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1章〜異世界の地に立つ者達〜

36話「祈りを願いに、願いを力に6」

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「ッッ!」

 勢いよく千代は起き上がった。

 体のどこを探っても傷はない。
 周りを見ても考えていた通りの景色。

「⋯⋯戻って、きた⋯⋯わっ!?」

 そして目の前に突然、半透明の画面が現れた。

「え?なに?」

 半透明の画面に次々と文字が打ち込まれーー完成した。

 ーーーーー
 あなたの決意、確かに聞き届きました。

 実感しているかもしれませんが、これでようやく私の力を貴女の意思で使えるはずです。

 どうか、この力を使って未来を変え、世界を救い、最悪の愚神の思惑を止めてください。

 時の女神『._*#+・(9#+!』
 ーーーーー

 そして、半透明に画面は千代が読み終わったことを認識したのか次の画面になった。

「なに⋯⋯これ?⋯⋯ステータス?」

 そこにはーー

 ーーーーー
 名前:七草 千代ななくさ ちよ
 種族:人族
 性別:女
 Lv:1
 HP:F
 MP:E
 技能:逆行世界(タイムレコード)<->、時間歪曲(タイムアウト)<1>
 称号:時の女神の寵愛を受けし者、異世界人
 ーーーーー

 ーーーーー
 逆行世界(タイムレコード)<->
 等級:S

 過去で後悔した時点を軸に何度でも繰り返すことができる。
 発動条件:使用者の死亡。
 ーーーーー

 ーーーーー
 時間歪曲(タイムアウト)<1>
 等級:S

 世界の時間に干渉することができる。
 発動は任意で行うことができる。
 また、止めた時間、頻度に比例して使用者の体力、魔力を消費する。
 消費する量は使用者の練度に依存する。
 ーーーーー

 千代は慣れた手つきで画面を触っていた。
 まるで、操作の方法がわかっているかのように。

 そしてーー

「⋯⋯やっぱり、か。ひっぐ⋯⋯そうだよね」

 ーーあるワードを、『異世界人』の勝号を見つけ千代の頬に涙が伝った。

「やっぱここ日本じゃないのか⋯⋯『異世界人』って。もう⋯⋯私帰れないの?」

 1回目の世界。
 そこで何度も何度も尋ねた。
 だが誰も千代の生活を、知識を、世界を共有することはできなかった。

 違和感を感じていた。
 もしかしたら、ここは別の世界ではないの?と、次第にそう思うようになっていた。

「ひっぐ⋯⋯う、うぅ⋯⋯うわああああああぁああぁ!」

 千代にとって我慢の限界だった。
 もしかしたら帰れるかもしれない。
 もしかしたら日常が戻ってくりかもしれない。

 そんな淡い希望が断たれてしまったと思えてしまえたから。

 いくらこちらの世界で過ごそうと向こうの世界の記憶はなくならなかったのだから。
 だから、背後に迫る気配も、事実も忘れていた。

「あ、あの⋯⋯」
「⋯⋯ふぇ?」

 千代が振り返ってみるとそこにはあの子がいた。
 肩上まで伸ばした赤茶色の髪、千代と同年代くらいの女の子。

「どうして泣いているの?」
「⋯⋯」

 千代唖然とした。

 自分が過去に戻ったなら同じように世界も過去に戻り、助けたい人も戻っていることは分かっていたが、先のメッセージの意識を向けすぎていたのだ。

「あ、あの、大丈夫?」
「⋯⋯あ、うん」
「急に黙っちゃったから心配したよ。それで、何かあったの?」

 ーーーは心配そうな顔で千代を覗き込んだ。

 そして、千代は

「うん、大丈夫。驚かせてごめんね」

 涙を拭い、少しぎこちないが笑顔でそう言った。

「? そうなの?」
「それより、ー⋯⋯じゃなかった、アナタはここの近くに住んでいるの?」
「ええ、『ザイト』って言う村に住んでるんだよ」
「良かったら、私をその村で住まわせてくれない?私、道に迷っちゃってね」
「道に迷った?それは大変ね。いいよ、村に案内するよ。あ、私ーーーだよ」
「私は⋯⋯千代 だよ」
「わかった。じゃあ、行こっか千代」

 少女達二人は『ザイト』へ向かった。

 片や、新しい友達ができたと考え顔を緩ませている。
 片や、今度こそと決意を固めその表情も硬かった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「⋯⋯これで53回目か」

 森の中、千代は起き上がる気にもなれず呟いた。

「なんで!なんでダメなの?!⋯⋯どうすれば」

 最初は説得を試みていた。
 だが、毎回それは失敗に終わっていた。
 理由は淡々と返されたーー『非現実的だから』と。

 ある時は、町で知った冒険者ギルドに依頼した。
 しかし、持ち金も少なく、情報も不確定だったためあまり腕の良い冒険者は集まらなかった。

 ある時は、二人で逃げてしまおうとした。
 だが、何故か逃げた先にも魔物がいた。
 結果、何もできなかった。

 ある時は、自分に手で倒してしまおうと考えた。
 だが、いくら努力しても多勢に無勢。
 たった一人の少女には荷が重かった。

「もう!どうしたら良いのよッ!」

 千代は強く握りしめた拳を何度も何度も地面へ叩きつけた。

 自分の才能のなさに、現実の理不尽さに、
 自分の不甲斐なさに、現実の無慈悲さに、

 いつしか、ーーーが来ることも忘れ叩き続け
 いつしか、ーーーが居ることも忘れ叩き続け

 千代は途方に暮れていた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「やっと見つけた」

 千代が立っていたのは洞窟の前だった。

「ここにダンジョンマスターいる」

 ある時、ギルドでダンジョンが発見されていることを知った。

 それを知った千代は考えた。
 もし、発生した直後に行けば魔物は少ないし、倒せるんじゃないのか? 、と。

 そして、幾度とない回数でダンジョンについて調べた。
 そして、『ザイト』に最も近いダンジョンを見つけた。
 そこは、一階層が暗闇で包まれている珍しい型らしい。

 らしい、と言うのも千代にとってはダンジョンの知識はギルドで聞いた内容程度しか知らず、ダンジョンマスターを殺せばダンジョンは消滅する、などの基本的なことしか知らない。

 そして、千代は一人洞窟の前にいる。
 本来、ダンジョンは団体で攻略するものだが、千代本人の見た目上ギルドに登録できなかった。

 受付嬢曰く
 「年齢制限がありますので⋯⋯」だった。

 結果、千代はダンジョンが発見される前にダンジョンを攻略することになった。
 それも、一人で。

「⋯⋯ふぅ。よし、行こう!待っててねーーーちゃんっ!」

 こうして、一人の少女が暗闇の中へ入っていった。
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