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結論、ドMはめんどくさい!

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「えっ、あっ……えっと……アンリエットちゃん、違うのこれは……!」

 これはルナちゃんが勝手にやり始めたことで! と言い訳しようとしたけど、確かにやり始めたのはルナちゃんだけど、私もそれを許していたので同罪か……!

 アンリエットは何か言いたげに口をパクパクさせていたが、やがて……

「え、エリノアさんのバカっ!」

 と叫んで袖で涙を拭いながら走り去ってしまった。


「アンリエットちゃん!」

 私は再び足をぺろぺろと舐め始めたルニャちゃんを押しのけてアンリエットの後を追おうとした。

「……あんっ」

 こら、ルナちゃん変な声出さないの!
 慌てて服を着ると扉を開けて左右を見回す。が、廊下のどこにもアンリエットの姿はなかった。──あの子いったいどこに消えたの……? 王宮には私の部屋に侵入するためにルナちゃんが使っていた抜け穴みたいなものがたくさんあるらしくて、多分それを使ってどこかに行ってしまったのだろう。

「……どうしよう……アンリエットちゃんに嫌われちゃった……」

 アンリエットはこの世界での杏理であって……つまり私の想い人で……アンリエットに嫌われるということは杏理に嫌われるってことで……

 私は目の前が真っ暗になるような感覚に襲われた。

「……バカバカ! 私のバカ!」

「バカはわたしですけど……」

 私の絶望モードは、ルナのそのセリフによって強制的に打ち切られた。
 振り向くとそこには──ほぼ全裸のルニャちゃんが四つん這いで──

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? なにしてんの! なんでこんな姿で部屋から出てきたの!? こんなの誰かに見られたら多分私が怒られることに……」

「大丈夫ですよ。ネコちゃんは普通、服なんて着ませんから」

「ネコちゃんはそもそも人間の言葉を喋ったりしない! そして私の部屋を出たらもうルナちゃんはネコちゃんじゃないの!」

「……ダメですか?」

「そんな潤んだ目で見てもさすがにこれはダメよ!」

「何がダメなのでしょう? ……もしかしてしっぽつけてないから……」

「しっぽ関係ないの! むしろアレつけてたらさらにまずいことに……!」

 はぁ……はぁ……吹っ切れたドMを相手するのは疲れる……。ルナちゃん、もしやイく度に頭のネジが抜けていく病気にでもかかった?


「うぅっ……誰かの視線を感じます……わたし、誰かの好奇の目に晒されて、視姦されて……どうにかなってしまいそう……あっ、また濡れちゃいます……」

 ルニャちゃんはもじもじとお尻をフリフリしながらそんなアホなことを言っている。完全に変態である。多分彼女が感じてるその視線は、私がルニャちゃんを哀れなものを見るような視線で凝視してるからだと思う。そして、ドMな彼女にとってその視線は最高のご褒美なのだろう……このままでは余計にルニャちゃんを喜ばせるだけだ。

「とりあえず部屋に戻ろ?」

「……まだ……もうちょっと……」

 いや、何が? なにがもうちょっとなの!?

「ルニャちゃんハウス!」

「やーです!」

「ほらほら、早く戻らないとお尻ペンペンするわよ!」

「ぜひお願いします!」

 ……もうお手上げ。かくなる上は抱き上げて無理やり戻すしか……でももし抱き上げてるところを誰かに見られたら私の人生が終わってしまうような気がする……。うん、結論、ドMはめんどくさい!

「んじゃあせめて服は着なさいよ……」

「どうしてですか?」

「どうしてもよ!」


 押し問答をしていると、突然背後から声をかけられた。

「あら、エリノア先生」

 ……声楽家のようなその美声は!
 私は恐る恐る振り返る。するとそこには美声に似合う抜群のスタイルの持ち主である、金髪美少女、ステファニーママの姿があった。……最悪の事態は避けられたけど明らかにこれは事案である。

「ま、ママ……違うの……これはね……!」

 こういう言い訳をさっきアンリエットにしたような気がするぞ!

「ん? なにがですか?」

 対するステファニーちゃんは特に引いている表情ではない。むしろ私が慌てている理由が分からずに不思議に思っているような雰囲気だ。

「え、わからないならいいや……」

 私が肩をすくめると、ステファニーちゃんはニコッと微笑んだ。太陽のような笑顔が眩しい。

「授業の時間ですけど先生とアンリエットさんとルナちゃんが教室に来ないので心配してました。先生もルナちゃんも元気そうでよかったです」

 元気そうでよかったですじゃないでしょ! アンリエットは行方不明で、ルナちゃんはこんな……こんな変態的な格好でドMモードに入ってるんだよ!

「ステファニーお姉ちゃん。わたしを教室まで連れて行ってください!」

「もう、ルナちゃんは甘えんぼうさんなんだから……仕方ないわね」

 ルナちゃんが首輪につけたリードを受け取るステファニーちゃん。するとルナちゃんは「にゃー」などと嬉しそうに鳴きながらステファニーちゃんの後ろから着いていった……四つん這いで。……あれがドMの正しい扱い方なの?


「おいこら、なんで違和感なくリードを引っ張って連れていく!? ていうかせめて服は着せよう!?」

 と私がごねると、ステファニーちゃんは部屋に脱ぎ捨てられていたドレスを渋々ルナちゃんに着せた。……なんで渋々なの?
 それに、服は着たもののルナちゃんはリードで繋がれて四つん這いで歩いているので、見た目がドMなのは変わりない。できれば王宮内で他の人に出会いたくない。

「ていうかアンリエットは!?」

「アンリエットさんは本来授業に出席される予定ではなかったので……いなくても支障はないんです」

 ……確かに、初日にアンリエットは「わたしも授業聞いていいですか?」みたいなこと言っていたな……。

「でもお姫様なんだから、行方不明だったらまずくない?」

「王宮から出ていないことは間違いないので、いつか見つかるかと……」

「適当だな!」


「姫様はお転婆なので行方不明になるのは日常茶飯事なんですよ……それで私もよく捜索に苦労したものです」

「……にゃん」

 ステファニーの言葉にルナも頷く。
 彼女たちがそう言うなら……きっとそうなのだろう。アンリエットは心配だけどひとまず今は授業だ。適当なことをやっていてはまたフローラに怒られてしまう。
 私はステファニーとルナに先導されながら教室へと向かったのだった。
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