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2章〜光は明日を照らし、鬼は大地を踏みしめ、影は過去を喰らう〜

54話「湧き立つ希望、溢れる光、その後に2」

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「あんなの聞いてないよ!」
「それは私もよ」

 レイスの『神速』による一撃を避けたブラウ、ロートの鬼姉妹は互いに言い争っていた。

「お姉ちゃん、あれどうにかできる?」
「正直、あの速度はどうにもなりませんね。 ロート は目で追えましたか?」
「んー、もうちょい強化すればいけないことはないと思うけど⋯⋯あれが本気じゃなかったら無理かも」

 ロート苦々しく答える。『餓鬼道』の砂漠を踏破した身体能力であってもレイスの『神速』には手を焼くようだ。
 ロートの意見を聞いたブラウは出方を伺っているレイジを一瞥すると戦いの流れを組み立てる。

「では、私は足止めを専念しましょう。 ロート は近接しなさい。決して下がってはいけませんよ」
「はーい!了解だーーよッ!」

 ロート は返事と共に飛び出した。
 その動きは砂漠で見た動きとは別格に速い。

 踏み込んだ地面は足型を作り、生み出される風は音をあげていた。

「っていっ!」
「⋯⋯ッ」

 ロートが自身と同じくらいの大きな金棒を振り回す。
 レイスはその金棒を己の速度を持ってして回避する。

「あー、やっぱまだ早くなるかぁあっ!」

 ロートは金棒の重さを利用し遠心力を持って速度をさらに上げた。
 だが、レイス に追いつくことはできない。

「ぐうう! こんにゃろおぉ!」
「⋯⋯」

 だが一方で レイス もまた攻撃に転じれなかった。
 子供のような華奢な体躯で、覇気のない声だがその速度は前に訪れた『閃光』のガレス をゆうに越えていた。

 故に、レイス 自身も避ける事で精一杯だった。
 そして、それらをブラウは見逃さない。

「⋯⋯ここですね」

 ロート が レイス と三次元戦闘を繰り広げる中、その戦闘を観察した ブラウ はそっと呟いた。
 そして、持っている大鎌を脇に手を前に出し構える。

「⋯⋯天を荒らす剛風ボレアス!」

 ブラウ は一つの魔法を唱えた。その魔法は突風を生み出し、大きな旋風と化した。
 旋風はレイスの足を絡めるように巻き上がり、次の動作を一瞬遅らせた。

「⋯⋯ーーっ!」

 そして、その一瞬がロートにとっては十分だ。

「今よ!」
「はああああああっ!」

 足を取られ、機動力を失い、回避を断念させられた レイス の頭上に大きな金棒が迫る。

「⋯⋯」

 そして次の瞬間ーー

「あれ?」
「ど、どこへ!?」

 ーーレイス が消えた。
 そして、驚くのも束の間にブラウの背後から別の少女の声が聞こえる。

「いやー、危なかったすね」
「⋯⋯ありが、とう⋯⋯たす⋯⋯かった⋯⋯」
「いやいや、どういたしましてっす」

 そこには、鎖を手に絡み付けた少女 ハクレイ がケラケラと笑っていた。

「⋯⋯貴方は一体」
「んもー! 仕留め損なった!」

 会心の一撃を回避されたロートもブラウの元へ合流した。

「自分っすか? 自分は ハクレイ って名前っす!」
「⋯⋯名前。進化個体ね」
「そうっすよー。自分、進化してるっすよ」
「次から次へと⋯⋯貴方もその レイス と同じスキル持ちなのかしら?」
「あー、残念っすけど自分はそんなスキルは持ってないっすね」
「ならさっきの動きは?」
「それも残念っすけど教えられないっす。お兄さんに何度も言われてるんすよ」
「そう、ならーーさっさと決めさせてもらうわ!」

