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第10話 魔剣『リンドヴルム』
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そう言いながら俺の方に近づき、困惑する俺とクロエの肩に手を置く。何というか、妙に距離感が近い気がするが大丈夫だろうか。俺の中の研究者というイメージだと、もう少し陰湿なイメージがあったのだが、なんというか……ずいぶんと開放的な人のようだ。
それにしても、近くで見るとますます美少女っぷりが際立つ。クロエやルナにはないミステリアスな魅力が俺の好みドストライ──
「……『ステータスオープン』」
唐突に彼女が発した言葉を聞いて、俺は一瞬思考を停止した。なんだ? ステータスを見られている……のか?
ルナはちゃんと断りを入れてからステータスを見てきたのに、この子は……!
しかしそれはほんの数秒のこと。アリアは興味深そうに何度も首を傾げている。そして俺の目を見つめながら、
「ほうほう、『リジェネレーション』に『ライフドレイン』か。これは実に興味深い。特に君の方はなかなか面白いことになっているねぇ。よし決めたぞ!」
「あ、あのアリアさん……」
「ん? あぁ自己紹介がまだだったね。僕はこの国の宮廷魔術師にしてファイド子爵令嬢にして天才研究者のアリア・ファイドだ!」
得意気に名乗った彼女だが、自分で自分のことを天才とかいうヤツって、実はたいしたことないことが多いと思うけど……どうだろう。
「あー、君たちの自己紹介は不要だ。それについては興味が無いからね。その代わり……、そのユニークスキルを発現したきっかけについて話してくれないだろうか?」
話してしまってよいものだろうか? ルナの方に視線を送ると、彼女は小さく頷く。俺とクロエは腹を決めてアリアに今までの経緯を順を追って話して聞かせた。その間、アリアは無言で真剣な表情を浮かべて聞いていた。
「……なるほどね。そんなことがあったのか」
「はい」
「ユニークスキルが発現したきっかけは概ね二人の認識のとおりだと思うよ。──僕は『適応発現』と呼んでいる」
「『適応発現』?」
聞き慣れぬ単語に思わず復唱してしまう。クロエも初めて聞くのか首を傾げていた。
「そうだ。生命の危機に瀕するような状態に長い間置かれていた場合、その状態を打開するようなスキルが発現することがある。例えば、炎にずっと炙られていれば『炎耐性』を獲得できるといった具合だ」
「それじゃあ、私たちの場合は……」
「うん。二人は生死の境を彷徨っていたんだろう? それこそ死にかけていたんじゃあないか? でも死ねなかった。だからこそ回復系のスキルが発現したとも言える。だから、リックくんがリジェネレーションを発現したのは、聖フランシス教団が回復術士を生み出す時と根本的に同じ理論さ」
俺の脳裏に、あのときの恐怖がフラッシュバックする。空腹によってジリジリと削られるHP。不味いポーションを飲んでも飲んでも根本的な解決には至らない生き地獄とも言える状態。
思い出すだけで全身が粟立ち、嫌でも身震いが止まらなくなる。それを察してか、クロエが俺の手を握ってくれた。それだけで随分と心が落ち着くものだ。
「リッくん……あなたも私と同じように辛い目に遭っていたのね……」
「でも、クロエに比べたらまだマシさ。多分」
クロエの話だと、彼女が聖フランシス教団に捕まったときの扱いは凄惨を極めたらしい。それを聞いただけでも吐き気を催してくる。
でも、こうやって苦しみを共有できるだけで幾分か救われている気がするものだ。クロエに会えて本当に良かったと改めて思うのであった。
「僕から言えることは二つ。まず一つに、今から君は自由だ。もう何も縛られる必要はないんだよ。もう一つ、恐らくこれがいちばん知りたいのだろうが……二つのスキルの『裏ステータス』、つまり隠し効果については僕もよく分からなかった。悪いね」
申し訳なさそうに頭を下げるアリア。しかし彼女は十分に俺の力になってくれていることに違いはないのだ。だから俺は、感謝を込めて彼女に微笑みかける。すると、アリアは少しだけ頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。
──かわいい! なんだろう。こういうのって良いよな! と俺がひとりテンションを上げていると……
「リッくんのバカ死ね! ちょっと優しくしてあげたらすぐに調子に乗るんだから!」
クロエに脇腹を思いっきりつねられた。おい、なんで怒ってるのか知らないけど、いきなり死ねは酷くないか?
その様子を見て、ルナだけは楽しそうにクスクスと笑っている。いや、お前助けてくれても良くないか?
やがて、ルナがぽつりと呟いた。
「アリアさんなら、何か分かると思ったのですが……」
「僕を買いかぶるなよルナ。──でもそうだね……『リジェネレーション』と『ライフドレイン』の特性について、ある程度想像に基づいて推測することはできるよ」
「ほんとうですか!? 教えてくださいっ!」
クロエがアリアに詰め寄る。俺も彼女の言葉を聞き逃さないように、静かにアリアの方へ意識を向けた。
「『適応発現』したスキルは基本的に、永続的に発動しているわけではない。必要な時以外は発動しないものだ」
「というと?」
「『リジェネレーション』なら、継続的にHPを消耗している時、『ライフドレイン』は自分のHPが減っている時……かな」
「ってことは、戦闘中にリジェネレーションを使おうとすると、ずっと空腹でいないといけないってことですか?」
だとしたらだいぶ使いにくいスキルかもしれない。だが、アリアはゆっくりと首を横に振った。
「いいや。なにもHPを継続的に消費する状況は空腹だけではないだろう?」
「……っ! そうか!」
「毒、火傷、出血。他にも色々あるが──」
「じゃあ!」
突然、クロエが背負っている大剣を引き抜いた。あれは確か魔剣の……。
「じゃあリッくんにこの子を握って戦ってもらえば!」
「……?」
「この子には使用者のHPを吸収して自身を強化する力があるの。……だから!」
確かにそれであれば常時体力が消耗している状態、つまり『リジェネレーション』が発動している状態になる! あくまでもアリアの理論に基づけばだけど。
「……それは魔剣かい?」
アリアは不思議そうに、興味深げに、まじまじとクロエの持つ剣を見つめていた。その目は、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように輝いている。
「はい。聖フランシス教団から持ち出したものですけど」
「ほう! これは興味深いな。少し見せてもらうよ」
アリアが手を差し出すと、クロエは黙ってそれを手渡した。
「んー……ふむ……おぉ……ほぅ……」
「あ、あのアリアさん……?」
アリアが剣に夢中になっている様子に、クロエも流石に戸惑ってしまったのか、心配そうな声を出す。それに気づいたアリアが慌てて取り繕うように咳払いをした。
「失礼、これは聖フランシス教団にあったものと言ったかな?」
「はい」
「なるほど……あの教団が所有していたか……」
アリアが顎に手を当てながら考え込むような仕草をする。それから少しの間思案した後、ルナとクロエが不思議そうな顔をしていると再び口を開いた。
「この剣は恐らく『リンドヴルム』。聖魔の相対する属性を兼ね備える、魔剣の中でもかなり特殊なものでね。数百年前の戦乱のおりに失われたと言われていたが……教団が所有していたとはな」
「それではもしかして、アリアさんはこれについて詳しいのでしょうか」
「いや、残念ながら魔剣は僕の専門ではないよ。ユニークスキルと魔剣との関係について調べてみたことがあって偶然知っていただけさ」
「そっかぁ……」
クロエはがっくりと肩を落とす。でも収穫はあった。クロエが持っていた訳の分からない魔剣の正体が分かったのだから。
それにしても、近くで見るとますます美少女っぷりが際立つ。クロエやルナにはないミステリアスな魅力が俺の好みドストライ──
「……『ステータスオープン』」
唐突に彼女が発した言葉を聞いて、俺は一瞬思考を停止した。なんだ? ステータスを見られている……のか?
ルナはちゃんと断りを入れてからステータスを見てきたのに、この子は……!
しかしそれはほんの数秒のこと。アリアは興味深そうに何度も首を傾げている。そして俺の目を見つめながら、
「ほうほう、『リジェネレーション』に『ライフドレイン』か。これは実に興味深い。特に君の方はなかなか面白いことになっているねぇ。よし決めたぞ!」
「あ、あのアリアさん……」
「ん? あぁ自己紹介がまだだったね。僕はこの国の宮廷魔術師にしてファイド子爵令嬢にして天才研究者のアリア・ファイドだ!」
得意気に名乗った彼女だが、自分で自分のことを天才とかいうヤツって、実はたいしたことないことが多いと思うけど……どうだろう。
「あー、君たちの自己紹介は不要だ。それについては興味が無いからね。その代わり……、そのユニークスキルを発現したきっかけについて話してくれないだろうか?」
話してしまってよいものだろうか? ルナの方に視線を送ると、彼女は小さく頷く。俺とクロエは腹を決めてアリアに今までの経緯を順を追って話して聞かせた。その間、アリアは無言で真剣な表情を浮かべて聞いていた。
「……なるほどね。そんなことがあったのか」
「はい」
「ユニークスキルが発現したきっかけは概ね二人の認識のとおりだと思うよ。──僕は『適応発現』と呼んでいる」
「『適応発現』?」
聞き慣れぬ単語に思わず復唱してしまう。クロエも初めて聞くのか首を傾げていた。
「そうだ。生命の危機に瀕するような状態に長い間置かれていた場合、その状態を打開するようなスキルが発現することがある。例えば、炎にずっと炙られていれば『炎耐性』を獲得できるといった具合だ」
「それじゃあ、私たちの場合は……」
