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1章〜異世界の地に立つ者達〜

16話「階層主討伐3」

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 ファントムの攻撃がパンドラに直撃した。

 パンドラが居た場所は砂埃が舞い視界を妨げている。
 パンドラの姿を確認できないため、レイスとファントムの構えは依然として戦闘体制のままだ。その一方でーー

「ど、どうなんじゃ?やったのかのぉ?」
「おい馬鹿やめろ!その台詞はフラーー」

 ーーお約束のやりとりが幸か不幸か実現してしまった。

 突如、パンドラが居た場所で突風が吹いた。
 砂埃は舞い散り、姿を現したのはーー

「い、今のは危なかったですわ...」

 ーードレスの所々が破れ、目の行き場を迷わすパンドラの姿があった。

「ほら言わんこっちゃなーーブッ!」

 パンドラの乱れた姿を見たレイジは肺にあった酸素を全て出し切りながら、パンドラから視線を逸らした。

「い、今、貴方様は私を見て興奮してくださったのですか!?私のこのような姿を見て興奮してくださったのですか!?」
「言うな!興奮を連呼するな!」
「ふふふ、本当は貴方様とお楽しみしたいのですが申し訳ありません。直ぐにこの場を片しますのでしばしお待ちを!」
「いや!片さなくていいから!もうこのまま平和的に行こう!」
「逝こうだなんてそんな⋯⋯私まだ心の準備が⋯⋯」
「そう意味じゃねよ!」
「本当はこの力は貴方様だけに使いたかったのですが、仕方ありませんね」
「話聞いてくれない!っていうか俺用の力って何?!」

 パンドラが瞑目すると同時に周囲が歪み始めた。

「む!?不味い!ファントムよ!」
「!?(コクリ)」

 歪んだ空間に餓鬼が敏感に反応した。

「では、行きますね。ハアアアァァ!」
「お主!伏せんかぁ!」
「え!?何!?」

 パンドラが開目し、気合い一つ。
 パンドラを中心に目を開けてられないほどの光量が広場を包んだ。

「なんだ!?何が起きた!?」

 光量が戻ったレイジの視界にはーー

「おぬひはわひのうひろはらへるへはひほ!」

 ーー大きな口を開いてレイジの前で座る餓鬼の姿があった。

「え?お前いつ来た?てか何してんの?ちゃんと喋れよ」
「ひはは、ほんはひはいへははい!」
「え?だからちゃんと喋れって。何言ってるかわかんねぇ」
「へっはい、わひのふひほはらへるへはいほ!」
「顔を出すなってことか?」
「ほうひゃ!」

 どうにかこうにか餓鬼の翻訳ができたレイジは不完全燃焼ながらも切羽詰まった餓鬼の姿に気圧され従うことにした。

 一方、パンドラは⋯⋯

「さぁ!貴方様!もう済みましたわ。もう私を見て、興奮してくださっても大丈夫ですわ!⋯⋯あれ?貴方様?どこにおられるのですか?」

 パンドラの方からでは餓鬼の背後にいるレイジの姿は見えて居ない。

「あー、すまん。ここだ!」

 何となく、答えたほうがいいと思ったレイジは声だけをだし居場所を伝えている。

「あ、貴方様!どうか私に顔を見してください!」
「あー、悪いんだがそれはできない」
「な、何故ですの!?」
「なんか俺の魔物が顔を出すなって言ってるから」
「ま、魔物⋯⋯?」

 この時ようやくパンドラは餓鬼の背後にレイジが居ることに気づいた。

「ま、また貴方ですの!?い、一体貴方は何者ですの!?なぜ、私の魔法を受けて居ながら平然としていられますの!?」
「なはなは、ははひはひひゃほぉ」
「『中々、甘い味』だそうだぞ」
「い、意味がわかりませんわ!」

 餓鬼の技能を知らないパンドラは困惑を隠しきれない。

「どうして私の技能(スキル)『美貌』を受けて平然としていられるのですか!?」
「『美貌』?」
「ええ。この技能は『性別が女性以外の対象全てを私に興奮させ、隷属下における』のです」
「え?何それ怖い」

 餓鬼の技能を知ってるレイジはすぐに答えに辿り着いた。
 もし、餓鬼が守ってくれなかったらレイジは既にパンドラの手に落ちていたということに。

「あ、ありがとうな餓鬼」
「ひにふふへはい」
「それなのにどうして!どうして無事なのですか!?」

 パンドラは自分の勝ちが見えていただけに困惑を通り越して怒りがこみ上げてきている。

「あ、ところでさ」
「は、はい!何でしょう?」
「さっき『女性以外』って言ったよな?」
「ええ、申し上げましたね」
「勝ち誇ってるところで悪いんだがーーお前、詰んだぜ」
「⋯⋯え?」

 パンドラが間の抜けたような一瞬を逃すことなくファントムとレイスは追撃する。
 ファントムはパンドラの足元から影の槍を、レイスはパンドラの頭上からククリナイフを振り下げた。
 
「ど、どういうことですの!?」

 勝利を確信していただけにパンドラは2人の追撃に反応が追いつけない。
 パンドラは影の槍によって動きを封じられ、ククリナイフを首元と側頭部に突き付けられた。

「な、何故貴方達が動けるのですか?!私の『美貌』は女性以外に効果がございますのよ!?」
「あー、それなんだが⋯⋯」

 目の前の現実に理解が追いつかないパンドラ。
 レイジは同じ穴の仲間を見つけた気分で嬉しいのだが、同時に不憫にも思った。

「見た目からじゃ分かんねえと思うけど、そいつら⋯⋯女なんだわ」

 答えを聞いたパンドラはーー

「⋯⋯え?」

 お嬢様のように品が感じられたパンドラからは想像がつかないほどに間抜けな声が無意識に出てしまっていた。
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