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ケーゼ・トルテ

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「……私が間違っていたんだね。あなたの強さは魔力でもマジックアイテムでもない。……その姉妹の絆ってやつなのね」

「そういうこと」

「……ルシファー様は人間から魔力を集めて、世界樹からアジ・ダカーハを復活させるつもり。はやくなんとかしないとあなたたち皆死ぬよ?」

「……教えてくれてありがと」

 するとレヴィアタンは、ふっと笑った。

「姉妹……羨ましい、嫉妬しちゃうわ。でも、私はいくら欲しくても手に入らない……ふふふっ」


 笑いながら、彼女は細かい黒い粒子のようになって散っていった。恐らく命が尽きたのだろう。
 今まで会ったヴィランの中ではかなり話が通じるタイプだったな、と少し惜しい気分だったけれど、私にはやることがある。どうやらルシファーとやらはデストルドーがやろうとしていたことを引き継いでいるらしい。
 木乃葉を助けて、ルシファーを止めて、人類を救うこと。

 それは──魔法少女になった私にしかできないこと。

 私は気合いを入れ直すと、アストラルゲートの中に広がる暗黒に足を踏み入れた。暗い闇の中を歩いていると、後ろから光が射してきた。振り返るとそこには巨大な扉がある。

「これが……冥界への入り口」

 おそらくこの先が、全ての元凶であるルシファーがいる場所なのだろう。

「行こう……」

 私は大きく深呼吸をすると、その扉を押し開けた。
 冥界へ続く扉を開けると、そこは洞窟のような空間になっていた。辺りは薄暗くて不気味で、いかにもといった感じだ。

「うぅ、怖いなぁ」

 私は恐る恐る一歩踏み出すと、ゆっくりと歩き出した。しばらく歩くと、前方に人影が現れた。

 背丈は私よりも小さい、少年のように見える。が、ふと顔を上げた少年の瞳は真っ赤に染まっていた。

 バサッと大きな音を立てて、少年の背から大きな黒い翼が六枚くらい生えてくる。私は思わず後ずさった。

「ようこそ冥界へ。今日はお客さんが多いね。──そこの子たちはキミの知り合い?」

 少年は穏やかな声でそう口にすると、右手の方を指さした。
 パッとスポットライトが当たるように少年が指さした方向に光が当たり、そこに倒れていたのは……。

「木乃葉ぁ! 緋奈子ぉ!」

 ボロボロになった魔法少女の姿の木乃葉と緋奈子だった。

「あはは、やっぱりそうだったんだね。僕の部下に手を出すからちょっと遊んであげたらすぐに動かなくなっちゃった」

「あんたが……!」

 私は怒りに身を震わせながら、拳を強く握る。すると、それを見た少年は嬉しそうに微笑んだ。

「やっと戦う気になってくれたみたいだね。じゃあ始めようか。君がどこまで戦えるのか楽しみだよ」

「木乃葉と緋奈子になにをした!?」

「なにって……遊び? 戯れ? そんなもんだよ。──自己紹介がまだだったね。僕の名前は冥界七将──『傲慢』の【ルシファー】。僕の仲間がたくさんお世話になったんじゃないかな?」

 こいつがレヴィアタンが言っていたルシファー……黒幕のようだ。恐らく今まで見てきたどのヴィランよりも強い力を持っているだろう。
 全身が震えてくるが、きっとこれは武者震いだ。木乃葉と緋奈子の仇をとらないといけない──だから!

「……許さない!」

 私は地面を蹴ると、一気に少年に肉迫した。

「まずは一発!」

 魔力を込めた右ストレートを繰り出した。だが、それは少年の左手によって防がれてしまう。

「甘いよ。弱すぎる」

「ぐっ!」

 少年は私の拳を掴むと、そのまま引き寄せて顔面を殴りつけた。衝撃で吹き飛ばされた私は、地面に叩きつけられる。

「うわあああっ!!」

 あまりの痛みと恐怖に、悲鳴を上げてしまった。

「痛い? 苦しい? そうだよねそうだよね! でも楽しいよね? 少しずつ命が削られていく感覚。五感が少しずつ失われていって、あぁ死ぬんだって思った時が一番生きてるって感じるよねぇ?」

 ルシファーは楽しげな声で言う。狂っている。こいつは戦うこと……蹂躙じゅうりんすることを愉しんでいる。

「もっと一緒に楽しもう? もっともっと楽しませてあげる」

 ルシファーはそういうと、私に向かって手をかざした。そして魔法陣を展開して、そこから光の槍みたいなものが無数に飛び出してきた。

「きゃああああ!!」

 私が必死に横に飛んで避けると、ルシファーが呆れたような顔をした。

「なにやってるの? ちゃんと全部受けて? もっと苦しんで?」

「くぅ……!」

 こんな攻撃をまともに喰らうと死ぬでしょ!

