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1 弟との出会い

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 小さい頃の記憶はあまりない。
 
 両親と馬車に乗っていて、どこかに出かけていたように思う。
 気が付いたら知らない屋敷のベッドの上で寝ていた。
 何となく覚えているのはこのシーンだけで、今は写真を見ないと実の両親の顔ですら分からない。
 
 美しい男性と女性が涙を流して代わる代わる抱きしめ、「これからはここで一緒に暮らそう」と言われ、僕はもう家族と会えないのだろうと察したのだ。
 
 
 それから数週間が経ち、僕はある程度自分の境遇や立場を理解した。
 レイフォード・フィールディング、フィールディング侯爵の長男で養子となった、らしい。
 元々はフィールディング侯爵の仲の良い従兄弟であったダニエル・パーカー伯爵の嫡子で、馬車の事故により両親を失った僕を義父カルロスと義母メアリーが引き取ってくれたのだ。
 2人とも実の子のように愛してくれる。僕も2人が大好きだ。
 
 そんな両親にもうすぐ子どもが産まれるらしい。そのため、最近屋敷内はソワソワしている。
 もれなく僕も勉強中に気になって扉をチラチラ見てしまい、家庭教師の先生に諌められる毎日を過ごしている。
 
 血縁関係では再従兄弟はとこに当たるが、ほぼ実の両親と思っている大好きな2人の子どもは兄として可愛がりたいし成長を見届けたいし幸せにしたい。
 そんな気もそぞろな日々を過ごしている中、遂に待望の赤ちゃんが産まれた。
 
 父様に呼ばれ、共に母様のいる部屋に入る。
「レイ、君の弟だよ。クロードという。これからは4人で家族みんなで助け合っていこうね。」
「レイ、クロードをよろしくね。」
 
 2人がそう話しているのを半分は理解しながら、僕は寝ているクロードに釘付けになった。
 
 な……な……なんって可愛いんだ!!!
 髪色は僕と同じ銀色で、ほっぺたも手もふわふわして眠っている。
 生命美。まさに天使。
 これは神様が遣わしてくれた希望、そして使命……!
 
 そんなことを内心思っているとは分からない意志の強さを感じさせる青い瞳を輝かせ「僕がクロードを守ります!」と両親に告げたのだった。
 
 見た目が繊細な為に暫く家族にすら気づかれなかったが、レイフォードは頭も良く温和であると共に意外と打たれ強かった。
 実の両親のことは悲しいがあまり覚えてないし、今の両親が大好きで幸せだと思っている。だが、あまり喜怒哀楽を見せ無い為、家族や使用人たちはレイフォードが今も心痛めているのだろうと思っていた。
 だからこそ、皆レイフォードの変化に中々気付かなかったのだ。弟が出来て喜んでいるレイフォードを見て安心していた。この瞬間より超ブラコンな残念美人となったことに周りが知るのはまだ先のことだった。








 あれから7年が経ち、僕は10歳となった。
 クロードはすくすくと育ち、母メアリー譲りの緑の瞳に可愛らしい口元、というか顔が良い、顔が可愛い。7歳とは思えない程頭が良い、天才だ。
 天使な上に天才だ。
 
「父様、クロードが天才過ぎて自身の力を持て余してるように感じます。僕と共に学校に通うことは出来ませんか? 率直に言うと離れたくないだけですが。」
「うん、レイフォード。制服着て学校のリュックを背負って、真面目な顔でクロードを抱いているけど、勿論出来ないよ。ほら遅刻しちゃうから行こうね。」
 
 弟のことに関すると頭が良いはずのレイフォードがおかしくなってしまう。
 最初は驚いたものの、幼いのにあまり自分の希望や意志を出さなかったレイフォードを心配していた分、嬉しさも大きくそのまま見守っていたら手に負えないブラコンに育ってしまった。
 もうフィールディング家・使用人一同、修正は無理だと判断し、とりあえずゆるく流すことに慣れてしまっていた。
 
「レイお兄様」

 抱きしめているクロードがレイフォードを抱きしめ返す。

「クロード……離れることはとてもとても悲しいし寂しいし、世知辛さに心が折れそうだけど、クロードを守る力を得る為に頑張ってくるよ。」
 
 僕はクロードを下ろして頬にキスをした。
 
「旦那様、レイフォード様は学校に通われるようになってから半年間、登校前にあのようなやり取りをされているような気がしますが……。」
「ほぼルーティンと化しているが本人は本気だし、クロードも嬉しそうだから放っておこう。」
 
 フィールディング家の関係者以外は知らないこの日常が、ある日を境に変化していくことをこの時はまだ誰も知らなかった。
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