上 下
18 / 38

第18話 なにか方法があるはずだ!

しおりを挟む
「「えぇっ!?」」
「本当に、本当に申し訳ありません! わたしの力不足のせいで……」

 ルナはまたもや涙を流した。俺とクロエはオロオロしながらなんとか慰めようとする。ルナの涙はしばらく止まることはなかった。

「聖フランシス教団の疑いが晴れたことで、『月下の集い』の存在意義がなくなってしまったと……」
「でも! 現に私はあそこで酷い目に遭ったのよ!?」

 ルナが経緯を話し始めると、早速クロエが納得いかないとばかりに
 口を挟んだ。しかし、ルナは悲しそうに首を振る。

「七聖剣第一席のオルグ様のご意向で、わたしにはもうどうすることもできません。むしろあの場で手討ちにされなかっただけでも温情だと……」
「そんな……! 七聖剣は弱いものの味方だと思っていたのに!」

 ルナの話を聞いてショックを受けている様子のクロエ。確かに彼女の気持ちは痛い程よく分かった。俺も同じ気持ちだったからだ。あそこで良くないことが行われているのは明らかだ。なのに、なにもできない──しようとしない王宮はおかしいと思った。だから俺はルナに協力したんだ。なのに……。

「考えられるのは、七聖剣の中にも既に聖フランシス教団と関係を持っている者が複数いるという可能性ですね。……オルグ様は恐らくそんなことはないと思いますが」
「なんてこと……やっぱりあいつらはろくな事しないわね!」

 クロエは憤りながら吐き捨てるように言う。だがその言葉に同意せざるを得なかった。俺もまさかそれほどとは思わなかった。教団が王国騎士団上層部と繋がっている以上、王宮は例え教団がクロだったとしても迂闊に手を出すことはできないのだ。

「本当にごめんなさい……このようなことになってしまって……全部わたしがいけないんです」

 ルナは深く頭を下げて謝る。

「ルナさんのせいじゃないですよ。顔を上げてください」
「ですが……」

 ルナはそれでも申し訳無さそうにしていたが、俺の言葉を聞くとゆっくり顔を上げた。しかし、その表情は依然として暗い。俺達に迷惑をかけてしまったと思っているようだ。しかしそんなことはどうでもいいと俺は思った。
 確かに、教団や王宮のやり方は腹立たしいけれど、その不満を目の前のこの小さな女の子にぶつけても仕方の無いことだ。彼女はただ利用されただけなのだから。俺は彼女の頭を優しく撫でる。

「ルナさんは今までずっと頑張ってきました。だから今だけは、俺達の前では我慢せずに泣いていいんですよ」
「っ……! う、うわぁぁぁぁぁんっ!」

 そう言うと、ルナはまた堰を切ったように泣き始めた。こんなに幼い子がこんなになるまで必死に耐えてきたんだ。俺達がそれを見て見ぬ振りはできない。それに、ルナには笑顔の方が似合うと思う。俺はそう思って微笑みかける。

「よしよし……」

 クロエも今は小言は言わずに、泣きじゃくる彼女をそっと抱きしめた。しばらくルナのすすり泣く声だけが部屋の中で響いていた。


 ようやく彼女が落ち着いたのは、日が沈みかけた時だった。夕方の日が射し込む部屋で、俺達はソファで並んで座りながら静かに出されたお茶を飲む。

「あの、もしよろしければ、ルナさんが聖フランシス教団と敵対するようになった原因をうかがってもいいですか?」

 俺は気になっていたことを切り出した。ルナは一瞬迷った様子を見せたが、意を決したようで語り始めた。

「……実はわたし、小さい頃に母親を病気で亡くしてるんです」
「え……? あ、それは……ご愁傷さまです」
「いえ、お気になさらずに……。わたしのお母さんは難病にかかっていて……その治療のために呼ばれていたのが、聖フランシス教団の回復術師でした。確かに母は回復魔術によって病気は快方に向かいました。でも、それからしばらくすると、母の容態が急に悪化して……亡くなったのです」

 なるほど。なんとも胸糞の悪い話だ。自分の母親の治療に関わっていた宗教団体を、ルナは心の底では信用できなくなっていたのだろう。

「その時の回復魔法は今ほど精度の高いものではありませんでしたし、聖フランシス教団の名前もほとんど知られてはいなかったので、誰も疑問を持つことなく教団を信じていました。もちろんわたしも」
「それで教団のことを憎むようになってしまったんですね……」

