51 / 66
三章〜神龍伝説爆誕!〜
50話「神龍、悪魔と邂逅する!」
しおりを挟む——【妖物のダンジョン】九階層ボス部屋。
部屋の中央に突如出現した先の見えぬ空間の切れ目。存在しているだけで不安を煽り、恐怖を与えるそれはさながら冥府への扉にすら感じてしまう。
「なんだ⋯⋯これは?」
「なに? 鬼龍、貴様の仕業ではないのか?」
空間の切れ目と同時に動揺が走った鬼龍。それを見た流はこの異形が鬼龍のものではないと判断し攻撃を中断した。
「こんなモノ余は知らぬ。付け加えるなら、余の配下にもこの様なモノを作り出す様な力は無い」
「⋯⋯主の言う通りです。私は神龍のモノだと考えたのですが?」
「期待に応えられなくて残念だが、我はあの様な力の使い方はしないな」
力技で無理に空間を捻じ曲げ、抉じ開ける。そう言った芸当を流はあまり好みではなかった⋯⋯無論、「しない」と言ってるだけで「できない」とは言っていない。
「じゃあさ~⋯⋯誰の仕業?」
流でもなければ鬼龍、そして鬼龍の配下の仕業では無いことが判明した中で紅桜が疑問を投げかけた。
だが、それはつまり答えが出てる様なものであった。
「それは——」
「当然——」
「君たちの敵だよ」
「「っ!?」」
臨戦態勢に入る鬼龍と流を肯定するかの様に空間の切れ目から子供の——男の子の声が発せられた。
「やあやあ、待たせてしまったみたいだね」
空間の切れ目に両手の五指が掛かりバキバキと歪みを広げていく。その大きさは徐々に広がりようやく終わりを迎えた頃には数メートルに達していた。
最初に姿を見せたのは鈍く黒光りする鱗で覆われた巨体に畝る尾、更には背中から伸びる大きな両翼。その姿は紛れもなく東洋の竜そのものである。だが、それは一点だけ大きく異なっていた——
「「グルアアアアアアアアァァッッ!!」」
二つに分かれた首から二つの頭。そう、一つの体に二つの顔を持つ多頭の竜であったのだ。
そして、その背に跨る一つの人影。紛れもなく、この竜の主人であり、鬼龍と流に答えた人物は——
「僕の名前はウァラク。魔王の配下と言えば分かりやすいかな?」
どこにでも居そうな普通の男の子であった。
竜とは対照的な純白の服に身を包み、背中には矢筒と弓を、片手には一本の槍を持っている。そして、服同様に汚れを知らない真っ白な羽を生やしている以外は。
「僕はね、僕のご主人様を脅かす存在を消しに来たんだよ」
誰からも愛されそうな純白の少年は誰でも殺してしまいそうな悪魔の笑みを浮かべていた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「ウァラク? それに魔王の配下だと?」
ウァラクの自己紹介に聞き逃せないワードに反応する流。
腐っても日本のギルドマスターの地位に居座る。巫山戯ているが日本最強を肩書きにしているのは伊達ではない。
「【魔王】は我々【人類】の最終討伐対象⋯⋯逆に言えば、貴様等にとっては我々が討伐対象。なるほど、確かに敵同士であるな」
「話が早くて助かるよ。僕は長話するのが好きじゃなくてね。あ、でも短気ってことでもないんだよ? 長々話してるのは疲れるんだよね~ってことさ!」
どこか言い訳じみた言い方で弁明するウァラク。その姿はどこにでも居る普通の少年と変わりない。
「ま、さっさと始めちゃいたいんだけど⋯⋯どうするの?」
「どうする、とは?」
「え? だってそっちは二人いるでしょ? 僕は君たち二人共が対象だからね。どっちも消す必要があるんだよ」
「「⋯⋯」」
ウァラクの言い分に無言になる鬼龍と流。だが、それも仕方ないだろう。年端もいかない外見の少年に「めんどくさいから二人共相手してやるよ」と挑発されているようなものなのだから。
「ゆ、ユウちゃ~ん?」
「⋯⋯主?」
心配そうに声をかける二振りの刀。幸か不幸か、刀の持ち主は口元をヒクつかせていた。
「⋯⋯なあ、神龍よ。一つ提案があるのだが?」
「鬼龍、貴様もか? 丁度、我も一つだけ聞きたいことがあったのだ」
「確かに奇遇だな。では⋯⋯同時に言ってみるのも興があるのではないか?」
「フッ⋯⋯いいだろう」
鬼龍と流が同意すると、面白さ半分で調子に乗った紅桜が「せーの!」と掛け声をかけると息を合わせたかの様に——
「奴を排除するぞッ!」
「奴を消滅させるッ!」
⋯⋯息はあってるんだけど、やはり言い方は自己流が優っていたようだ。余談であるが、上が流で下が鬼龍だ。
「あははっ⋯⋯じゃあ、二人まとめてで決まりだね!」
「グルル!」
「ガルル!」
「貴様のその余裕⋯⋯後悔するぞ?」
