上 下
20 / 38

第20話 ギルド設立!

しおりを挟む

 だが安心してはいられない。むしろここからが本番だ。俺とクロエは顔を突合せてしばらく議論した挙句、新しいギルドの名前は『月の雫』に決定した。


 その後、俺たちはルナに案内されて、冒険者ギルドにギルド登録の申請をしに行った。冒険者ギルドは、王都の繁華街の中でも一際目立つ大きな建物だった。入り口の両脇には巨大な柱が立ち、正面には立派な装飾を施された木製の扉がある。いかにも冒険者ギルドといった風体だ。中に入るとまずはホールがあり、奥には酒場のようなカウンターが見える。ホールには十数人の冒険者らしき者たちがいた。彼らは一様にこちらを興味深そうに見ている。多分ルナのせいだ。

「なあおい、あれって七聖剣のルナ・サロモンじゃないか?」
「身体は小さいが、その実力は王国でもトップクラスだぞ」
「なんであんな化け物がこんな場所に……」

 クロエはその光景に気圧されたようで、俺の後ろに隠れるように身を寄せてきた。ルナは相変わらず堂々としており、慣れた様子だ。

「クロエ大丈夫か?」
「ちょっと怖くてビックリしちゃっただけだから平気だよ。それより……」

 クロエは心配する俺を手で制すると、キョロキョロと辺りを見渡して呟くように言った。

「見てあそこ、聖フランシス教団の回復術師だわ」
「本当だ。……他にも結構いるな」

 俺もクロエに倣って周りを見てみると、冒険者たちに混ざって何人かの聖職服姿が目に付いた。やはり、冒険者パーティーに聖フランシス教団の回復術師がかなりの数雇われているというのは間違いないようだ。

「私たち、狙われないかな?」
「あいつらはいわば教団に人体実験されて回復魔法に発現させられた被害者なんだろ? だったら教団の犬ってわけでもないだろ。それに俺たちの『リジェネレーション』や『ライフドレイン』は教団内でも機密扱いだろうし」
「それもそっか。じゃあいいよね。行こう、リッくん」

 そう言うとクロエはスタスタと歩いて受付に向かって行った。ルナは俺たちを待っていてくれたのか、すぐ近くにいた。しかし受付は無人のようだった。

「先生! エリノア先生はいらっしゃいますか!」

 ルナはそう言いながらカウンターの奥に呼びかける。少し待つと、一人の女性が慌てた様子で姿を現した。その人は、黒髪のショートカットで眼鏡をかけた女性で年齢は30代前半ほどだろうか。彼女は小走りでこちらに来るとルナの顔を見てニコニコ微笑んだ。

「ルナちゃん! よく来たね。また成長した? おっぱい大きくなったかお姉さんに確かめさせてくれる?」

 そう言って女性は両手を広げてルナに飛びついてくる。

「きゃっ! やめてくださいよ先生! 人前でそういうことはやめてくださいってお願いして……あんっ!」

 ルナが顔を赤くして身をよじるが、女は構わず抱きついたままだ。そして今度はルナのお尻に手を伸ばすがルナに阻止される。

「だからやめて下さいってば!」

 ルナが叫ぶとようやく女は離れてくれた。だがまだ名残惜しそうだ。
 何やってんだよこの人……。

「ちぇーっ、じゃあ後でお姉さんといいことしましょ?」
「お断りします。今日は真面目な話があって来たんです」
「真面目な話って何? 新しい子を紹介してくれるとか?」

 エリノアと呼ばれた女は今度はクロエに視線を向ける。クロエは怯えたようにビクッとした。

「いえ、今日はギルド新設の申請に──」

 すると、やっとエリノアは俺の存在に気づいたようで

「んだよ、カレシ持ちかよ。死ね」

 と呟いた。なんでだよ! 理不尽すぎるぞ。てかこんなのばかりだな。なんでみんな寄ってたかって俺に『死ね』とか言ってくるんだ。いい加減心折れそうだぞ。

「はーい、じゃあこの用紙に必要事項記入してねー」

 エリノアが先程とは打って変わって面倒くさそうな声で書類を渡してくる。クロエが受け取ったそれを見ると、項目は少なくギルド名とギルドメンバーの名前を書くだけでよかった。

「おい、早くしろよ男。グズグズすんな」

 クロエに続いて俺が急かされながら名前を書く。エリノアはそれをチラッと見ると「ん」と小さく返事をして受理してくれた。どうやら本当にこれで終わりらしい。

「あの、一応言っておくと、私こいつの彼女じゃないですからね?」
「は? でもほら、ギルドリーダーの配偶者の欄にあんたの名前が──」
「そ、それはその……色々事情があって……」
「……なるほど、そういうことか」

 エリノアは納得したような表情を浮かべた。察しがいいらしい。
 やたらと男に厳しく女の子に甘々なところはあるが、根はいい人のようだ。──じゃないと冒険者ギルドの受付嬢なんてできない。しかも年齢は結構ベテラン、王都の冒険者ギルドに勤めていることから考えても、かなり有能な人物であることは間違いなさそうだ。
 これは信用しても良いだろう。ルナの紹介でもあるし。

「まあ、冒険者ギルドでは詳しい事情は聞かないことになってるから、本当に彼女じゃないなら、お姉さんといいことしましょうか」
「それは遠慮しておきます!」
「ちぇーっ、残念」
「じゃあ私たちはもう行きますね」
「またおいで、今度は男連れてこないで、二人だけで話しましょ?」
「あ、あはは……」

 クロエはエリノアとの会話を切り上げて俺たちの方へと戻ってくる。エリノアはそれを確認すると、俺たちを扉の外まで送ってくれた。最後に俺をゴミを見るような目つきで一睨みしてから、彼女はカウンターの奥に戻っていった。

「エリノアさんは少し変わっていますが、いい人なんですよ?」
「なんかやたらと敵意向けられてたような気がしますけど!」
「あれは男の人が嫌いなので……すみません」

 ルナが申し訳無さそうに言う。いや別に謝ることではないんだけど。というかそんな理由で嫌われてるのか俺は……。
 しかし、これでギルドの登録は済んだ。次はギルドハウスの掃除と整備だ。そして、ルナとはここでお別れとなる。王都に来てから色々とお世話になってばかりだけど、これからは俺とクロエで何とかやっていかなければならない。

「ここまでありがとうございましたルナ嬢。おかげで助かりました」
「いいえこちらこそ。リックさんとクロエさんには私もお世話になりました。何かあればすぐに駆けつけますのでいつでも呼んでください。それと、私のことは気軽にルナと呼んでくだされば」
「じゃあルナさん。また会いに行きますね」

 俺たちはルナと固い握手を交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

婚約者に犯されて身籠り、妹に陥れられて婚約破棄後に国外追放されました。“神人”であるお腹の子が復讐しますが、いいですね?

サイコちゃん
ファンタジー
公爵令嬢アリアは不義の子を身籠った事を切欠に、ヴント国を追放される。しかも、それが冤罪だったと判明した後も、加害者である第一王子イェールと妹ウィリアは不誠実な謝罪を繰り返し、果てはアリアを罵倒する。その行為が、ヴント国を破滅に導くとも知らずに―― ※昨年、別アカウントにて削除した『お腹の子「後になってから謝っても遅いよ?」』を手直しして再投稿したものです。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...