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54 ガルロさんの優しさ
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「それで、一体何があった」
「今起きていることじゃない。レナセール国で紛争が相次ぎ、いよいよ内戦に発展しそうだと聞いた。事実か?」
「……そうだな。国境付近での治安はどんどん悪くなって、物理的も滞っているらしい。オレの嫁さんがレナセールの隣の田舎町にいるんだが、紛争に巻き込まれる心配や物資の不足が出始めて、来週中にも嫁さんの家族共々ここに越してくる予定だ」
「じゃあ、内戦はもうほぼ確定か」
「あぁ。だが不思議なことに、紛争はあるが一般国民は誰一人として死んでいないんだ。良い事だが、普通巻き込まれて毎日誰かしら亡くなるもんだ。しかし、怪我した人はいても死んだ人はいない。普通の争いとは違う気がする」
「弾圧に対する弾劾戦争ではなく、他に理由があるってことか?」
「それまでは分からん。どちらにしろ治安も物流も悪くなっているから、人が亡くなるのは時間の問題だ」
「そんな……」
争いや戦いとは無縁だった俺が、二人から語られる戦争の実態を少し聞いただけで、恐ろしくて震えそうだった。
「ガルロさんのお嫁さんや、お子さん含めたご家族の方々は大丈夫なんですか……?」
「レナセール国の隣国と言っても端の端にある田舎だから大丈夫だ。最低限の荷物を準備して明日にも出発するらしい。逆に国境から遠いのに影響が出てきたから、いよいよ危ないというわけだ」
「…………」
重い沈黙が走る。他国だが内戦が起きる。それも、シドやラキくんたちの故郷が。彼らも、この戦いに関与しているんだろうか……。無事でいてくれ……。
「それで、そのこととエレンくん、どんな関係があるんだ」
「詳しいことは言えない。だが、レナセール国内の争いの発端はガルダニア派の弾圧と凶行だ。そして、エレンはガルダニア帝国から狙われている可能性がある」
ガルロさんは息を呑み目を見張り、俺に視線を移した。
「エレンが!? おい大丈夫なのか!?」
「大丈夫なようにオレがエレンの傍にずっといる」
「学校にいる間とかに攫われるかもしれないだろ?」
「……その件に関してはエレンのご両親とも話してどうするか決める」
レオの表情が陰る。そうだよな……学校にいる間に何かあるかもしれない。気にしすぎかとは思うが、フリードからも国外に逃げることも考えろと言われると……。お父様たちにも今日こそ相談しないといけない。
「エレンが家にいる間はどうするんだ」
「この間から一緒に住んでる」
「……そうか……まぁ……分かった。オレに出来ることがあれば言ってくれ。何をして欲しい」
「ここには冒険者たちが多く来るから、内戦が始まりそうだとか、ガルダニア帝国からの介入を感じる出来事だとか、些細な異変があればすぐに伝えて欲しい」
「分かった。どこに行けば良い」
「そうだな……」
レオは俺に付きっきりだし、自宅にもギルドにも毎日寄れる訳じゃない。行けるなら直接ガルロさんの食堂に行くし……。なら……。
「クロスフェード伯爵家までお願い出来ますか」
「エレン!」
「分かった。クロスフェード伯爵様の屋敷だな。任された」
レオが焦った声を出すも、ガルロさんはニカッと笑い、腕を伸ばして俺の頭をガシガシと撫でた。察してもこちらが話さない限り深入りしないようにしてくれるガルロさんの優しさに、今は甘えることにした。撫でられながら目が潤んでくるのを感じるが、横からレオがガルロさんの手の上から俺の頭を撫でると、二人がまた軽快な口喧嘩を始めてしまい、面白くて笑ってしまった。
しばらく来れないマルタ食堂を出て、ガルロさんに別れを告げ、伯爵邸への道を辿る。分からないことが多すぎて不安になるけど、俺は今一人じゃない。助けてくれる人達がいることを幸せに感じ、昨日底まで落ち込んだ気持ちが大分浮上してきた。俺は俺に出来ることを頑張ろう。
「さぁティア、ここからはオレたち二人の時間だ」
「え?」
再び俺の右手をぎゅっと握ったレオが少し茶目っ気を出して笑う。
「楽しい楽しい初デートだ」
「ティア、これ似合うよ。あ、こっちも良いなぁ」
「あの……レオ……もうお店出ない?」
「まだ欲しいもの買えてないし、外の人は無視しとけば良いよ。あ、ご主人、このイヤリング他の色もありますか?」
「は、はい!! 今奥から出して参ります!!」
今俺とレオは装飾品専門店に来ている。店内には俺とレオ二人しかいない。男二人、しかも超男前のレオと手を繋いで歩いていると目立ちすぎて、ものすごい視線の量が降り注がれた。このお店に入る頃になると野次馬がお店のウィンドウに張り付くように見ていた。レオは元王族だから好奇の眼差しに晒されることに慣れているのかもしれないが、学校では怖がられている俺はネガティブな感情を向けられることには多少慣れていても、こうジロジロと見られることは初めてでソワソワして落ち着かない。
「ティア、気に入ったものはあった? オレとしてはお揃いのイヤリングかネックレスが良いな」
お店の喧騒など本当に気にならないようで、慣れているというより、もしかしてレオは神経が図太いのでは……? と思ったが、かっこいい顔に満面の笑みを浮かべるレオに、まぁデートを直接邪魔する訳じゃないし良いか、とちょっと気楽になるのだった。