「余の前で大口を叩いたことが御前の敗因であることを知れッ!」
四頭の龍と竜は笑顔と怒りを振りまいて各々は手に持つ得物を構えた。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
「さて、まずは挨拶からかな? リュカ、ジーザス軽めに始めよっか!」
「グウ⋯⋯」
「ガア⋯⋯」
先に動いたのはウァラクと二頭竜であった。大きな両翼を羽ばたかせ地上から離れると二頭の口元に炎と冷気が生まれる。そして——
「いきなりッ!」
「咆哮か!」
「「ゴアアアアアアアアアアアアァッッ!!」」
本来では相反する二つの属性だが過剰すぎる力故に炎が冷気を溶かし、水が火によって蒸発する。
そんな科学的な連鎖反応を巻き起こし一層に威力を倍加させた爆炎が流と鬼龍を襲う。
「いくぞ神龍!」
「ああ、鬼龍!」
だが、まるで長年を共にした戦友のような息の合わせで二人はこの窮地に立ち向かう。
「墨桜! 惰性を見せろ!」
「⋯⋯まるで私が怠け者のような言い方じゃないですか!」
先に動いたのは鬼龍だ。黒色の刀身を持つ墨桜が振るわれるとその軌跡には闇が出現した。
どんな存在も堕落させる闇が爆炎を覆うと荒々しさを弱め嘘のように微弱な燻りを上げるだけになっていた。そして——、
「逃れ得ぬ神龍の咆撃」
弱体化した爆炎を打ち消すように流の側に現れた銃から極光が撃ち出された。
光は予定通りに爆炎を払いその先で口を開けている竜にまで届くが——
「⋯⋯やはりあの程度では無傷か」
——黒い鱗は流の攻撃を完璧に遮っていた。傷をつけるどころか、相手に痛みすら感じさせずただの目眩し程にしか意味をなさなかった。
「眩しかった~。それに、今ぐらいの攻撃じゃあ挨拶程度にしかならないか~。ま、そうでなきゃ僕がここに来ることもないしね」
「⋯⋯我等が奏でるのは交響曲かそれとも鎮魂歌か」
「いきなりどうしたんだい? どうせ聞くなら僕は幻想曲か円舞曲を所望しようかな」
「フッ⋯⋯それは——」
どこか嘲笑的な笑いを含んだ流の言葉。しかし、それは最後まで言うことなく——
「——叶わぬよ」
——いつの間にかウァラクの背後に回っていた鬼龍が代弁した。
「早々に余の前に平伏すがいいッ!」
完全に取った死角からの攻撃、完璧な奇襲。墨桜を納刀し既に紅桜の柄に手をかけた鬼龍が抜刀術でウァラクに斬りかかる——
「なッ!?」
「そんなので僕が驚くと思う?」
——が、驚嘆に声を上げたのは鬼龍の方だった。
「確かに速いし、一度は見失ったけど⋯⋯それもその程度だよ?」
ウァラクは持っていた槍をただ背後に回すだけで鬼龍の攻撃を防いだのだ。内心、鬼龍は背中に目があるのか!? と驚愕するが、問題はそれだけではなかった。
「ウッソ!? なんで!? なんでワタシの『嫉妬』で切れないの!?」
鬼龍の声を代弁したかのように赤い刀、紅桜から驚きの声が上がる。
「『嫉妬の罪』、それは自らが認める一つ以外に対して絶対的な拒絶を生み出す罪の力。もう少し想いが強ければ切れたかもねっ!」
「くっ!」
「あう!?」
ウァラクが態勢を変え、槍の表面を撫でさせるように紅桜を滑らせ鬼龍を地上に投げた。
「無事か鬼龍?」
「ああ、問題ない」
「ふふふっ、やはり君たちには円舞曲を踊ってもらおう! お相手はコイツらだよ! 出てこい『竜兵召喚』!」
上空で地上を見下ろすように叫ぶウァラク。その叫びと同時に、地面がポツポツと隆起し始める。
「これは⋯⋯!」
「全部が⋯⋯か?」
隆起する土塚のサイズは人間の子供くらい。しかし、その範囲は決闘場のほぼ全域。その一つ一つを数えても計り知れない。
「さあ! 踊れ踊れ舞い踊れ!」
「「「「「「ギャアアアアアアアアァッッッッ」」」」」」
そして、一つの土塚からあれよあれよと小型の竜が這い出てくる。
竜達は二足歩行を行い、片手には円形の盾をもう片方には鋭く研ぎ澄まされた蛮刀が握られている。
計り知れない数の竜兵はその数倍の数を持って鬼龍と流の前に姿を見せた。
「この数で円舞曲だと⋯⋯? 幻想曲を聞かされてる気分であるぞ⋯⋯!」
「ゆ、ユウちゃん⋯⋯この数は流石にマズイよ⋯⋯」
「いえ、ここで問題なのはこれ以上増えるかです⋯⋯が、あの生意気なガキを見るに恐らく魔力は余裕なのでしょうね」
ダンジョン組が苦言を吐きながら考察を述べる。
「どうする神龍よ? 流石に無限に湧き出る竜兵を相手にはできぬし、放っておくことも危険だぞ?」
「⋯⋯」
