

 自分への苛立ちで手を強く握ると、お母様に包まれた。・・・やっぱり私は役立たずだ。誰かが居るから存在出来る弱い私。

 ねぇお兄ちゃん。

 お母様とお父様といっぱいいっぱい泣いたら、面白い話をたくさんしよう。離れていた時の事全部話そう。それで、ずーっと楽しく過ごそう。たくさん笑って、お兄ちゃんを笑顔にしてあげる。

 だって、いっぱい笑えるって、私っぽいでしょ?

 誰かが私を批難するかもしれない。それでもたくさん笑うんだ。私が一番得意な事だから。お兄ちゃんみたいに、一生懸命やるんだ。

 笑顔が素敵でいつも明るくて可愛い、それが私。これからもそんな私で在り続けよう。きっと誰かを救う事が出来るのだから。大丈夫、だって私は無敵だもの。・・・お父様とお母様の子供で、お兄ちゃんの妹だもの。

 だから今は、いっぱい泣いちゃおう。

 いつも頑張ってる、私達へのご褒美だから──────


 ―――


 大神官様に許可を貰ったので、家で療養する事になった。

 お父様の魔法で転移!あっという間に家に着いて使用人に挨拶をした。部屋に行って色んな事話そうと思ったら。


「レリィ、行こうか・・・」

「うん、父上・・・───っあ」


 床に膝を着きそうになるお兄ちゃんを間一髪で支えたが、全員の感情はこの世の終わりだ。その中には私も含まれている。

 だってこの世の終わりと言っても過言ではないの。

 お兄ちゃんが、お兄ちゃんが歩けないんだから。


「お母様!」

「えぇ!行くわよ!」


「「──────大神官様!」」

「・・・・・・っ、何かございましたか・・・?」


 本を読んでいた大神官様に突撃訪問してお兄ちゃんの状況を話した。・・・寸劇をして。私がお兄ちゃん役、お母様がお父様役となっての迫真の演技。

 何処かからやって来たスポットライトを浴びながら、お母様が最後の台詞を口にした。


「あぁ!この世の終わりだわぁ!」

「・・・はい。・・・筋肉の衰えは回復させる事が出来ません。毎日少しずつリハビリを進めて下さい。無理のないようにお願い致します。また、痛み等の症状が出た場合は私の所までお越し下さい。」


 大神官様がそのスポットライトは何処から来たんだと言いたそうだけど、ちょっと引き気味な気がするけど!

 最後には拍手とお礼を贈ってくれたし、やっぱり優しいなぁ!


「「あしゃーした!!!」」


 ねぇ大神官様・・・ねぇ、みんな・・・!

 コレって──────

 すっごく私達らしくて、いいでしょう?


 
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