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4章〜崩れて壊れても私はあなたの事を——〜

76話「崩壊の足音5」

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 レイジたちが最初に目にした光景は人、家、人、人、家だった。
 建ち並ぶ家々は木造の物もあればレンガで造られた物もある。そして、その多くが住宅だが民泊、花屋、雑貨屋など散乱的にお店も目に入る。

 民泊を紹介する少女、花屋で呼びかける女性、ガラス越しに見える雑貨屋の男性店員、行き交う荷馬車を引く男性など様々な人が レイジ達 を通り過ぎ、見送っている。
 だが、その誰もが『人間』とは限らなかった。

 花屋の女性は耳が比べるまでもなく長い。
 男性店員は背中に翼を生やしている。
 荷馬車を引く男性は逞しい筋肉に頭部には大きな三角の耳。

 誰もがその特徴を気にすることなく笑顔で過ごしている。

「ゼーレ、ここは⋯⋯」
「うん、お兄ちゃんが思っている通り異種族が集っているよ。花屋の女の人は 精人族エルフ、雑貨屋の男の人は 魔人族、荷馬車の人は 獣人族だね」
「そうか⋯⋯ここはいろんな種族が集まってるんだな。これなら俺たちも目立たないってことか?」
「うん、そうだよ。それで、どうするの?」

 ひとまず目立つ服装や白髪を隠す必要がないことに安堵するレイジ。
 次に頭によぎったのは身分証。長く滞在するつもりはないにしても、投獄の可能性を考えると作った方が利点が多いだろう。

「取り敢えずどこかのギルドに所属して身分証を作るか。ギルドは何があるんだ?」
「えーとね⋯⋯冒険者ギルド、商業ギルド、魔導士ギルドの三つがメインだね」
「冒険者ギルドと魔導士ギルドは別なのか?」
「うんとね⋯⋯魔導士ギルドは魔法の研究機関らしいの。だから主にやるのは戦闘じゃないから別口になったんだって」
「へぇ、それなら一択か」

 そう言って レイジ たちは目的地のあるギルドへ辿り着いた。
 だがこの時、レイジ は自らが大いなる過ちを犯し続けていることに気付いていなかった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「ここが冒険者ギルドか」

 レイジたちの眼前には大きな木造建築物が建っていた。
 三階建てのその建物は木造の柔らかい雰囲気をかき消した殺伐とした空気で建っている。そして、頭頂部にはシンボルである剣と盾と杖のマークが堂々と飾られている。

「それじゃあ、行きますか」
「うん!」

 中に入れば広々とした空間にいくつもの長机に沢山の椅子がある。
 そして、大きな声で笑い、叫び、荒れる筋骨隆々の男達や露出の高い女達。受付には美しい女性が並び、紙切れを持った人達に笑顔を向けている。視線を奥へ向かせれば大きなボードがあり隙間なく紙が貼り付けられている。

「イメージ通りといえばそんな感じもする」
「お兄ちゃんの世界にある架空の話?」
「そうそう、結構的を射てるんだな。案外地球に転生者とか転移者とか居たりしてな」
「あはは、それこそだよ」
「それじゃあ、受付に行くか」
「はーい!」

 レイジたちが並ぶ列の最後尾に並んだ時、ある人物と目があった。
 転生者でもなければ、転移者でもない。しかし、顔馴染みではないかと言えばそうではない。むしろ、ずっと鮮烈的な出会いで、悲劇的な別れをした人物。
 そこには——、

「ダンジョンマスタァー!!」

 短く切りそろえられた赤髪、金目の少女——ロート・ヴァオレット。
 レイジ達と死闘を繰り広げ、唯一生き残った彼女が殺意の眼差しとともに叫んだ。姉の仇であるレイジに向かって。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

 冒険者ギルド最上階にて大男と女性が向き合って居た。

「ダンさん からの連絡は『色白白髪の兄妹に注意しろ』だそうです」
「色白白髪? なんでまたそんな特徴的な奴を?」
「理由を聞くに『どうにもきな臭い』と『どこか変な感じがする』と言った直感的なものばかりでした」
「うん、まあ、何かあってからじゃあ遅いから伝えたってぐらいだろうな」

 とあるダンジョンの警戒を行なっている男——ダンさんからの連絡を簡単に受け流す大男。
 のほほん、と平和を感じている大男だが、その安息を打ち砕くように扉が勢いよく開かれた。
 
「た、大変です!」
「何ですか! ノックもなしに!」
「そ、それどころじゃないんです!」

 入ってきたのは女性職員。女性は胸を抑え、せながら下の階で起きていることを口にする。

「だ、ダンジョンマスターが!こ、このギルドにきました!」

 その突拍子もない報告に大男も女性も唖然とするだけだった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「ダンジョンマスタァー!!殺す!ころす!コロスウゥゥウッッ!」
「お、落ち着け!」
「鬼妹を抑えろ!」
「誰か手ェ貸せ!」
「ちょっ!コイツ力こんな強かったか!?」

 武器である大金棒を振り暴れる ロート を必死に押さえつける冒険者達。その暴れっぷりはまさに鬼そのもの。
 どうにか床に押し付けるものの ロート の怪力によって引き剥がされるのは時間の問題だろう。

「おい!兄ちゃん! お前は本当にダンジョンマスターなのか!?」

 押さえつけている男性の一人が レイジ に向かって叫んだ。
 半信半疑⋯⋯否、九割を疑っている視線でレイジを見つめる。

「答えろ!」
「殺す!コロスころす殺すブッコロすっ!!」
「⋯⋯」

 ロートを抑える冒険者は怒声をあげる。その切羽詰まった勢いにレイジは気圧され、及び腰になってしまう。

(クソクソクソッ!そうだ!なんで俺はこんな簡単なことも気づかなかったんだ!ああっ、ちくしょう!このままここに居たらマズイ!逃げるなら⋯⋯今しかねぇ!)

 周囲で見守る冒険者たち。
 ロートの暴動にオロオロする人もいれば、レイジの一挙手一投足に目を光らせる人もいる。徐々に緊張が最大に近づいていくなか、レイジ は咄嗟の判断に従った。
 ゼーレ の手を取り、すぐさまギルドの出口に向かう。

「——ッ! 止めろ!」

 声をかけた男性の叫びによって ロート の押さえつけに参加して居なかった冒険者が何人も レイジ の目の前に立ちふさがった。

「⋯⋯邪魔だ!」

 レイジ は腰に備えていた妖刀の代わりに購入した蛇腹の剣を抜いた。
 抜刀と同時に伸びた蛇腹の刃は次々に冒険者達の首を刈り取った。

「な!?」

 誰の驚愕だろうか。何への衝撃だろうか。そんな驚きの声が様々な場所で上がった。

「か、回復魔法を急げ! 奴を逃がすな!」
「離せッ!」
「お前はダメだ! 今のお前が暴れればこの街がタダじゃ済まないだろうがっ!」
「私が! 私がアイツを殺すんだッ! お姉ちゃんの仇を取るんだッ!」

 ロート の狂気の叫びが振動する。
 怒りが、憎悪が、殺意が、ロートに力を与える。

「ッ! マズイ! ゼーレ急ぐぞ!」
「う、うん!」
「殺す!ころすコロずゴロズっっっっっっっ!!!」

 レイジたちは一人の少女の殺意を背中に冒険者ギルドから逃げ出した。
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