 ハクレイ の返答に終わりを見出した ブラウ が大鎌を振りかぶった。

「させ⋯⋯ない⋯⋯」

 その振り下ろしを止めようと レイス が動き出しす。

「お姉ちゃんのところへは行かせないよ!」

 そして、レイス の初動きを察知した ロート が レイス を阻む。

「⋯⋯じゃ、ま」

 レイス が二本のククリナイフを器用に使い先ほどとは打って変わり攻撃に転じた。
 対する ロート は レイス のその速度に追いつくことに全集中を使い、振り回しの悪い金棒を盾になんとか回避する。

「あー、先輩はそっち優先していいっすよ!」
「⋯⋯う、ん」

 レイス の状況を見た ハクレイ は一言掛けると改めて ブラウ を見据えた。

「随分と余裕があるのですね」
「まー、あの戦況を見れば自分がするのは時間稼ぎだけっすからね」
「そう、自分の役目をきちんと理解しているのね。でも、私は急がないといけないのーー地を駆ける爽風リュフトヒェン!」

 早々に決着をつけロートの加勢に行かなければと焦ったブラウ。
 構えた大鎌を振り抜いた瞬間、不可視の鋭利な風が駆け抜けた。

「うおっす!」

 ハクレイ素っ頓狂な声に反応し足元からいくつもの鎖が飛び出る。
 甲高く鳴り響く金属音と共に数本の鎖は切られてしまったが風の刃が ハクレイ に届くことはなかった。

「⋯⋯これでダメですか」
「うおぉ、危なかったっす! もう、無理っす!いやっす!」

 ハクレイ が叫んだ瞬間 ハクレイ の足元からさらに大量の鎖が擦れ合う音を上げながら飛び出してきた。
 そして、その鎖達はうねりながら ハクレイ の周囲を周回し、次第に ハクレイ を守る球場の形態となった。

「な!?」
「これを突破できたら多分自分の負けっすね。どうするっすか?」
「⋯⋯」

 ハクレイの挑発。
 乗るか反るかと言えばブラウとしては反る一択だった。完全に守りの体制に入られては相手の思う通りに時間を稼がれてしまう。

 だが、後退しようとした瞬間ーー

「ダメっすよ。先輩の邪魔はさせないっす」

 ーーブラウの足元から鎖が飛び出す。幾重にも重なると重合な壁となって退路を阻んだ。

「⋯⋯どうやら貴方を先に倒さなくてはいけないみたいですね」
「そういう事っす」

 球体の中からは外が見えないかと安易にしていた期待は裏切られた。
 鎖の壁と突破するのも鎖の球体を破るのも同じなら手短な方を選ぶべきだ、とブラウは結論づけた。

「はぁ⋯⋯あんまりこれは使いたくないのですが」
「隠し玉は早めに使ってくれて構わないっすよ。そうすれば降参も早いっすからね」

 依然として挑発するハクレイ。ブラウからすればロートと話している気分だったのであまり気には触らなかった。
 むしろ、この後のことを考えてか気怠さの方が強かったようだ。

「⋯⋯それでは、その言葉に甘えてみるとしましょうーー『鬼化』」

 突如、空気が変わった。

「え、え⋯⋯なんすか?この嫌な感じ⋯⋯」
 
 ハクレイも突然の変化に戸惑いが隠せなかった。
 鎖の隙間から流れる風はぬるりと不快な後味を残し肌を撫でていく。挙動不審に周囲を確認し原因を確かめるがすぐに分かった。

 不気味な風はブラウから漏れ出たものだった。そしてそのブラウもまた異質な変化を遂げていた。
 白かった肌は別の生物に生まれ変わったかのような青色に染まり、額には小さな旋風が一本の角のように立ち上がっていた。

 恐怖を誘う大鎌ブルーオーガーーこれが彼女のそう呼ばれる所以なのだろう。

「さっさとーー終わらせましょうか!」

 一体の鬼が周囲の風と共に音の壁を超えた。
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