流はしばしば瞑目した。実際、流にはこの状況が容易に想定できていたし、ウァラクが無尽蔵の魔力を持っていることも知っていた。
なぜなら既に——
ーーーーー
名前:ウァラク
種族:悪魔
性別:男
Lv:666(固定)
HP:SS(固定)
MP:SS(固定)
技能:竜兵召喚<->、一身竜体<->、騎竜術<10>、槍術<10>、弓術<9>、闇魔法<9>、空間魔法<9>、深淵魔法<->
身体強化<9>、交渉術<8>
称号:竜騎兵、選ばれし悪魔、悪魔総裁、竜を狩る者、龍殺し
ーーーーー
鑑定眼で見えているのだから。ただ——
(言えないんだよな⋯⋯この数値。明らかに不安を煽るだけだし、正直称号が危険だし)
——ちょっと本人も絶望しかけていただけなのだ。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
ーーーーー
名前:神 流
種族:人族
性別:男
Lv:78
HP:B
MP:B
技能:鑑定眼<->、聖魔法<10>、身体強化<8>、武具創造<->、二丁拳銃<8>、剣術<8>、威圧<->、降龍術<->、空間魔法<8>
称号:聖魔法を極めし者、龍人、不治の病、魔を祓う者、神龍(?)
ーーーーー
ーーーーー
名前:桐生 優希
種族:妖人族
性別:男
Lv:80
HP:A
MP:B
技能:呪いの眼<->、二刀流<->、傲慢<->、剣術<10>、身体強化<10>、闇魔法<10>、鍛治<9>、錬金術<9>、
称号:妖物のダンジョンマスター、不治の病、闇魔法を極めし者、傲慢の罪を背負う者
ーーーーー
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女神の白刃
玉椿 沢
ファンタジー
どこかの世界の、いつかの時代。
その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。
女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。
剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。
大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。
魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。
*表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ブラフマン~疑似転生~
臂りき
ファンタジー
プロメザラ城下、衛兵団小隊長カイムは圧政により腐敗の兆候を見せる街で秘密裏に悪徳組織の摘発のため日夜奮闘していた。
しかし、城内の内通者によってカイムの暗躍は腐敗の根源たる王子の知るところとなる。
あらぬ罪を着せられ、度重なる拷問を受けた末に瀕死状態のまま荒野に捨てられたカイムはただ骸となり朽ち果てる運命を強いられた。
死を目前にして、カイムに呼びかけたのは意思疎通のできる死肉喰(グールー)と、多層世界の危機に際して現出するという生命体<ネクロシグネチャー>だった。
二人の助力により見事「完全なる『死』」を迎えたカイムは、ネクロシグネチャーの技術によって抽出された、<エーテル体>となり、最適な適合者(ドナー)の用意を約束される。
一方、後にカイムの適合者となる男、厨和希(くりやかずき)は、半年前の「事故」により幼馴染を失った精神的ショックから立ち直れずにいた。
漫然と日々を過ごしていた和希の前に突如<ネクロシグネチャー>だと自称する不審な女が現れる。
彼女は和希に有無を言わせることなく、手に持つ謎の液体を彼に注入し、朦朧とする彼に対し意味深な情報を残して去っていく。
――幼馴染の死は「事故」ではない。何者かの手により確実に殺害された。
意識を取り戻したカイムは新たな肉体に尋常ならざる違和感を抱きつつ、記憶とは異なる世界に馴染もうと再び奮闘する。
「厨」の身体をカイムと共有しながらも意識の奥底に眠る和希は、かつて各国の猛者と渡り合ってきた一兵士カイムの力を借り、「復讐」の鬼と化すのだった。
~魔王の近況~
〈魔海域に位置する絶海の孤島レアマナフ。
幽閉された森の奥深く、朽ち果てた世界樹の残骸を前にして魔王サティスは跪き、神々に祈った。
——どうかすべての弱き者たちに等しく罰(ちから)をお与えください——〉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる