65 / 79
62 新しい日常
しおりを挟む
「ティア、何かあったらすぐに指輪を触って『助けてレオ…!』って思いを込めるんだよ。それが一番早く気付けるから」
「うん」
「誰かに危害を加えられそうになったら、気にせず保護魔法でぶち飛ばしてやるんだ。何をしてもティアが正義だ。嫌になったらナルカデアへ留学するでも良いし、卒業を待たず入籍して、二人のお店でも持って暮らすのも良い」
「それは良いね」
「だろう? アルテナでティアと一緒に入店したような可愛いカフェを開こう」
「うん、いつか叶えたいな」
「なんなら今日の登校はやめるか? 天気も良いし、オレの目が届かない屋内じゃなく、家の庭で過ごさないか? 伯爵家の庭園は綺麗に剪定されて素晴らしい。王宮の庭にも劣らない。紅葉が見頃だし、じっくり二人で散策しよう」
「帰ったら一緒に見て回ろうか」
「あぁ、本当に行ってしまうのか……」
「ごめんね、今日は試験だから……」
「お二人とも」
「「ん?」」
「ずっと校舎の入口に馬車が停まっていると皆の迷惑になるって何回言えば分かるの!」
「ご、ごめんなキール。今日で終わりだから……」
「今日で終わりなのは明日から冬休みに入るからでしょー!? 毎日毎日同じようなこと言って何分も何分も……」
キールがぷりぷりくどくどと怒っている。いや、確かに迷惑を掛けていることは分かっているし、同じようなことを繰り返し謝罪しているけど、毎日レオから心配してもらったり、デートのようなお誘いをされたりするのが嬉しくて強く止められずにいる。
レオも半分は毎朝のこのやりとりを楽しんでいる節があるが、半分は本気だろう。学校の臨時職員に応募していた。そして落ちていた。恐らく冒険者であること以外の情報が不清明であるためだ。ナルカデア王国の公爵だと明かせば即採用どころか名誉教授くらいになりそうだが、そうなるとアキスト王国にも他国にもレオの存在が筒抜けになり、余計問題になりそうだったので諦めたらしい。
一緒に学校で過ごせたら楽しいだろうが、保護魔法もあるし、指輪でレオと繋がっているから、大きな心配はしていない。馬車での送り迎えも常にレオが付き添ってくれている。
レオと登下校するようになった初日の下校時に、馬車が到着するより先にレオが学校に来て、放課のチャイムと共に教室に入って来た時は驚いた。教室が騒然となり、「終わったかい? 一緒に帰ろう」とか言って抱き締めるし、フリードはただ笑っていて、レオを知っているキールが「あー! エルの恋人がなんでここに!?」と大声で叫んだものだから、話はすぐに広がって今は全生徒が知っている。
俺とレオは担任教師に連行され、『親しい間柄でも事前に申請が無ければ校舎の中に入らないように』と至極当然の注意を受けた。後から聞くと、レオは元々教室まで来るのは一度だけの予定だったそうだ。元王族だから実は常識が……? と心配したがそんなことは無かった。なんでも俺にレオという存在がいることを見せ付け、俺にちょっかいを掛ける人を減らそうとしたのだとか。一応俺も伯爵家だし、公爵家のフリードと親しくなり、侯爵家のキールとの仲も良好になってることは周りも気付いているため、俺に何かしようなんて輩はいないと思うんだが……。
俺がそう伝えると、レオは真面目な顔で答えた。
「ティア、オレと付き合い始めて、どんどん可愛くなっていってるのに気付いてる?」
「は? いや、可愛くはないけど」
「気付いてない……か…」
「だから、自己評価として、自ら言うのは少し恥ずかしいんだけど、どちらかと言えば俺はカッコ良い方じゃないかな? とは思っています」
「ティアは確かにカッコ良い顔立ちだよ。だけどね、表情や雰囲気に愛らしさを隠せなくなってる」
これは俺が何を言ってもダメだ。俺の主張は届かない。
「初めはオレの前でだけ可愛くて幼くなって甘えてほわほわになってたのに、今はオレがずっと一緒にいるからそれが通常運転になっちゃってるんだよ」
