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シュガー・クラフト
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「ふぅん、なるほどねぇ。姉妹の絆──愛情かぁ」
突然背後から声をかけられ、私たちは一斉に振り向いた。そこにはいつの間にか一人の少女の姿がある。だが、少し妙だ。顔は幼いものの身体はかなり発達しており、大人と比べてもメリハリのあるナイスバディだと言える。それに、特筆すべきは頭の両脇から頭上に向かって湾曲する一対の角だろう。
「えっ……だ、誰?」
「誰って言われてもねぇ。アタシはただの通りすがりよ?」
「もしかして……ヴィラン? さっきのお犬はんの仲間だったり?」
「……まあそうなるわねぇ? でも安心して、今はあなた達に手を出すつもりはないから」
「……っ!」
身構える木乃葉と緋奈子に、少女はおどけた様子で手をヒラヒラと振る。
そういえば、敵を倒したのに空の色が元に戻らないのでおかしいと思っていたのだ。まさか、あの犬っころの他にヴィランがいたなんて……。
「アタシ、ベルゼバブの大食いバカとは違って、メインディッシュは最後に残しておくタイプなのよねぇ……」
そう言って、少女は真っ赤で恐ろしく長い舌を出してペロリと舌なめずりした。
「ひぃ……!」
緋奈子が怯えたように一歩後ずさる。一方で木乃葉は私を守るようにして前に歩み出た。
「あんたからはビッチの匂いがプンプン丸なので、お姉に近づかないでくれる?」
「あら、怖い怖い。言ったでしょ? 今は別に何もしないってば。ちょこっと挨拶に来ただけよ。──【マンゴープリン】ちゃん?」
「へぇ、ウチ有名人なんだね」
木乃葉は今にも飛びかからんばかりに苛立ちを露わにしている。相手が動いたらすぐにでも攻撃に転じそうだ。
「そりゃそうよぉ。なんせあなた、あのデストルドーをほとんど一人で倒したんでしょ? いとも簡単に。……デストルドーはアタシらヴィラン幹部の中では弱い方だったとはいえ、幹部を殺ったのはあなたが初めて。しかもさっきまた一人幹部を殺したし、もうおねーさん興味津々よ?」
「……どーでもいいけど、お姉に手出ししたら許さないから」
「わかってるわ。今のアタシの目的はあくまであなたの観察。だから、あなた以外のものに手出しはしない。誓うわ」
「……ふん、どうだか」
木乃葉は警戒を解かないものの、とりあえず数歩後ずさった。それを見た少女はニヤリと笑う。
「用心深い子もなかなか好みよぉ? ──自己紹介がまだだったわね。アタシは冥界七将──『色欲』の【アスモデウス】。マンゴープリンちゃん、あなたを殺す者の名前だから覚えておいてねぇ?」
「……」
私は無言で木乃葉の後ろに寄り添い、その方に手を置く。木乃葉が私を守ろうとしてくれているのと同じように、私も木乃葉を守りたいと思った。それが例え、どんな相手であっても。
「じゃあね、マンゴープリンちゃん。次に会える日を楽しみにしてるわぁ」
そう言うと、アスモデウスと名乗る少女は私たちに背を向けた。そしてそのままゆっくりと歩き出す。まるで散歩でもしているかのようなゆったりとした足取りだ。やがてその姿が闇の中に溶けていく。
同時に灰色の空は明るさを取り戻し、太陽の光が差してきた。
「……行っちゃったね」
「うん……」
「変なのに好かれちゃったなぁ……」
木乃葉のつぶやきに私は何も答えられなかった。ただ黙って木乃葉の手を握ることしかできなかった。
「大丈夫だよ。お姉はウチが守るから!」
「……ありがとう」
木乃葉の優しい言葉に心が温まる。木乃葉は本当にいい妹だ。きっと将来は美人になるだろうし、性格も悪いように見えて、好きな人には一途だ。こんな子に愛されている私は幸せだと、そんなことを実感してしまう。
「でも……あの女はヤバそうな雰囲気あったよね。なんかこう……エロかったけど、それ以上に怖くて……それに──」
「それに?」
「──なんでもない。じゃあ、ウチは帰るね!」
「う、うん」
木乃葉は急に明るくなると、校門に向かって走っていった。それとほぼ同時に、校舎からクラスメイトたちが駆けてくる。
「遥香ー! 緋奈子ー! 無事ー?」
「見たよ見た! 強そうなヴィランに立ち向かってたね!」
「魔法少女かっこいい! 私たちを守ってくれてありがとう!」
