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三章〜神龍伝説爆誕!〜
49話「神龍、意味を求める!」
しおりを挟む一つの大地をくり抜いて作られたかの様な戦場、決闘場を縦横無尽に駆け巡り戦いは続いた。
「ハアァッ!」
「セヤアァッ!」
交錯する二つの刃。
流れる水の如く捉えることできず、流麗に舞う流の太刀筋と振り撒く暴風の様に荒々しく、止めることのできない鬼龍の剣が交わる。
達人の戦いは一瞬で決まる。故に、それまでの過程が静かに、ただ静かに行われる。
しかし、今の二人の戦いはそんな説話とは無関係なほどに長く、結果を求めている。
「まだ何かを隠しているか? 神龍よ!」
「それはお互い様だろう? この終わりなき闘争に意味を持たせたくば始まりの鐘を此方が鳴らせようか?」
「ハッ⋯⋯では、余がこの無意味を孕む戦場に終焉を呼ぶとしようか!」
瞬間、今まで拮抗状態であった斬り合いに終わりを告げるように鬼龍がより一層の力を一撃に込めた。
「フンッ」
しかし、それを読んでいたと言わんばかりに流の剣が鬼龍の剣の腹を捉え——
「墨桜! 紅桜!」
——打ち砕いた。
「はぁ、わかりましたよ」
「了解了解~」
鬼龍は剣が死ぬことを理解していたか、すぐさま後退し二人⋯⋯否、二本の刀の名前を呼んだ。
「⋯⋯やはり、貴様は人間ではなかったか、紅桜よ」
そう、後退した鬼龍の側まで来ていた二人の存在は今目の前で消え失せ、次の瞬間には二振りの刀となって鬼龍の両手に収まっていた。
右手には赤。身を染め上げた紅蓮は身を滅させるほどに妖しく、幻惑な真っ赤を記し流へと刃を向けている。
左手には黒。どこまでも深く、深く身を堕とした漆黒はその身を糧に全てを破壊してしまうと思わせるほどに狂気を魅せる。
「あはは~、やっぱ分かってたのね。ま、人間の姿もワタシだけど本当のワタシはこの姿ってぐらいよ」
「主⋯⋯もう全部壊して。メンドくさいのは嫌いですから」
二振りの刀から言葉が発せられる。これで本当に人が刀の姿を、刀が人の姿を象っていたことを理解させられる。
「さて神龍よ、余は無意味さに意味を投じた。この戦いにおける意味を、この行動における意味を御前はどう解釈する?」
鬼龍は両手に持つ二本の刀を独自の構えを取りその切っ先を流に向けた。しかし、
「⋯⋯」
「⋯⋯なんのつもりだ?」
流は鬼龍の戦いの構えに対し、構えを解いたのだ。
その驚愕、予想外の行動に目を開く鬼龍だがそれを無視し流は言の葉を綴った。
「一つ、質問をしたくてな」
「⋯⋯何を、問う?」
「貴様にとって先の戦いは無意味だったのか?」
「⋯⋯何が言いたい?」
「そのままの意味だ。貴様にとって先の戦いは無意味であり、不要であり、不毛であったのか? と聞いたのだ」
「⋯⋯」
鬼龍は戸惑った。流の言いたいことの意味は理解できる。しかし、理由が理解できなかったのだ。
何故このタイミングなのか? この時ではないといけないのか? この問いかけに何か意味があるのか?