「ええ、教団の回復術師を紹介したのは、シャントゥール伯爵家でした。彼らは今、教団と深い繋がりがあると言われています」

 そう言ってルナは自分の肩を抱く。よほどの恐怖を感じたに違いない。その震えは今も続いていた。

「そんなことがあったんですね……」
「教団は自分たちの責任ではないと言いますが、そんなはずはありません! だって彼らが来なければ母が死ぬことはなかったんです! 父も、その回復術師のためにかなりの財産を投じたというのに……! 結局父のお金は聖フランシス教団への寄付として消えたそうです。わたしはそれも許せなくて……」

 ルナは怒りに身体を振るわせる。そんな彼女を見て、俺は何も言うことができなかった。俺も、もしルナと同じような立場ならきっと耐えられないだろう。
 大切な家族を傷つけられるというのは、自分が傷つけられることよりも辛いものだ。

「でも、明確な証拠がないので、誰も教団に手を出せません。なんとかしっぽを掴んでやろうと、『月下の集い』を結成したのですが、それももう終わりのようです。わたしたちは負けたんです……」

 ルナの目には悔し涙が浮かんでいた。教団に屈したこと、そして俺達を騙していたことについて自責の念に駆られているのかもしれない。

「大丈夫ですよ。まだ負けていません」
「うん、このまま諦めるなんてできない! なにか方法があるはずだよ」
「リックさん……クロエさん……ありがとうございます」

 そう言うと、彼女は目尻に溜まった雫を振り払うと精一杯笑って見せた。しかしその顔はすぐに曇ってしまう。

「でも、これ以上わたしの我を通してお二人を巻き込むわけにもいきませんし……」

 これ以上教団と対立し続けることは、七聖剣を敵に回すことになりかねない。ルナはそう危惧しているのだろう。
 俺は必死に考えをめぐらせた。なんとか、目の前で困っているこの少女を救いたかった。これも、ポーション生成師のサガなのかもしれないな。

「ルナ嬢は俺たちを『月下の集い』のリーダーにすると言ってましたね?」
「……はい。しかしもう『月下の集い』は──」
「俺とクロエで新しいギルドを作って、聖フランシス教団と対すればいいんです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メンヘラ君の飼い犬

雫@更新休みます
BL
メンヘラ君がただたんに人間の犬を飼うだけの物語。SM、尿道、排泄管理、射精管理、コスプレなどなど色々やります多分。人間君はMです。やられて喜んじゃいます。

肥満アラート

東門 大
大衆娯楽
R18 SMの要素満載です。イラスト注意 「肥満アラート」が発表され、全国の13〜18までの男子の肥満率を0にするよう自治体が義務付けられた。翌日、BMI28の将太は校長室に呼び出され、人権が一部剥奪されたことを知る。そして、その日から白ブリーフ一枚で学校生活を送ること、毎朝体重測定をして、増加していたら、罰を受けることなどが言い渡される。 pixivにも投稿中

聖十字騎士学院の異端児〜学園でただ1人の男の俺は個性豊かな女子達に迫られながらも、世界最強の聖剣を駆使して成り上がる〜

R666
ファンタジー
日本で平凡な高校生活を送っていた一人の少年は駅のホームでいつも通りに電車を待っていると、突如として背中を何者かに突き飛ばされ線路上に放り出されてしまい、迫り来ていた電車に轢かれて呆気なく死んでしまう。 しかし彼の人生はそこで終わることなく次に目を覚ますと、そこは聖剣と呼ばれる女性にしか扱えない武器と魔法が存在する異世界であった。 そこで主人公の【ハヤト・Ⅵ・オウエンズ】は男性でありながら何故か聖剣を引き抜く事が出来ると、有無を言わさずに姉の【サクヤ・M・オウエンズ】から聖十字騎士学院という聖剣の扱い方を学ぶ場所へと入学を言い渡される。 ――そしてハヤトは女性しかいない学院で個性豊かな女子達と多忙な毎日を送り、そこで聖剣を駆使して女尊男卑の世界で成り上がることを決める――

[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる

山葉らわん
BL
【縦読み推奨】 ■ 第一章(第1話〜第9話)  アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。  滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。 ■ 第二章(第1話〜第10話)  ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。  拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。 ■ 第三章(第1話〜第11話)  ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。 ■ 第四章(第1話〜第9話)  ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。 ◾️第五章(第1話〜第10話)  「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」  こう云ってエシフは、ノモクと交わる。 ◾️第六章(第1話〜第10話)  ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。  さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。 ◾️第七章(第1話〜第12話)  現在、まとめ中。 ◾️第八章(第1話〜第10話)  現在、まとめ中。 ◾️第九章(第一話〜)  現在、執筆中。 【地雷について】  「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。  「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。