「え? そうかな? レオがいない間は前と変わらず無表情でクールなエルティアくんのつもりだけど」
「はいそれは事実と異なりますー。フリードに聞いてますー! 教室でにこにこしながら指輪触ったり鏡に映ったピアスを眺めたりしてるって聞いてますー! 本当にティア可愛い、なんでそんなことするの。オレの前でしてよ。オレの前だけで」
「え゛!? そんなことして……ないと……思うけど」
無意識にしてたのかなぁ……。幸せすぎて浮かれてた時期があったからなぁ。ちなみにフリードはヴィダ草調達の件でレオが便宜を図ったからか、いつの間にか内通者となっていたらしい。
「そのせいで一部では『黒い悪魔』から『黒い小悪魔』に呼称が変わってると聞いた」
「いや、恐怖と威力がダウングレードしてるだけじゃ……」
「小悪魔はダメだよ。小悪魔って言ってる奴みんなティアに魅了されてるよ。狙われてるよ。ティアが危ないよ」
「いや……まぁ……。俺はレオが大袈裟に捉えて勘違いしてるだけだと思うけど。じゃあ減らそうとしてたちょっかいって暴力とかイジメとかじゃなくて、恋愛的な意味合いってこと?」
「両方だ。とりあえず牽制しといて、それでもティアに対してどちらの意味でも手を出そうとする奴がいたら片っ端から消そうと思って。男も女も関係なく」
「いや、本当に俺はモテないから大丈夫だよ。それよりレオが毎日学校来たらカッコ良いって騒がれちゃうよ……」
「もしティアを待っている間に知らない奴が来ても、ティア以外にオレを触らせないし優しく会話もしないよ。ティアはオレのことを自分の恋人だからって周りに紹介しておいてね」
「……うん……」
なんだかんだあってもレオのことが大好きだし、レオも俺のことを愛してくれているのが分かるので、なんでも許してしまう。自分で言うのもなんだけど蜜月状態だからな……。仕方ない。
もちろんレオが心配するようなことは起きずに、平和な日々が続き、今年最後の登校日となった。毎朝俺とレオが長々と校門前にいるためにキールが叱りに来るのが習慣となっていた。
「でもほら、馬車で校門前の入口に横付けする人って限られてるし」
「僕とかフリードくんとかね!」
「……本当に申し訳ない」
「フリードくんはエルたちのせいで15分も早く登校するようになったんだよ? 公爵家だよ!? 何故か全然怒ってないどころかすごく機嫌が良かったけど」
「弟くんへの賄賂が効いてる(ボソッ)」
「それキールに知られないようにしてね(ボソッ)」
「二人とも聞いていますか? 僕は怒っています」
「「はい、ごめんなさい」」
再びぷんぷんしながら叱り始めたキールをリアムが呼びに来たことで、この日もなんとか遅刻せずに済んだ。
「うん」
「誰かに危害を加えられそうになったら、気にせず保護魔法でぶち飛ばしてやるんだ。何をしてもティアが正義だ。嫌になったらナルカデアへ留学するでも良いし、卒業を待たず入籍して、二人のお店でも持って暮らすのも良い」
「それは良いね」
「だろう? アルテナでティアと一緒に入店したような可愛いカフェを開こう」
「うん、いつか叶えたいな」
「なんなら今日の登校はやめるか? 天気も良いし、オレの目が届かない屋内じゃなく、家の庭で過ごさないか? 伯爵家の庭園は綺麗に剪定されて素晴らしい。王宮の庭にも劣らない。紅葉が見頃だし、じっくり二人で散策しよう」
「帰ったら一緒に見て回ろうか」
「あぁ、本当に行ってしまうのか……」
「ごめんね、今日は試験だから……」
「お二人とも」
「「ん?」」
「ずっと校舎の入口に馬車が停まっていると皆の迷惑になるって何回言えば分かるの!」
「ご、ごめんなキール。今日で終わりだから……」
「今日で終わりなのは明日から冬休みに入るからでしょー!? 毎日毎日同じようなこと言って何分も何分も……」
キールがぷりぷりくどくどと怒っている。いや、確かに迷惑を掛けていることは分かっているし、同じようなことを繰り返し謝罪しているけど、毎日レオから心配してもらったり、デートのようなお誘いをされたりするのが嬉しくて強く止められずにいる。