理由ばかりを求めてしまうが故に答えが見つからない。だが、解釈を求めたのは自分であるため答えなくてはいけない、そう至ってしまうのだ。
「先の戦いに意味はなかった、それが余の答えだ。そうであろう? ただの殴り合いと斬り合いでは御前の実力を図ることもできず、ただ時間を無意味に過ごしただけに過ぎない」
「⋯⋯そうか」
「⋯⋯その言い方、まるで御前は別の答え⋯⋯余が意味の無いと言った時間に意味を見出していたというのか?」
「ああ」
そう言って流はもう一本の輝く剣を生み出した。まるで、鬼龍に似せる様に、鬼龍を真似るかの様に。だが、
「我はこの世界において解の無い解を認めよう。選ばぬという選択を認めよう。だが⋯⋯意味の無い意味は認めていないのだよッ!」
「ッ!?」
次の瞬間に流の側に現れたのは二本の腕。
空間を割くかの様に出現したその腕には一丁づつの銃が握られていた。
「座標固定、照準⋯⋯対象を捕捉」
「アレは⋯⋯銃? だが、そんな物が当たるはずが⋯⋯」
流とは別の機械的な声が告げる。
同時に、鬼龍は今までとは比べ物にならない速度でその場を動き銃の照準から逃げる。しかし、
「その動きでは我から逃げることはできぬよ⋯⋯そのための布石! そのための時間なのだから! この一撃は必ず当たる!」
「なっ!?」
逃げた方向に突然に出現した銃を持った腕。そして、振り返れば流の側にあった腕の一つが消えている。
その瞬間、鬼龍はようやく流の言葉の意味を悟った。
「そうか⋯⋯余の動きを、癖を、心理を知るための時間だったのか!」
「喰らえ⋯⋯逃れ得ぬ神龍の咆撃」
文字通り逃げることのできない距離で、避けられない威力の光が鬼龍を襲った。
だが、その光が迫っても鬼龍の動揺が大きくなることはなかった。むしろ、落ち着きを取り戻していた。
「⋯⋯しかし、所詮は必中であって必殺ではないただの光。そんなモノが余に⋯⋯通じると思うたか!」
一閃。
左手に握られていた漆黒の刀が鬼龍の怒りと共に振り向かれた。
瞬間に迫り来る光以上の闇が生まれ、瞬く間に光を、腕をも全てを飲み込んでしまった。
そして、見事に必中を防ぎきった鬼龍は流へと振り返るが——
「神龍よ! これが御前の策か? これが御前の全力か? そんな訳があるはずが——」
「ユウちゃん上ッ!」
「——なッ!?」
——もう元いた場所に流の姿はなく次に現れたのは鬼龍の頭上。
鬼龍も紅桜の反応のお陰でなんとか降りかかってきた流の剣を受け止める。
「ああ、当然だ。我の策は必中で終わることもなく、我の力はまだ底を見せていない!」
「⋯⋯それだけの力がありながら小癪な真似ばかりしおって!」
「フンッ、履き違えるな鬼龍よ。戦術と戦略とは全くの別物だ。両方を認め初めて勝利を手にするのだよ」
「⋯⋯ハッ、戯言を⋯⋯余は、余は、御前には負けないいいいいいぃぃッッッ!」
頭上から押し込める流に対し地上から冥界の門でも開く勢いで叫ぶ鬼龍が持ちこたえる。
そう、まさに門を開くのではないかと思わせる気迫は——
「ッ!?」
「な!?」
——まさに冥土への門を開いてしまっていたのだった。
◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾
深く、暗く、重く、黒く、永遠に続く時間の世界が閉じ込められた一つの空間。
そこに一つの存在が目を覚ました。
「⋯⋯この力⋯⋯勇者? だがこれは⋯⋯何か違う?」
その存在は首を傾げ疑問符を立てる。似ているような全く別のような。しかし、求めているものの様で、どこかで会っただけの様な。
「輝くその力⋯⋯勇者じゃない? では、何者? ⋯⋯例え勇者であろうとそうでなくても期待は⋯⋯できないな。期待してはいけないのだから」
存在はどこか諦めた様子を表面上で取り繕った。何かを恐れているかの様に、何かを妨げるかの様に。
「期待⋯⋯してはいけない。その希望は彼等を殺す⋯⋯嗚呼、なんだ⋯⋯やっぱりダメだったか? 隠すことも、避けることもできないのか?」
存在は一つの確信を得てしまった。
自らの期待を押し殺し、隠していたのにも関わらず気づかれてしまいまた、大切を壊してしまったのだから。
「⋯⋯行くんだねウァラク。君の心が何で満たされてるかは知らない。だけど⋯⋯もしも、私のことを思うのならそれは忠義ではないよ」
存在の声は、言葉は何処にも何にも響かず届かない。
ただの呟きとして虚空を漂うばかりであった。
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