「うん。二人は生死の境を彷徨っていたんだろう? それこそ死にかけていたんじゃあないか? でも死ねなかった。だからこそ回復系のスキルが発現したとも言える。だから、リックくんがリジェネレーションを発現したのは、聖フランシス教団が回復術士を生み出す時と根本的に同じ理論さ」
俺の脳裏に、あのときの恐怖がフラッシュバックする。空腹によってジリジリと削られるHP。不味いポーションを飲んでも飲んでも根本的な解決には至らない生き地獄とも言える状態。
思い出すだけで全身が粟立ち、嫌でも身震いが止まらなくなる。それを察してか、クロエが俺の手を握ってくれた。それだけで随分と心が落ち着くものだ。
「リッくん……あなたも私と同じように辛い目に遭っていたのね……」
「でも、クロエに比べたらまだマシさ。多分」
クロエの話だと、彼女が聖フランシス教団に捕まったときの扱いは凄惨を極めたらしい。それを聞いただけでも吐き気を催してくる。
でも、こうやって苦しみを共有できるだけで幾分か救われている気がするものだ。クロエに会えて本当に良かったと改めて思うのであった。
「僕から言えることは二つ。まず一つに、今から君は自由だ。もう何も縛られる必要はないんだよ。もう一つ、恐らくこれがいちばん知りたいのだろうが……二つのスキルの『裏ステータス』、つまり隠し効果については僕もよく分からなかった。悪いね」
申し訳なさそうに頭を下げるアリア。しかし彼女は十分に俺の力になってくれていることに違いはないのだ。だから俺は、感謝を込めて彼女に微笑みかける。すると、アリアは少しだけ頬を赤らめてそっぽを向いてしまった。
──かわいい! なんだろう。こういうのって良いよな! と俺がひとりテンションを上げていると……
「リッくんのバカ死ね! ちょっと優しくしてあげたらすぐに調子に乗るんだから!」
クロエに脇腹を思いっきりつねられた。おい、なんで怒ってるのか知らないけど、いきなり死ねは酷くないか?
その様子を見て、ルナだけは楽しそうにクスクスと笑っている。いや、お前助けてくれても良くないか?
やがて、ルナがぽつりと呟いた。
「アリアさんなら、何か分かると思ったのですが……」
「僕を買いかぶるなよルナ。──でもそうだね……『リジェネレーション』と『ライフドレイン』の特性について、ある程度想像に基づいて推測することはできるよ」
「ほんとうですか!? 教えてくださいっ!」
クロエがアリアに詰め寄る。俺も彼女の言葉を聞き逃さないように、静かにアリアの方へ意識を向けた。
「『適応発現』したスキルは基本的に、永続的に発動しているわけではない。必要な時以外は発動しないものだ」
「というと?」
「『リジェネレーション』なら、継続的にHPを消耗している時、『ライフドレイン』は自分のHPが減っている時……かな」
「ってことは、戦闘中にリジェネレーションを使おうとすると、ずっと空腹でいないといけないってことですか?」
だとしたらだいぶ使いにくいスキルかもしれない。だが、アリアはゆっくりと首を横に振った。
「いいや。なにもHPを継続的に消費する状況は空腹だけではないだろう?」
「……っ! そうか!」
「毒、火傷、出血。他にも色々あるが──」
「じゃあ!」
突然、クロエが背負っている大剣を引き抜いた。あれは確か魔剣の……。
「じゃあリッくんにこの子を握って戦ってもらえば!」
「……?」
「この子には使用者のHPを吸収して自身を強化する力があるの。……だから!」
確かにそれであれば常時体力が消耗している状態、つまり『リジェネレーション』が発動している状態になる! あくまでもアリアの理論に基づけばだけど。
「……それは魔剣かい?」
アリアは不思議そうに、興味深げに、まじまじとクロエの持つ剣を見つめていた。その目は、まるで新しいおもちゃを与えられた子供のように輝いている。
「はい。聖フランシス教団から持ち出したものですけど」
「ほう! これは興味深いな。少し見せてもらうよ」
アリアが手を差し出すと、クロエは黙ってそれを手渡した。
「んー……ふむ……おぉ……ほぅ……」
「あ、あのアリアさん……?」
アリアが剣に夢中になっている様子に、クロエも流石に戸惑ってしまったのか、心配そうな声を出す。それに気づいたアリアが慌てて取り繕うように咳払いをした。
「失礼、これは聖フランシス教団にあったものと言ったかな?」
「はい」
「なるほど……あの教団が所有していたか……」
アリアが顎に手を当てながら考え込むような仕草をする。それから少しの間思案した後、ルナとクロエが不思議そうな顔をしていると再び口を開いた。
「この剣は恐らく『リンドヴルム』。聖魔の相対する属性を兼ね備える、魔剣の中でもかなり特殊なものでね。数百年前の戦乱のおりに失われたと言われていたが……教団が所有していたとはな」
「それではもしかして、アリアさんはこれについて詳しいのでしょうか」
「いや、残念ながら魔剣は僕の専門ではないよ。ユニークスキルと魔剣との関係について調べてみたことがあって偶然知っていただけさ」
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