上 下
6 / 106
1章〜異世界の地に立つ者達〜

6話「始まるダンジョン3」

しおりを挟む
「⋯⋯へ、変異種」

 ゼーレがポツリと呟いた。

「へ、変異種?変異種ってそんなにヤバいのか!?」

 あって間もないが一変したゼーレの様子にレイジが焦る。

 もしかしたら、意思疎通ができない個体なのかもしれない。
 もしかしたら、今この場で急に暴れるのかもしれない。
 もしかしたら、制御の聞かない個体なのかもしれない。

 レイジの頭の中に最悪の事態が展開される。

「というか、そもそも変異種ってどいつだ!?」

 どれも見た目は薄気味悪く最悪だ。
 だが、ローブの個体は他の2体に比べて別格に凄みを感じる。

 そして、焦るレイジに向かってゼーレは真剣な顔つきになって口を開いた。

「変異種って言うのはね通常の魔物と同じ姿で生まれるけど何かしら違う特徴を持つの。しかも、大体同じなのにスキルもステータスも全く違う。当然進化系統も変わってくるの。それにそれに、召喚紙で出て来た魔物は意思疎通が基本だけど召喚紙で出て来た変異種は最初からある程度の会話もできちゃうんだよ!」

 ゼーレが珍しく長い文を淀みなく早口で語った。

 その勢いにレイジは圧倒され、

「お、おう」

 微妙な返事をするしかできなかった。

「つまり何が言いたいというとね⋯⋯」
「う、うむ」
「変異種って超激レアなの!!」

 洞窟内で語尾がエコーを出すくらいに大きな声でゼーレは言った。

 先程までの焦った表情、次に見せた真剣な表情、そして今はレイジが兄妹関係を認めた時以上の笑顔。

 ここまでくると先程までの緊張は解け、こんなに表情が変わるのか、と考え深く思うけどしかできなくなったレイジだった。

 ◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️◆◾️

「ご、ごめんなさい!」

 落ち着いたゼーレの第一声である。
 かなり興奮したのが恥ずかしかったのか真っ赤になった顔を下に向けたまま上げようとしない。

「いいよ別に。それだけ凄いのが出て来たなら俺も嬉しいからさ」
「うー。は、恥ずかしい⋯⋯」

 ゼーレはそう言いながら顔を上げた。
 顔の色はだいぶ治まっている。

「で、変異種ってどいつなんだ?」
「ローブの子だね」
「やっぱりか。で、こいつは会話できるのか?」

 純粋な疑問だ。
 チラッとしか見えなかったが確かにローブの下は骸骨だった。
 骸骨が喋れるのか?そもそも声帯がないんだが⋯⋯。

「できると思うよ。ね?」

 ゼーレはローブに向かって言葉を投げた。

「⋯⋯」
「やっぱ声帯無いんじゃムリ...」
「すこし⋯⋯なら⋯⋯でき、る⋯⋯」
「できんの!?」

 掠れ掠れで、スムーズではないがきちんと会話ができる。
 それも若干女声っぽく。

「ほらぁね?」

 ゼーレがドヤ顔でレイジを見る。

「マジかよ。なんで?ローブの下って骸骨じゃなかったっけ?」
「わたし⋯⋯にも⋯⋯よく、わかん⋯⋯ない」
「他の子は会話できる?」

 ローブの摩訶不思議な声帯を確認したゼーレは他の魔物にも声をかけた。

「⋯⋯(フルフル)」

 黒タイツは首を横に振っている。
 会話はできないが意思疎通はできるようだ。
 そしてーー

「フェーフェッフェッフェ、さぁーっきから見してもろうたが、お主たち、面白いのぉ」

 突如シワがれたお爺さんのような声で緑肌が話してきた。

 え?何こいつ、何でこんなフレンドリーなの?
 いや別に、フレンドリーなのを悪いと言ってるんじゃなく、見た目との差が激しすぎるんだよ。というか、見た目がキモい。

「???」

 ゼーレに至っては「何だこいつ」みたいな顔してるし。

「な、なあゼーレ、こいつ何か知ってる?」
「ごめんお兄ちゃん、ゼーレも分かんない」
「フェッフェッフェ、寂しいこというのぉ。ワシぁ『餓鬼』という種族じゃよ」
「ッ!?」

『餓鬼』という名を聞いてゼーレが反応する。

「『餓鬼』と言えば六道輪廻のか?」
「フェッフェッフェ、博識じゃのぉ。その餓鬼で合ってるぞぉ」
「餓鬼⋯⋯ゼーレの記憶では凄い部類に入ってるよ」
「じゃろうなぁ」
「⋯⋯キモイけど」
「キモイんだ」
「うん、笑い方とか姿とか、格好とか、能力とか」
「⋯⋯そうか」
「フェー!さっきからキモイキモイと失礼じゃぞ!」

 餓鬼は顔を真っ赤にしながら訴えて来た。

 正直に言おう、キモイ。

「能力もキモイっていうけど何できんの?」
「ワシか?ワシぁどんなものでも食べることができる」
「⋯⋯そんだけ?」
「それだけじゃ」
「ショボ!!」
「ショ、ショボいじゃと!?そんなこたぁないぞ!何だって食べれるんじゃぞ!魔法も、斬撃も、全てじゃ!」

 あれ?そう言われると結構強い?

「⋯⋯ただし、動けんがのぉ」
「使えねぇ!」
「し、仕方ないじゃろう!お腹が邪魔なんじゃ!」
「痩せろよ!」

 この後、言い合いが続き餓鬼との親密度が若干上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...