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1章〜異世界の地に立つ者達〜

35話「祈りを願いに、願いを力に5」

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「うん、わかった信じるよ」

 ーーーは千代の必死な態度を見てそう言った。

「⋯⋯え?」
「だから、あなたの事を信じるって言ったの」
「で、でも⋯⋯」
「嘘じゃないんでしょ?」
「うん」
「騙しているわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「だったら、私はあなたのことを信じる」
「⋯⋯ありがとう」

 千代の瞳から涙が流れた。
 自分自身でも言ってることに根拠も、証拠もないことはわかっていた。
 それゆえに、言葉だけでも信じてもらえたのは嬉しかった。

 だからーー

「これで⋯⋯これで、ーーーちゃんを助けられる。これでいいんだよね⋯⋯?」

 誰かに向けた疑問だろうか。
 千代の口からは安堵の言葉が漏れた。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾

「どうしてッ!?」

 千代の叫び声が木霊した。

「なんでッ!」

 千代はーーーの肩を揺すっていた。

「⋯⋯ごめん⋯⋯ね」
「なんで⋯⋯なんで⋯⋯信じるって⋯⋯信じてくれるって言ったよねッ!」
「ゴメンね⋯⋯ホントウにゴメンね⋯⋯」

 ーーーの口から血が流れた。
 片腕を切り落とされ、両足を消失させていた。

 消失した両足は焼け焦げているため出血はない。
 しかし、切り落とされた腕からは血が今も留めなく流れている。

「嘘つきッ!」
「ゴメンね⋯⋯わ、私⋯⋯あなたを⋯⋯信じられなかった⋯⋯」

 周りを見えれば焼ける家々、人を襲う魔物、叫び逃げ惑う人々、燃える炎に飛び込む魔物達。

 炎は夜空に舞い上がり、黒い煙が花を作る。

 焦げた匂いが鼻を突き、叫ぶ高い声が耳を突く。

「なんで!何がいけなかったのッ!?」
「だって⋯⋯あなた⋯⋯不思議なんだもん。わかんない、よ⋯⋯こんな事⋯⋯信じられないよ」

 千代の問いかけにーーーは途切れ途切れに応える。

「私がいけなかったの?どうしたらーーーちゃんを救えたの?」
「ゴメンね⋯⋯信じてあげられなくて⋯⋯ゴメン⋯⋯ね」

 次なる千代の問いにはーーーはただ謝るばかりだった。

「ゴメン⋯⋯ね」

 その謝罪は何に対してだろうか。

 千代を信じなかったことか。
 千代を悲しませたことか。
 千代を裏切ったことか。

 千代にはわからなかった。

 そしてーー

「もう一度⋯⋯もう一度やり直したいよ!」

 その一言を最後にーーーの瞳から光が消えた。
 その表情は後悔と懺悔に彩られていた。

「⋯⋯ーーー?ーーーッ! ねぇ! 起きて! ーーーッ!」

 千代は何度も何度もーーーを揺さぶった。

「起きてッ! 起きてよッ!許すからッ! 信じてくれなかったこと許すからッ! やり直そーーグヘェ!」

 千代がーーーを揺さぶって起こそうとしている時、腕が、また、腕が、

「な⋯⋯ん⋯⋯だ、れ⋯⋯?ーーオエぇ!」

 千代の胸部と腹部の間を貫いた。

 喉元が焼ける。
 手足が動かない。
 視界が赤く染まる。
 息することが苦しい。
 それでもーー

「う、うぅ⋯⋯。ぜ、っだい⋯⋯だず、げる⋯⋯がら!」

 絶対助けるから
 その一言を、願いを、決意を最後に千代の意識が闇に落ちた。
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