「今起きていることじゃない。レナセール国で紛争が相次ぎ、いよいよ内戦に発展しそうだと聞いた。事実か?」
「……そうだな。国境付近での治安はどんどん悪くなって、物理的も滞っているらしい。オレの嫁さんがレナセールの隣の田舎町にいるんだが、紛争に巻き込まれる心配や物資の不足が出始めて、来週中にも嫁さんの家族共々ここに越してくる予定だ」
「じゃあ、内戦はもうほぼ確定か」
「あぁ。だが不思議なことに、紛争はあるが一般国民は誰一人として死んでいないんだ。良い事だが、普通巻き込まれて毎日誰かしら亡くなるもんだ。しかし、怪我した人はいても死んだ人はいない。普通の争いとは違う気がする」
「弾圧に対する弾劾戦争ではなく、他に理由があるってことか?」
「それまでは分からん。どちらにしろ治安も物流も悪くなっているから、人が亡くなるのは時間の問題だ」
「そんな……」
争いや戦いとは無縁だった俺が、二人から語られる戦争の実態を少し聞いただけで、恐ろしくて震えそうだった。
「ガルロさんのお嫁さんや、お子さん含めたご家族の方々は大丈夫なんですか……?」
「レナセール国の隣国と言っても端の端にある田舎だから大丈夫だ。最低限の荷物を準備して明日にも出発するらしい。逆に国境から遠いのに影響が出てきたから、いよいよ危ないというわけだ」
「…………」
重い沈黙が走る。他国だが内戦が起きる。それも、シドやラキくんたちの故郷が。彼らも、この戦いに関与しているんだろうか……。無事でいてくれ……。
「それで、そのこととエレンくん、どんな関係があるんだ」
「詳しいことは言えない。だが、レナセール国内の争いの発端はガルダニア派の弾圧と凶行だ。そして、エレンはガルダニア帝国から狙われている可能性がある」
ガルロさんは息を呑み目を見張り、俺に視線を移した。
「エレンが!? おい大丈夫なのか!?」
「大丈夫なようにオレがエレンの傍にずっといる」
「学校にいる間とかに攫われるかもしれないだろ?」
「……その件に関してはエレンのご両親とも話してどうするか決める」
レオの表情が陰る。そうだよな……学校にいる間に何かあるかもしれない。気にしすぎかとは思うが、フリードからも国外に逃げることも考えろと言われると……。お父様たちにも今日こそ相談しないといけない。
「エレンが家にいる間はどうするんだ」
「この間から一緒に住んでる」
「……そうか……まぁ……分かった。オレに出来ることがあれば言ってくれ。何をして欲しい」
「ここには冒険者たちが多く来るから、内戦が始まりそうだとか、ガルダニア帝国からの介入を感じる出来事だとか、些細な異変があればすぐに伝えて欲しい」
「分かった。どこに行けば良い」
「そうだな……」
レオは俺に付きっきりだし、自宅にもギルドにも毎日寄れる訳じゃない。行けるなら直接ガルロさんの食堂に行くし……。なら……。
「クロスフェード伯爵家までお願い出来ますか」
「エレン!」
「分かった。クロスフェード伯爵様の屋敷だな。任された」
レオが焦った声を出すも、ガルロさんはニカッと笑い、腕を伸ばして俺の頭をガシガシと撫でた。察してもこちらが話さない限り深入りしないようにしてくれるガルロさんの優しさに、今は甘えることにした。撫でられながら目が潤んでくるのを感じるが、横からレオがガルロさんの手の上から俺の頭を撫でると、二人がまた軽快な口喧嘩を始めてしまい、面白くて笑ってしまった。
しばらく来れないマルタ食堂を出て、ガルロさんに別れを告げ、伯爵邸への道を辿る。分からないことが多すぎて不安になるけど、俺は今一人じゃない。助けてくれる人達がいることを幸せに感じ、昨日底まで落ち込んだ気持ちが大分浮上してきた。俺は俺に出来ることを頑張ろう。
「さぁティア、ここからはオレたち二人の時間だ」
「え?」
再び俺の右手をぎゅっと握ったレオが少し茶目っ気を出して笑う。
「楽しい楽しい初デートだ」
「ティア、これ似合うよ。あ、こっちも良いなぁ」
「あの……レオ……もうお店出ない?」
「まだ欲しいもの買えてないし、外の人は無視しとけば良いよ。あ、ご主人、このイヤリング他の色もありますか?」
「は、はい!! 今奥から出して参ります!!」
今俺とレオは装飾品専門店に来ている。店内には俺とレオ二人しかいない。男二人、しかも超男前のレオと手を繋いで歩いていると目立ちすぎて、ものすごい視線の量が降り注がれた。このお店に入る頃になると野次馬がお店のウィンドウに張り付くように見ていた。レオは元王族だから好奇の眼差しに晒されることに慣れているのかもしれないが、学校では怖がられている俺はネガティブな感情を向けられることには多少慣れていても、こうジロジロと見られることは初めてでソワソワして落ち着かない。
「ティア、気に入ったものはあった? オレとしてはお揃いのイヤリングかネックレスが良いな」
お店の喧騒など本当に気にならないようで、慣れているというより、もしかしてレオは神経が図太いのでは……? と思ったが、かっこいい顔に満面の笑みを浮かべるレオに、まぁデートを直接邪魔する訳じゃないし良いか、とちょっと気楽になるのだった。
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