口々にそう言いながら近づいてくるみんなに、緋奈子も笑顔で手を振っている。
「クラスのみんなは私が守るから安心してね」
「うん……ありがと、緋奈子」
クラスメートたちに抱きつかれたり、頭を撫でられたりと大人気の緋奈子。それを私は少し離れたところから見つめていた。うん、私はあの輪の中に入るより少し外からこうやって眺めている方が似合っているかもしれない。
やっぱり魔法少女にならなくてよかったかも。
緋奈子はクラスの人気者で、いつも中心にいるような子だけど、それでも私にとってはかけがえのない存在なのだ。
それでもそれとは別に、私に大切なものを守れる力があるのならば、それはそれで悪くはないのかな?……なんてね。
「ふぅ、今日も疲れたな」
放課後になり、ようやく家に帰ってきた。制服を脱いで、ラフな格好になってソファーに寝転ぶ。
「木乃葉……大丈夫かな?」
思い返すのは今日の出来事。
デストルドーの時もそうだったが、突然現れたヴィランと呼ばれる怪人たちとのバトルは、正直めちゃくちゃ怖かった。でも、木乃葉や緋奈子がいてくれたから、なんとか戦えたのだ。
もし一人だったら、どうなっていたのだろうか? 考えるだけでゾッとする。
木乃葉は強い。私よりもずっと。
でも、いくら強くても、怖いものは怖いはずだ。私はやっぱり木乃葉に守られてばかりというわけにはいかないのかもしれない。
「よしっ、決めた!」
私は起き上がると、木乃葉の部屋に向かった。そして扉をノックする。
「木乃葉ー! 入ってもいい?」
「お姉!? ちょ、ちょっと待って! いまはほんとにダメ!」
中から慌てるような声が聞こえてきた。私はしばらく待つことにする。
「もう、大丈夫だよ」
「入るよ」
木乃葉の言葉を受けて、私は部屋に入った。木乃葉はベッドの上に座り、スマホをいじっていたようだ。
「どうしたの?」
木乃葉が首を傾げる。私は真剣な顔で言った。
「私も戦う」
「……はぁ?」
木乃葉はポカンとした表情を浮かべている。
「だから、私も一緒に戦いたいなって」
「いや、意味わかんないし……」
「だって、このままじゃ私だけ役立たずじゃん。でも、木乃葉が戦っている姿を見て思ったんだ。私にもできることがあるんじゃないかって」
「何言ってんの? お姉は魔法少女じゃないんだよ? 無理に決まってんじゃん」
「わかってるよ。ただ、木乃葉のそばにいたいっていうか……その……」
上手く言葉にならない。自分の気持ちを人にうまく伝えるのは難しいものだ。
「とにかく、私は木乃葉のそばで木乃葉を守りたいの。もちろん、邪魔はしないし、足手まといにはならないようにするからさ……」
そう言うと、木乃葉は困ったように眉を寄せた。
「そんなこと言われても……ウチ、お姉のこと守りたくて魔法少女やってるんだけどなぁ……?」
「木乃葉は私の自慢の妹だよ。でも、それだけじゃ嫌なんだ。木乃葉は私にとって特別な人だから」
「とくべつ……?」
「うん。特別」
「……」
木乃葉は黙ってしまった。
「ダメ……かな?」
「お姉は……もうウチのこと嫌いになったりとか……しない?」
「お姉ちゃんが木乃葉のことを嫌いになると思う?」
「……思わないけど。ウチはほんとは弱いし、すぐ泣くし……面倒くさいし……それに、嫉妬深いし……」
「知ってるよ。木乃葉は可愛いくて、優しくて、頑張り屋さんで、とっても素敵な女の子だもんね?」
「うぅ~! ウチはそんなんじゃないよぉ~。ただの変態だもん!」
木乃葉の顔が真っ赤に染まっていく。普段はぐうたらしながら調子こいているのに、こういう時に照れてちゃうところも可愛らしい。私は思わず笑みがこぼれてしまう。
「いいじゃん、別に。どんな木乃葉でも大好きだよ」
「そういうところがずるいんだってばぁ!」
木乃葉は顔を両手で覆ってしまう。耳まで赤く染まっていた。
「木乃葉が本当に私を心配してくれているのはわかるよ。だけどね、私はどうしても木乃葉と一緒にいたいの。だからお願い……アスモデウスなんかに負けないで、必ずお姉ちゃんのところに戻ってきて」
「……わかった。約束する」
木乃葉は大きく息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、木乃葉!」
「えへへ……でも、ほんとお姉はバカだよねぇ~」
「むっ、馬鹿ってなに?」
「だって、こんなの断れるわけないじゃん」
