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第20話 ギルド設立!
しおりを挟むだが安心してはいられない。むしろここからが本番だ。俺とクロエは顔を突合せてしばらく議論した挙句、新しいギルドの名前は『月の雫』に決定した。
その後、俺たちはルナに案内されて、冒険者ギルドにギルド登録の申請をしに行った。冒険者ギルドは、王都の繁華街の中でも一際目立つ大きな建物だった。入り口の両脇には巨大な柱が立ち、正面には立派な装飾を施された木製の扉がある。いかにも冒険者ギルドといった風体だ。中に入るとまずはホールがあり、奥には酒場のようなカウンターが見える。ホールには十数人の冒険者らしき者たちがいた。彼らは一様にこちらを興味深そうに見ている。多分ルナのせいだ。
「なあおい、あれって七聖剣のルナ・サロモンじゃないか?」
「身体は小さいが、その実力は王国でもトップクラスだぞ」
「なんであんな化け物がこんな場所に……」
クロエはその光景に気圧されたようで、俺の後ろに隠れるように身を寄せてきた。ルナは相変わらず堂々としており、慣れた様子だ。
「クロエ大丈夫か?」
「ちょっと怖くてビックリしちゃっただけだから平気だよ。それより……」
クロエは心配する俺を手で制すると、キョロキョロと辺りを見渡して呟くように言った。
「見てあそこ、聖フランシス教団の回復術師だわ」
「本当だ。……他にも結構いるな」
俺もクロエに倣って周りを見てみると、冒険者たちに混ざって何人かの聖職服姿が目に付いた。やはり、冒険者パーティーに聖フランシス教団の回復術師がかなりの数雇われているというのは間違いないようだ。
「私たち、狙われないかな?」
「あいつらはいわば教団に人体実験されて回復魔法に発現させられた被害者なんだろ? だったら教団の犬ってわけでもないだろ。それに俺たちの『リジェネレーション』や『ライフドレイン』は教団内でも機密扱いだろうし」
「それもそっか。じゃあいいよね。行こう、リッくん」
そう言うとクロエはスタスタと歩いて受付に向かって行った。ルナは俺たちを待っていてくれたのか、すぐ近くにいた。しかし受付は無人のようだった。
「先生! エリノア先生はいらっしゃいますか!」
ルナはそう言いながらカウンターの奥に呼びかける。少し待つと、一人の女性が慌てた様子で姿を現した。その人は、黒髪のショートカットで眼鏡をかけた女性で年齢は30代前半ほどだろうか。彼女は小走りでこちらに来るとルナの顔を見てニコニコ微笑んだ。
「ルナちゃん! よく来たね。また成長した? おっぱい大きくなったかお姉さんに確かめさせてくれる?」
そう言って女性は両手を広げてルナに飛びついてくる。
「きゃっ! やめてくださいよ先生! 人前でそういうことはやめてくださいってお願いして……あんっ!」
ルナが顔を赤くして身をよじるが、女は構わず抱きついたままだ。そして今度はルナのお尻に手を伸ばすがルナに阻止される。
「だからやめて下さいってば!」
ルナが叫ぶとようやく女は離れてくれた。だがまだ名残惜しそうだ。
何やってんだよこの人……。
「ちぇーっ、じゃあ後でお姉さんといいことしましょ?」
「お断りします。今日は真面目な話があって来たんです」
「真面目な話って何? 新しい子を紹介してくれるとか?」
エリノアと呼ばれた女は今度はクロエに視線を向ける。クロエは怯えたようにビクッとした。
「いえ、今日はギルド新設の申請に──」
すると、やっとエリノアは俺の存在に気づいたようで
「んだよ、カレシ持ちかよ。死ね」
と呟いた。なんでだよ! 理不尽すぎるぞ。てかこんなのばかりだな。なんでみんな寄ってたかって俺に『死ね』とか言ってくるんだ。いい加減心折れそうだぞ。
「はーい、じゃあこの用紙に必要事項記入してねー」
エリノアが先程とは打って変わって面倒くさそうな声で書類を渡してくる。クロエが受け取ったそれを見ると、項目は少なくギルド名とギルドメンバーの名前を書くだけでよかった。
「おい、早くしろよ男。グズグズすんな」
クロエに続いて俺が急かされながら名前を書く。エリノアはそれをチラッと見ると「ん」と小さく返事をして受理してくれた。どうやら本当にこれで終わりらしい。
「あの、一応言っておくと、私こいつの彼女じゃないですからね?」
「は? でもほら、ギルドリーダーの配偶者の欄にあんたの名前が──」
「そ、それはその……色々事情があって……」
「……なるほど、そういうことか」
エリノアは納得したような表情を浮かべた。察しがいいらしい。
やたらと男に厳しく女の子に甘々なところはあるが、根はいい人のようだ。──じゃないと冒険者ギルドの受付嬢なんてできない。しかも年齢は結構ベテラン、王都の冒険者ギルドに勤めていることから考えても、かなり有能な人物であることは間違いなさそうだ。
これは信用しても良いだろう。ルナの紹介でもあるし。
「まあ、冒険者ギルドでは詳しい事情は聞かないことになってるから、本当に彼女じゃないなら、お姉さんといいことしましょうか」
「それは遠慮しておきます!」
「ちぇーっ、残念」
「じゃあ私たちはもう行きますね」
「またおいで、今度は男連れてこないで、二人だけで話しましょ?」
「あ、あはは……」
クロエはエリノアとの会話を切り上げて俺たちの方へと戻ってくる。エリノアはそれを確認すると、俺たちを扉の外まで送ってくれた。最後に俺をゴミを見るような目つきで一睨みしてから、彼女はカウンターの奥に戻っていった。
「エリノアさんは少し変わっていますが、いい人なんですよ?」
「なんかやたらと敵意向けられてたような気がしますけど!」
「あれは男の人が嫌いなので……すみません」
ルナが申し訳無さそうに言う。いや別に謝ることではないんだけど。というかそんな理由で嫌われてるのか俺は……。
しかし、これでギルドの登録は済んだ。次はギルドハウスの掃除と整備だ。そして、ルナとはここでお別れとなる。王都に来てから色々とお世話になってばかりだけど、これからは俺とクロエで何とかやっていかなければならない。
「ここまでありがとうございましたルナ嬢。おかげで助かりました」
「いいえこちらこそ。リックさんとクロエさんには私もお世話になりました。何かあればすぐに駆けつけますのでいつでも呼んでください。それと、私のことは気軽にルナと呼んでくだされば」
「じゃあルナさん。また会いに行きますね」
俺たちはルナと固い握手を交わした。
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