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57 家族会議
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「オルフェス、他国の物流の内容の変化や物資の不足はどうであったか? また、レナセール国中心に気になったことがあれば教えてくれ」
「はい。まず、食料や木材などの燃料、包帯や薬などの医療品が各国不足しています。これはレナセール国が多く買い付けている為ですが、国内に届けられる前に奪われているようです」
「奪われている?」
「はい。今レナセール国内にいるのは帝国派が主で、市民派は国外に追放、または逃亡しています。恐らくその者達が集団行動し、計画的に強奪しているようです」
「内戦への準備だと思うか?」
「一見そう思えます。が、少し変なんです」
「変とは?」
「本来、レナセール国が購入した物資を盗まれ、奪われることがあればレナセール側は怒って排除するでしょう。それは法に則った当然の権利です。しかし、そんな素振りはなく放置しています。その強奪現場が国境付近であっても武力行使はせず、小競り合いはあれど命を落とす程の怪我をしたという話さえ聞かないのです」
お兄様の話だけ聞くと、帝国派は市民派との戦いを大きくしたい訳では無さそうに見える。むしろ市民派の好きにさせており、国内での物資が減る一方の現状を考えると籠城戦はあまりにも不利、攻め込まれたら負けそうである。帝国派が自滅を企んでいるような行動だ。だが、戦いの火種を生んだのは帝国派に違いない。なのに火種を撒いた理由は分からない。今まで二つの派閥があったとしても問題なく国内の治世は保たれていたのに。分からないことが多く、わざと油断させている可能性もある。市民派も判断材料が揃うまで様子を見ているのだろう。
「ふむ……。ガルダニア帝国の動きはどうだ」
「証拠はありませんが……レナセール国の元々いた市民派の役人や高位貴族は密やかに帝国内に捕らえられている可能性がありそうです。レナセール国にいた密偵の複数が、帝国へと向かう馬車に拘束された人をのせる瞬間を見たとのこと」
「人質にしているのか、他に理由があるのか分からんな……。私が知る限り今のところは帝国からアキスト王国への圧力や干渉はないが……」
「その件について、いくつか私からお話がございます」
今までただ二人の会話を聞いていたレオが口を開いた。俺がフリードから聞いた、ガルダニア帝国が俺の存在に気付いている可能性とその根拠を話した。家族みんなが眉をひそめ苦い顔をした。
「あくまで可能性のお話ですが……。盗賊とアルテナの商人が帝国と繋がっていたことは確かなようです」
「もし帝国がティアを条件とした提案を陛下にすることがあれば、私とカレンが責任を持って、ティアを国外に逃がす。オルフェスには負担と苦労をかけるが、伯爵位を譲ることになる」
「ティアのことは私が必ず守ります」
「当たり前だ。でなければ婚約などさせない。もし陛下から話があったら新婚旅行に出発したとでも言うから、いつでもすぐに出発出来るようにしておくように」
「分かりました」
まさか俺が国外に逃亡する計画を練ることになるとは……少し前までは全く予想出来なかったことだ。心臓がドクドクと鳴り不安に苛まれるが、レオがいるから大丈夫、と口には出さずに何度も唱えた。俺のせいで両親にもお兄様にも迷惑を掛けてしまう……。お母様を見ると目が合い、にっこりと笑った。
「私たちのことは心配しなくて大丈夫よ。アキスト王国に長年仕えているし、王家はただの優柔不断だからこちらが強く出れば勝てるわ」
勝てるとは?
「ほら、アキスト王国の税収の中でも、私たちの貿易業によるところが大きいから、伯爵位だけど発言権が強いんだよ。メンブルク公爵もこちら側についてくれるみたいだし、大丈夫大丈夫」
お父様もお母様も呑気で、強ばっていた体が少し弛緩する。
「ティア、私のことも心配しなくて構わない。王太子とは学生時代から友人だし直接何かされることは無いよ。ただ陛下を含め王家の一部は優柔不断だから振りまされることは有り得る。自分自身を守ることだけ考えておいてくれ」
「はい……ありがとうございます。お兄様」
「可愛いティアを直接守れなくてもどかしいよ。……しかも他国のよく分からない男に任せるなんて……」
おっと雲行きが怪しくなってきた。またシャムを呼んでくるか? お兄様は無言でレオを睨んでいてレオは薄く微笑んでいる。俺を挟んでバチバチしないで。あ、レオが俺の肩を掴んで寄せてきた。パリンと何かが割れる音がした。
「レオン! お前が他国の王族だろうが関係ない! ティアとの結婚は認めない! 決闘だ!!」
「ちょ、ちょっとお兄様!」
「かしこまりました。その決闘に私が勝利すればティアとの結婚を認めて下さいますね?」
「良いだろう!! 明日の11時に中庭へ来い!」
「万全を期して向かいます」
「ふん! ティア、また明日な。お父様もお母様、私はここで失礼致します」
お兄様がレオに肩を抱かれたままの俺の額と頬にキスをして食堂から出ていった。外の入口で待機していたシャムがお兄様の後に続いていくのが見えた。深刻な話をしていたはずなのに何故こんな内輪揉めに。