「ほら、頑張って」

 ルシファーの容赦ない言葉と共に、死の雨が降り注ぐ。
 私はスカートを捲ってパンツに触れると、魔力障壁を展開してそれを防いだ。けれど、光の槍は魔力障壁を貫通して私の脇腹を貫く。

「ぐあぁあ!」

「ほらほらぁ! まだまだ終わらないよぉ!」

 ルシファーは笑いながら、攻撃を続ける。私はなんとか立ち上がると、右手を突き出して光弾を放った。しかし、簡単に避けられてしまう。
 ダメだ。まるで歯が立たない。実力の差がありすぎる。

「弱いなぁ。もっと頑張らないと。まだ十分の一の力も出していないんだけど」

「うぅ……」

「レヴィアタンを倒したみたいだから少しはやるのかと思ったけど、さっきの黄色い子のほうが全然強かったな……正直期待はずれだよ。──もういいよ、飽きちゃった」

 ルシファーはそう言いながら軽く手を振った。すると、私の身体を衝撃が貫いた。

「がっ……は……!」

 恐る恐る下を見下ろすと、光の槍が私の胸の真ん中を貫いていた。
 口から血が流れ出る。私はそれを手で拭うと、フラつきながらも立ち上がった。

「あれぇ? なんで立てるのかなぁ? 普通なら即死なのに。……まあいいか、何本か撃ち込めば死ぬでしょ」

「こ、木乃葉を守……わ、たしが……」


 私は最後の力を振り絞って、倒れている木乃葉と緋奈子に歩み寄ろうとした。けれど、視界は急速に色あせていき、必死に伸ばす自分の腕しか見えなくなってきた。

「残念だけど、その子多分もう死んでるよ? 可哀想だから一緒に仲良くあの世に送ってあげるね」

「木乃葉ぁ……緋奈子ぉ……ごめんなさい……私……わたしぃ……」

 涙が溢れてくる。大切な仲間を二人も失ってしまった……。

「さあ、これでおしまいだよ」

 ルシファーはそう言って、再び手を振るった。すると、またもや無数の光の槍が私めがけて飛んでくる。
 私はそれを避けようとしない。というか、避けれないのだ。もう意識が遠くなりかけている。

(ここで終わり……なの?)

 諦めて目を閉じたその時だった。


『───────』


 どこかから声が聞こえた気がした。目を開けると、私の身体を巨大なわたあめのようなものが包んでおり、光の槍から守っていた。
 そして、逆にルシファーを無数の光の弾丸が貫く。

「やれやれ、今日はお祭りかなにかかなー?」

 ルシファーは苦笑すると闇に紛れて姿を消した。
 私の前に立っていたのは4人の魔法少女だった。
 ピンク色の鮮やかなコスチュームに身を包み、同じくピンクの剣を構えた【ピーチジェラート】ちゃん。
 緑色の衣装に大きなハンマーを担いだ【メロンパルフェ】ちゃん。
 フワフワモコモコの楓花──魔法少女【コットンキャンディー】ちゃん。
 そして──金色に輝く二丁拳銃を構えた【クレープシュゼット】ちゃん。

「久しぶりですわね。以前助けていただいた恩を返しに来ました」

 クレープシュゼットちゃんは私を見つめて微笑んだ。

「まだですよ! まだ勝負はついていません!」

「どうやらルシファーとやらは様子をうかがっているようだねー!」

「今のうちに3人を!」

 ピーチジェラートちゃん、コットンキャンディーちゃん、メロンパルフェちゃんが口々に叫ぶと、クレープシュゼットちゃんが私を抱え上げた。

「みんな……」

 安心した私はそのまま気を失ってしまった。
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