「あぁ……そっか、そうだよね……」
「でも、ありがと。お姉はやっぱり優しいね」
突然背後から声をかけられ、私たちは一斉に振り向いた。そこにはいつの間にか一人の少女の姿がある。だが、少し妙だ。顔は幼いものの身体はかなり発達しており、大人と比べてもメリハリのあるナイスバディだと言える。それに、特筆すべきは頭の両脇から頭上に向かって湾曲する一対の角だろう。
「えっ……だ、誰?」
「誰って言われてもねぇ。アタシはただの通りすがりよ?」
「もしかして……ヴィラン? さっきのお犬はんの仲間だったり?」
「……まあそうなるわねぇ? でも安心して、今はあなた達に手を出すつもりはないから」
「……っ!」
身構える木乃葉と緋奈子に、少女はおどけた様子で手をヒラヒラと振る。
そういえば、敵を倒したのに空の色が元に戻らないのでおかしいと思っていたのだ。まさか、あの犬っころの他にヴィランがいたなんて……。
「アタシ、ベルゼバブの大食いバカとは違って、メインディッシュは最後に残しておくタイプなのよねぇ……」
そう言って、少女は真っ赤で恐ろしく長い舌を出してペロリと舌なめずりした。
「ひぃ……!」
緋奈子が怯えたように一歩後ずさる。一方で木乃葉は私を守るようにして前に歩み出た。
「あんたからはビッチの匂いがプンプン丸なので、お姉に近づかないでくれる?」
「あら、怖い怖い。言ったでしょ? 今は別に何もしないってば。ちょこっと挨拶に来ただけよ。──【マンゴープリン】ちゃん?」
「へぇ、ウチ有名人なんだね」
木乃葉は今にも飛びかからんばかりに苛立ちを露わにしている。相手が動いたらすぐにでも攻撃に転じそうだ。
「そりゃそうよぉ。なんせあなた、あのデストルドーをほとんど一人で倒したんでしょ? いとも簡単に。……デストルドーはアタシらヴィラン幹部の中では弱い方だったとはいえ、幹部を殺ったのはあなたが初めて。しかもさっきまた一人幹部を殺したし、もうおねーさん興味津々よ?」
「……どーでもいいけど、お姉に手出ししたら許さないから」
「わかってるわ。今のアタシの目的はあくまであなたの観察。だから、あなた以外のものに手出しはしない。誓うわ」
「……ふん、どうだか」
木乃葉は警戒を解かないものの、とりあえず数歩後ずさった。それを見た少女はニヤリと笑う。
「用心深い子もなかなか好みよぉ? ──自己紹介がまだだったわね。アタシは冥界七将──『色欲』の【アスモデウス】。マンゴープリンちゃん、あなたを殺す者の名前だから覚えておいてねぇ?」
「……」
私は無言で木乃葉の後ろに寄り添い、その方に手を置く。木乃葉が私を守ろうとしてくれているのと同じように、私も木乃葉を守りたいと思った。それが例え、どんな相手であっても。
「じゃあね、マンゴープリンちゃん。次に会える日を楽しみにしてるわぁ」
そう言うと、アスモデウスと名乗る少女は私たちに背を向けた。そしてそのままゆっくりと歩き出す。まるで散歩でもしているかのようなゆったりとした足取りだ。やがてその姿が闇の中に溶けていく。
同時に灰色の空は明るさを取り戻し、太陽の光が差してきた。
「……行っちゃったね」
「うん……」
「変なのに好かれちゃったなぁ……」
木乃葉のつぶやきに私は何も答えられなかった。ただ黙って木乃葉の手を握ることしかできなかった。
「大丈夫だよ。お姉はウチが守るから!」
「……ありがとう」
木乃葉の優しい言葉に心が温まる。木乃葉は本当にいい妹だ。きっと将来は美人になるだろうし、性格も悪いように見えて、好きな人には一途だ。こんな子に愛されている私は幸せだと、そんなことを実感してしまう。
「でも……あの女はヤバそうな雰囲気あったよね。なんかこう……エロかったけど、それ以上に怖くて……それに──」
「それに?」
「──なんでもない。じゃあ、ウチは帰るね!」
「う、うん」
木乃葉は急に明るくなると、校門に向かって走っていった。それとほぼ同時に、校舎からクラスメイトたちが駆けてくる。
「遥香ー! 緋奈子ー! 無事ー?」
「見たよ見た! 強そうなヴィランに立ち向かってたね!」
「魔法少女かっこいい! 私たちを守ってくれてありがとう!」
口々にそう言いながら近づいてくるみんなに、緋奈子も笑顔で手を振っている。
「クラスのみんなは私が守るから安心してね」
「うん……ありがと、緋奈子」