お兄様が壊したグラスをジェイムズが片すのを横目に俺とレオも退席し、自室へと向かった。
「はい。まず、食料や木材などの燃料、包帯や薬などの医療品が各国不足しています。これはレナセール国が多く買い付けている為ですが、国内に届けられる前に奪われているようです」
「奪われている?」
「はい。今レナセール国内にいるのは帝国派が主で、市民派は国外に追放、または逃亡しています。恐らくその者達が集団行動し、計画的に強奪しているようです」
「内戦への準備だと思うか?」
「一見そう思えます。が、少し変なんです」
「変とは?」
「本来、レナセール国が購入した物資を盗まれ、奪われることがあればレナセール側は怒って排除するでしょう。それは法に則った当然の権利です。しかし、そんな素振りはなく放置しています。その強奪現場が国境付近であっても武力行使はせず、小競り合いはあれど命を落とす程の怪我をしたという話さえ聞かないのです」
お兄様の話だけ聞くと、帝国派は市民派との戦いを大きくしたい訳では無さそうに見える。むしろ市民派の好きにさせており、国内での物資が減る一方の現状を考えると籠城戦はあまりにも不利、攻め込まれたら負けそうである。帝国派が自滅を企んでいるような行動だ。だが、戦いの火種を生んだのは帝国派に違いない。なのに火種を撒いた理由は分からない。今まで二つの派閥があったとしても問題なく国内の治世は保たれていたのに。分からないことが多く、わざと油断させている可能性もある。市民派も判断材料が揃うまで様子を見ているのだろう。
「ふむ……。ガルダニア帝国の動きはどうだ」
「証拠はありませんが……レナセール国の元々いた市民派の役人や高位貴族は密やかに帝国内に捕らえられている可能性がありそうです。レナセール国にいた密偵の複数が、帝国へと向かう馬車に拘束された人をのせる瞬間を見たとのこと」
「人質にしているのか、他に理由があるのか分からんな……。私が知る限り今のところは帝国からアキスト王国への圧力や干渉はないが……」
「その件について、いくつか私からお話がございます」
今までただ二人の会話を聞いていたレオが口を開いた。俺がフリードから聞いた、ガルダニア帝国が俺の存在に気付いている可能性とその根拠を話した。家族みんなが眉をひそめ苦い顔をした。
「あくまで可能性のお話ですが……。盗賊とアルテナの商人が帝国と繋がっていたことは確かなようです」
「もし帝国がティアを条件とした提案を陛下にすることがあれば、私とカレンが責任を持って、ティアを国外に逃がす。オルフェスには負担と苦労をかけるが、伯爵位を譲ることになる」
「ティアのことは私が必ず守ります」
「当たり前だ。でなければ婚約などさせない。もし陛下から話があったら新婚旅行に出発したとでも言うから、いつでもすぐに出発出来るようにしておくように」
「分かりました」
まさか俺が国外に逃亡する計画を練ることになるとは……少し前までは全く予想出来なかったことだ。心臓がドクドクと鳴り不安に苛まれるが、レオがいるから大丈夫、と口には出さずに何度も唱えた。俺のせいで両親にもお兄様にも迷惑を掛けてしまう……。お母様を見ると目が合い、にっこりと笑った。
「私たちのことは心配しなくて大丈夫よ。アキスト王国に長年仕えているし、王家はただの優柔不断だからこちらが強く出れば勝てるわ」
勝てるとは?
「ほら、アキスト王国の税収の中でも、私たちの貿易業によるところが大きいから、伯爵位だけど発言権が強いんだよ。メンブルク公爵もこちら側についてくれるみたいだし、大丈夫大丈夫」
お父様もお母様も呑気で、強ばっていた体が少し弛緩する。
「ティア、私のことも心配しなくて構わない。王太子とは学生時代から友人だし直接何かされることは無いよ。ただ陛下を含め王家の一部は優柔不断だから振りまされることは有り得る。自分自身を守ることだけ考えておいてくれ」
「はい……ありがとうございます。お兄様」
「可愛いティアを直接守れなくてもどかしいよ。……しかも他国のよく分からない男に任せるなんて……」
おっと雲行きが怪しくなってきた。またシャムを呼んでくるか? お兄様は無言でレオを睨んでいてレオは薄く微笑んでいる。俺を挟んでバチバチしないで。あ、レオが俺の肩を掴んで寄せてきた。パリンと何かが割れる音がした。
「レオン! お前が他国の王族だろうが関係ない! ティアとの結婚は認めない! 決闘だ!!」
「ちょ、ちょっとお兄様!」
「かしこまりました。その決闘に私が勝利すればティアとの結婚を認めて下さいますね?」
「良いだろう!! 明日の11時に中庭へ来い!」
「万全を期して向かいます」
「ふん! ティア、また明日な。お父様もお母様、私はここで失礼致します」
お兄様がレオに肩を抱かれたままの俺の額と頬にキスをして食堂から出ていった。外の入口で待機していたシャムがお兄様の後に続いていくのが見えた。深刻な話をしていたはずなのに何故こんな内輪揉めに。
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