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第一章

違和感 B/S

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 小さな違和感が大きな違和感に変わった。

 可笑しい、可笑し過ぎる。


 どうして騎士団の人を見てレイピアを落としたんだ。俺の名前だけ呼んで固まったんだ。どうして呼んでもコッチを向かないんだ。

 可笑しい。

 そして今、違和感が、確信へと変わった。


「───もぉおう!ライト様!ライト様!聞いてますか?!何回呼んだら」

「っお前・・・・・・誰、だ?」


 日課になった打ち合いをしていて、休憩をしていた。ジーッと、ライト様は何かを見つめていた。

 何度も名前を呼ぶのに、騎士団全員が気が付くくらい呼ぶのに反応が無いから肩を叩いて呼んだ。

 その手は無慈悲に叩き払われ、名を問われた。

 そう、今、確信となったのだ。


「ハハハ・・・ライト様?何、言ってるんですか?冗談にしては太刀が、悪すぎですよ?ねぇ・・・ライト様?」

「・・・すまない、冗談だ・・・っお前の事は、よく、知っている。分かってるから、大丈夫だ・・・大丈夫だ・・・」

「ライト様・・・俺の名前は分かりますか?分かりますよ、ねぇ・・・?ねぇ・・・!ライト様!ライト様ぁ!嘘ですよね?」


 嘘だ、嘘でしょうライト様?嘘って言って下さいよ。

 ライト様、何処を見ているんですか?俺を見ているのに、俺を見ていない。嘘なんて言わないで下さいよ。

 俺の名前を呼んで。じゃないと・・・もう信じれないです。なんで何も言わないのですか?貴方の大丈夫を信じられないです・・・。

 どうして・・・?嘘だ、嘘だ・・・コレは夢なんだ。全部嘘だ。だから、希望を下さい。嘘でも良いから否定して下さい。

 俺の名前を呼んで。お願い、ライト様。


「ライト様!」

「わすれ、ちゃった・・・お前の事は知っているんだ・・・でも、思い出せない・・・本当だ!お前の事は知っている!だけど・・・!」

「分からない、の、ですか・・・?」

「俺は・・・お前が誰か分からない・・・!お前との記憶が無い!ある筈なのに無いんだ!他の奴も全員そうだ!こうやって目の前にあるのに、無い、無いんだ!」


 嘘、嘘だよ。俺らの事忘れてしまったのですか?本当の本当に?

 嫌だ、嘘だと言ってくれ。

 でも、何年も一緒に居るから、嘘じゃ無いって、分かっちゃうけど。それでも嫌なんだ。


「っ・・・自分の事と・・・家族の事は・・・?」

「俺はお前にライトって呼ばれる。家族は居た。俺は・・・・・・誰かのために、何かをやろうとした。もう、それしか分からない。」

「あ、あぁ・・・ライト様、俺、何すれば良いか分からないです・・・」

「──────っ俺の方が分からないに決まってる!お前は誰だ!お前らは誰なんだ!俺は一体誰なんだ!!!」


 やだやだやだやだやだやだ!

 聞きたくない聞きたくない!

 もうこれ以上言わないで欲しい!こんなモノだったのならば、確信なんて必要無い!誰か止めてくれ!

 そう願うのに何も変わらない。目の前に在るのは事実で、夢なんかじゃ無いから。そして願って居る事は、唯の現実逃避に過ぎない価値の無いモノなのだから。


「誰なんだ!」

 やめて!

「誰なんだ!」

「っレリィ!」

「誰な───・・・・・・」


 なんで・・・なんでココに公爵様が・・・。疑問で頭が染まるが、大きな声で現実に戻される。


「公爵様・・・」

「今すぐ大神官を呼べ!」


 公爵様は駆けて行った。ストラード様も共に走って行った。俺は、何も出来ない。


「ああああああああああああああああぁぁぁ!」


 信じるしか無いのに、信じられない。信じたくない。嫌だ嫌だと心が拒絶する。何も出来なかった自分が憎くて唇を噛み締める。

 血が出て来て痛むのだから、絶対に現実だ。

 俺とライト様の過ごした時が、ライト様にとって無いものならば、俺はどうやって生きて行けば良い?


「──────止めて下さい・・・」


 歯と歯の間に、指を入れられる。そうされれば噛む事は出来ない。この心地良い声は、勿論イリナードで。辛そうな顔と目があった。

 諭す様に優しく、でもしっかり目を見て言われた。


「今は団長も副団長も居ません。・・・何も、言わなくて良いのですか?今は貴方しか居ないんです・・・。」

「ぃふふーと・・・はひはほぅ・・・」

「・・・え?」

「はひはほぅ・・・ふぇ、はふひへふへふ?」


 俺にしか出来ない事が目の前にある。それに気付けなかった自分が恥ずかしいが、今はやるだけだ。そう決めた。

 のに。イリナードの手のせいで言えないから外してくれないかと問うのに、ん?と見てくる。仕方ないので震えて上手く動かない手をイリナードの手に乗せた。


「ふぇ、はふひへ?」

「あ!す、すみません!」


 素早く手を離してくれたのでお礼を言って皆に言う。ハッキリと通る声でしっかりと。


「先程、俺たちは決して何も見ていない・・・分かったな?」

「・・・返事を」

「「「はい!」」」


 俺は独りぼっちじゃ出来ない事が多い。でも、俺は独りぼっちなんかじゃない。

 仲間が居て、友達が居て、尊敬する人が居て、主が居て、親友が居て・・・、好きな人が居る、大切な人が居る。

 だから出来る事が在る。

 今だって、独りぼっちじゃ無い。

 こうやって、目の前に手を差し伸べてくれる人だって居る。手を差し伸べてくれた人だって居た。その人のために、誰かのためにやろう。

 都合の悪い事は、一度無視をして。
 

 
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