クラスメートたちに抱きつかれたり、頭を撫でられたりと大人気の緋奈子。それを私は少し離れたところから見つめていた。うん、私はあの輪の中に入るより少し外からこうやって眺めている方が似合っているかもしれない。
やっぱり魔法少女にならなくてよかったかも。
緋奈子はクラスの人気者で、いつも中心にいるような子だけど、それでも私にとってはかけがえのない存在なのだ。
それでもそれとは別に、私に大切なものを守れる力があるのならば、それはそれで悪くはないのかな?……なんてね。
「ふぅ、今日も疲れたな」
放課後になり、ようやく家に帰ってきた。制服を脱いで、ラフな格好になってソファーに寝転ぶ。
「木乃葉……大丈夫かな?」
思い返すのは今日の出来事。
デストルドーの時もそうだったが、突然現れたヴィランと呼ばれる怪人たちとのバトルは、正直めちゃくちゃ怖かった。でも、木乃葉や緋奈子がいてくれたから、なんとか戦えたのだ。
もし一人だったら、どうなっていたのだろうか? 考えるだけでゾッとする。
木乃葉は強い。私よりもずっと。
でも、いくら強くても、怖いものは怖いはずだ。私はやっぱり木乃葉に守られてばかりというわけにはいかないのかもしれない。
「よしっ、決めた!」
私は起き上がると、木乃葉の部屋に向かった。そして扉をノックする。
「木乃葉ー! 入ってもいい?」
「お姉!? ちょ、ちょっと待って! いまはほんとにダメ!」
中から慌てるような声が聞こえてきた。私はしばらく待つことにする。
「もう、大丈夫だよ」
「入るよ」
木乃葉の言葉を受けて、私は部屋に入った。木乃葉はベッドの上に座り、スマホをいじっていたようだ。
「どうしたの?」
木乃葉が首を傾げる。私は真剣な顔で言った。
「私も戦う」
「……はぁ?」
木乃葉はポカンとした表情を浮かべている。
「だから、私も一緒に戦いたいなって」
「いや、意味わかんないし……」
「だって、このままじゃ私だけ役立たずじゃん。でも、木乃葉が戦っている姿を見て思ったんだ。私にもできることがあるんじゃないかって」
「何言ってんの? お姉は魔法少女じゃないんだよ? 無理に決まってんじゃん」
「わかってるよ。ただ、木乃葉のそばにいたいっていうか……その……」
上手く言葉にならない。自分の気持ちを人にうまく伝えるのは難しいものだ。
「とにかく、私は木乃葉のそばで木乃葉を守りたいの。もちろん、邪魔はしないし、足手まといにはならないようにするからさ……」
そう言うと、木乃葉は困ったように眉を寄せた。
「そんなこと言われても……ウチ、お姉のこと守りたくて魔法少女やってるんだけどなぁ……?」
「木乃葉は私の自慢の妹だよ。でも、それだけじゃ嫌なんだ。木乃葉は私にとって特別な人だから」
「とくべつ……?」
「うん。特別」
「……」
木乃葉は黙ってしまった。
「ダメ……かな?」
「お姉は……もうウチのこと嫌いになったりとか……しない?」
「お姉ちゃんが木乃葉のことを嫌いになると思う?」
「……思わないけど。ウチはほんとは弱いし、すぐ泣くし……面倒くさいし……それに、嫉妬深いし……」
「知ってるよ。木乃葉は可愛いくて、優しくて、頑張り屋さんで、とっても素敵な女の子だもんね?」
「うぅ~! ウチはそんなんじゃないよぉ~。ただの変態だもん!」
木乃葉の顔が真っ赤に染まっていく。普段はぐうたらしながら調子こいているのに、こういう時に照れてちゃうところも可愛らしい。私は思わず笑みがこぼれてしまう。
「いいじゃん、別に。どんな木乃葉でも大好きだよ」
「そういうところがずるいんだってばぁ!」
木乃葉は顔を両手で覆ってしまう。耳まで赤く染まっていた。
「木乃葉が本当に私を心配してくれているのはわかるよ。だけどね、私はどうしても木乃葉と一緒にいたいの。だからお願い……アスモデウスなんかに負けないで、必ずお姉ちゃんのところに戻ってきて」
「……わかった。約束する」
木乃葉は大きく息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、木乃葉!」
「えへへ……でも、ほんとお姉はバカだよねぇ~」
「むっ、馬鹿ってなに?」
「だって、こんなの断れるわけないじゃん」
「あぁ……そっか、そうだよね……」
「でも、ありがと。お姉はやっぱり優しいね」
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