レオも半分は毎朝のこのやりとりを楽しんでいる節があるが、半分は本気だろう。学校の臨時職員に応募していた。そして落ちていた。恐らく冒険者であること以外の情報が不清明であるためだ。ナルカデア王国の公爵だと明かせば即採用どころか名誉教授くらいになりそうだが、そうなるとアキスト王国にも他国にもレオの存在が筒抜けになり、余計問題になりそうだったので諦めたらしい。
一緒に学校で過ごせたら楽しいだろうが、保護魔法もあるし、指輪でレオと繋がっているから、大きな心配はしていない。馬車での送り迎えも常にレオが付き添ってくれている。
レオと登下校するようになった初日の下校時に、馬車が到着するより先にレオが学校に来て、放課のチャイムと共に教室に入って来た時は驚いた。教室が騒然となり、「終わったかい? 一緒に帰ろう」とか言って抱き締めるし、フリードはただ笑っていて、レオを知っているキールが「あー! エルの恋人がなんでここに!?」と大声で叫んだものだから、話はすぐに広がって今は全生徒が知っている。
俺とレオは担任教師に連行され、『親しい間柄でも事前に申請が無ければ校舎の中に入らないように』と至極当然の注意を受けた。後から聞くと、レオは元々教室まで来るのは一度だけの予定だったそうだ。元王族だから実は常識が……? と心配したがそんなことは無かった。なんでも俺にレオという存在がいることを見せ付け、俺にちょっかいを掛ける人を減らそうとしたのだとか。一応俺も伯爵家だし、公爵家のフリードと親しくなり、侯爵家のキールとの仲も良好になってることは周りも気付いているため、俺に何かしようなんて輩はいないと思うんだが……。
俺がそう伝えると、レオは真面目な顔で答えた。
「ティア、オレと付き合い始めて、どんどん可愛くなっていってるのに気付いてる?」
「は? いや、可愛くはないけど」
「気付いてない……か…」
「だから、自己評価として、自ら言うのは少し恥ずかしいんだけど、どちらかと言えば俺はカッコ良い方じゃないかな? とは思っています」
「ティアは確かにカッコ良い顔立ちだよ。だけどね、表情や雰囲気に愛らしさを隠せなくなってる」
これは俺が何を言ってもダメだ。俺の主張は届かない。
「初めはオレの前でだけ可愛くて幼くなって甘えてほわほわになってたのに、今はオレがずっと一緒にいるからそれが通常運転になっちゃってるんだよ」
「え? そうかな? レオがいない間は前と変わらず無表情でクールなエルティアくんのつもりだけど」
「はいそれは事実と異なりますー。フリードに聞いてますー! 教室でにこにこしながら指輪触ったり鏡に映ったピアスを眺めたりしてるって聞いてますー! 本当にティア可愛い、なんでそんなことするの。オレの前でしてよ。オレの前だけで」
「え゛!? そんなことして……ないと……思うけど」
無意識にしてたのかなぁ……。幸せすぎて浮かれてた時期があったからなぁ。ちなみにフリードはヴィダ草調達の件でレオが便宜を図ったからか、いつの間にか内通者となっていたらしい。
「そのせいで一部では『黒い悪魔』から『黒い小悪魔』に呼称が変わってると聞いた」
「いや、恐怖と威力がダウングレードしてるだけじゃ……」
「小悪魔はダメだよ。小悪魔って言ってる奴みんなティアに魅了されてるよ。狙われてるよ。ティアが危ないよ」
「いや……まぁ……。俺はレオが大袈裟に捉えて勘違いしてるだけだと思うけど。じゃあ減らそうとしてたちょっかいって暴力とかイジメとかじゃなくて、恋愛的な意味合いってこと?」
「両方だ。とりあえず牽制しといて、それでもティアに対してどちらの意味でも手を出そうとする奴がいたら片っ端から消そうと思って。男も女も関係なく」
「いや、本当に俺はモテないから大丈夫だよ。それよりレオが毎日学校来たらカッコ良いって騒がれちゃうよ……」