極道達に閉じ込められる少年〜監獄

安達
BL
翔湊(かなた)はヤクザの家計に生まれたと思っていた。組員からも兄達からも愛され守られ1度も外の世界に出たことがない。しかし、実際は違い家族と思っていた人達との血縁関係は無く養子であることが判明。そして翔湊は自分がなぜこの家に養子として迎え入れられたのか衝撃の事実を知る。頼れる家族も居なくなり外に出たことがない翔湊は友達もいない。一先この家から逃げ出そうとする。だが行く手を阻む俵積田会の極道達によってーーー? 最後はハッピーエンドです。

【R18】超女尊男卑社会〜性欲逆転した未来で俺だけ前世の記憶を取り戻す〜

広東封建
ファンタジー
男子高校生の比留川 游助(ひるかわ ゆうすけ)は、ある日の学校帰りに交通事故に遭って童貞のまま死亡してしまう。 そして21XX年、游助は再び人間として生まれ変わるが、未来の男達は数が極端に減り性欲も失っていた。対する女達は性欲が異常に高まり、女達が支配する超・女尊男卑社会となっていた。 性欲の減退した男達はもれなく女の性奴隷として扱われ、幼い頃から性の調教を受けさせられる。 そんな社会に生まれ落ちた游助は、精通の日を境に前世の記憶を取り戻す。

異次元の少子化対策「イケメンは女性とセックスするの禁止」

重音社あかね
BL
2025年、日本政府は深刻な少子高齢化問題に対抗するため、前代未聞の「イケメン法」を制定する。この法律は、美形男性の異性との恋愛や性行為を禁止するというもの。 「挿れる側」になるか、「挿れられる側」になるか…究極の選択。 これは「挿れられる側」を選んだイケメン達のストーリー。 ストーリー:重音社あかね 表紙プロデュース:つるシン

見習いサキュバス学院の転入生【R18】

悠々天使
恋愛
【R18】ただただ主人公が性的に襲われるだけの小説【R18】 21話以降かなりシナリオ重視になっていきます。 《以下本文抜粋》第14話。体育館裏の花蜜 「ほら、早く脱いで!」 渋々、膝のところで引っかかっているスラックスを脱ぎ、ワイシャツのボタンを外す。 外で裸になったのは、いつぶりだろう。 園児くらいの頃に、家庭用の簡易プールで泳いだ時くらいかもしれない。 その時と違うのは、身体が一人前の大人に成長していることと、目の前の美少女の股間を見て勃起していることだ。 風が素肌に当たるが、陽の光も同時に浴びているので、ちょうど良い気温だった。 とても良い気持ちだ。 「セイシくん、何だか気持ち良さそうね。そんな情け無い格好してるのに」 「そうだね、素肌に直接風が当たって良い感じなんだ」 「へぇー、そうなんだ。じゃあ私もなろっかな」 「え? ちょ、それはまずいよ」 ゆかが半脱げのブラウスを脱ぎ、産まれたままの姿になる。 これは、ヘアヌード。 「へ? 何でまずいの? ここまでくれば、何にも着なくても一緒でしょ、うーんしょ、ハイ! 素っ裸、完成っ」 ゆかの裸。白い肌に、揺れる黒髪のボブヘアー。 陽の光で身体の曲線が強調され、まるで天使のようだった。 ゆかが、大きく伸びをする。 「ふぅーっ、すっごい開放感。これ、体育館裏じゃなかったら、絶対不可能な体験よね」 「う、うん、そうだね」 「だねー!いぇーい」 素っ裸で芝生の上を小走りして一回りする美少女。 「ねぇねぇ、芝生の上で、ブリッジするから、見てて」 「え? ブリッジって、体育の時間にやってる、寝転がって足と手でやる、あのブリッジ?」 「そうそう、風と太陽が最高だから」 すごく楽しそうなゆか。 僕は彼女の正面に立つと、たわわな胸に目を奪われる。 「ふふっ、そんなにびんびんのカッチカッチにしちゃって、じゃあ、ゆか様の、華麗なるブリッジをお見せしますよ! はいっ」 ゆかは、立ったままで、ゆっくりガニ股になり、膝を曲げながら、地面に両手を着けて、腰を高く突き出す。 【説明文】 ※趣味全開の作品。若干Mの方むけの内容。主人公はノーマル。 両親の都合により、なぜか聖天使女学院へ転入することになった玉元精史(たまもとせいし)は、のちにその学院がただの学校ではなく、普段は世に隠れている見習いサキュバスたちが集められた特殊な学校だということを知る。 注)見習いサキュバス(正式:未成熟な淫魔)とは、普通家庭で唐突に産まれ、自分がサキュバスと知らないまま育った子が多く、自分は通常の人間だと思っている。 入学する理由は、あまりにも性欲が強すぎるため、カウンセラーに相談した結果、この学院を紹介されるというケースが主である。

処理中です...