「もしティアを待っている間に知らない奴が来ても、ティア以外にオレを触らせないし優しく会話もしないよ。ティアはオレのことを自分の恋人だからって周りに紹介しておいてね」
「……うん……」
なんだかんだあってもレオのことが大好きだし、レオも俺のことを愛してくれているのが分かるので、なんでも許してしまう。自分で言うのもなんだけど蜜月状態だからな……。仕方ない。
もちろんレオが心配するようなことは起きずに、平和な日々が続き、今年最後の登校日となった。毎朝俺とレオが長々と校門前にいるためにキールが叱りに来るのが習慣となっていた。
「でもほら、馬車で校門前の入口に横付けする人って限られてるし」
「僕とかフリードくんとかね!」
「……本当に申し訳ない」
「フリードくんはエルたちのせいで15分も早く登校するようになったんだよ? 公爵家だよ!? 何故か全然怒ってないどころかすごく機嫌が良かったけど」
「弟くんへの賄賂が効いてる(ボソッ)」
「それキールに知られないようにしてね(ボソッ)」
「二人とも聞いていますか? 僕は怒っています」
「「はい、ごめんなさい」」
再びぷんぷんしながら叱り始めたキールをリアムが呼びに来たことで、この日もなんとか遅刻せずに済んだ。
2
お気に入りに追加
198
あなたにおすすめの小説
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
身代わりオメガの純情
夕夏
BL
宿無しの少年エレインは、靴磨きで生計を立てている。彼はある日、死んでしまったレドフォード伯爵家の次男アルフレッドに成り代わり嫁ぐことを伯爵家の執事トーマスに提案され、困惑する。しかし知り合いの死を機に、「アルフレッド」に成り代わることを承諾する。
バース性がわからないまま、オメガのふりをしてバーレント伯爵エドワードと婚約したエレイン。オメガであることを偽装するために、媚薬を飲み、香水を使うも、エドワードにはあっさりと看破されてしまう。はじめは自分に興味を示さないかと思われていたエドワードから思いもよらない贈り物を渡され、エレインは喜ぶと同時に自分がアルフレッドに成り代わっていることを恥じる。エレインは良心の呵責と幸せの板挟みにあいながら、夜会や春祭りでエドワードと心を通わせていく。
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
召喚先は腕の中〜異世界の花嫁〜【完結】
クリム
BL
僕は毒を飲まされ死の淵にいた。思い出すのは優雅なのに野性味のある獣人の血を引くジーンとの出会い。
「私は君を召喚したことを後悔していない。君はどうだい、アキラ?」
実年齢二十歳、製薬会社勤務している僕は、特殊な体質を持つが故発育不全で、十歳程度の姿形のままだ。
ある日僕は、製薬会社に侵入した男ジーンに異世界へ連れて行かれてしまう。僕はジーンに魅了され、ジーンの為にそばにいることに決めた。
天然主人公視点一人称と、それ以外の神視点三人称が、部分的にあります。スパダリ要素です。全体に甘々ですが、主人公への気の毒な程の残酷シーンあります。
このお話は、拙著
『巨人族の花嫁』
『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』
の続作になります。
主人公の一人ジーンは『巨人族の花嫁』主人公タークの高齢出産の果ての子供になります。
重要な世界観として男女共に平等に子を成すため、宿り木に赤ん坊の実がなります。しかし、一部の王国のみ腹実として、男女平等に出産することも可能です。そんなこんなをご理解いただいた上、お楽しみください。
★なろう完結後、指摘を受けた部分を変更しました。変更に伴い、若干の内容変化が伴います。こちらではpc作品を削除し、新たにこちらで再構成したものをアップしていきます。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる