上 下
6 / 38

第6話 ステータスオープン!

しおりを挟む
 ルナの言葉に嘘は感じられない。クロエの方を見ると、彼女は小さく首肯しゅこうした。どうやら俺の判断は正しかったようだ。

「回りくどいことはやめましょう。……わたしはあなた方探していた『聖フランシス教団に反抗する組織』の一員です」

 ルナは落ち着いた口調で言う。

「『月下げっかつどい』と呼ばれるわたしたちは、聖フランシス教団が育成する回復術師の存在に疑問をいだき、教団の闇を白日の元に晒すべく活動しています。今はまだ小さな組織ですが、回復術師に職を奪われたポーション生成師や薬草師などを中心に徐々に仲間を増やしていっています」

 回復術師に職を奪われたポーション生成師? 俺みたいなやつのことか? ……だとしたら俺も仲間に入れるってことなのかな? 俺の考えを見透かすように、ルナは俺たちを見てこう続けた。

「──もしよければあなた方のお話を聞かせてもらえませんか? なぜ教団から追われ、わたしたちを頼ろうとしていたのか」

 俺たちは顔を見合わせると、同時に頷いた。
 その後、俺とクロエは順番に自己紹介をして、これまでのことを話した。俺は、聖フランシス教団の回復術師のせいでパーティーを追い出されたことを説明し、クロエは教団に人体実験をされてライフドレインのスキルを発現してしまい、魔女となってしまったことを説明したのだが、その間ルナは一言も発することなく俺たちの話に耳を傾けていた。

「なるほど。ではやはり教団は……」

 クロエの説明を聞いたルナの第一声がそれだった。彼女は目を伏せて少し考え込む素振りを見せたあと、再び俺たちに向き直った。そして真剣な表情で口を開く。

「回復魔法というものは本来自然の摂理に反しているものだと言われています。──教団が人体実験によって意図的に回復術師を生み出しているのだとしたら、その能力は……」

 そう言って、ルナは右手を胸に当てた。

「──おそらくは何らかの代償なり、使用制限なり、それなりのデメリットがあるはずなんです。それが本当なら、これは由々しき事態ですよ。このまま放置しておくわけにはいきません」

 クロエが小さく息を飲む音が聞こえた。

「やっぱり、私みたいな『魔女』が生まれてしまったのも、その代償だというのなら……」
「それに、俺の『リジェネレーション』スキルにも代償があるのだとしたら……」

 考え込むクロエと俺にルナが声をかけた。

「お二人とも、ステータスを拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ、お嬢様はステータス開示スキル持ちなんですか!?」

 ステータスを見れる人間というのは、教会カテドラルの選ばれた聖職者だけだ。俺なんかは、教会に行って見てもらわなければ、自分のステータスを具体的な数字として見ることができないのだから。
 驚いた俺に、ルナは苦笑した。

「一応、基礎的なスキルは一通りマスターしてますので」
「それでも、他人のステータス開示スキルなんてのは、教会カテドラルで特別な祝福を授からないと……あっ」

 そうだ、七聖剣セブンスナイツなんて呼ばれて、この国最強の騎士団の一角であるこの侯爵令嬢殿であれば、そんな祝福を授かっていても不思議ではないのだ。俺は自分が無知だったことに恥じ入るばかりだった。
 しかしルナは特に気を悪くした様子もなく、優しく微笑んで言った。

「気にしないでください。むしろ当然の反応だと思いますから。──それで? どうかされました?」
「あ、あぁ……いや、ステータスを見せてもいいんですけど、こんな天才令嬢殿に俺の平凡なステータスを見せるのは恥ずかしいというか……」
「問題ありません。わたしはあなた方のスキルに興味があるんです。見せて頂いても?」
「そういうことなら……。ほら、クロエも早く」
「う、うん」

 クロエが俺の隣に並ぶと、ルナは俺たちの胸にその小さな手のひらを当てて、スキルを発動する。

「『ステータスオープン』」

 俺たち二人の目の前に、四角いステータス画面が展開された。女神様の恩恵とはいえ、自分の能力がこうやって数字として現れていることには多少なりとも不快感を覚える。隣のクロエも少し居心地の悪そうな表情をしていた。

 ルナは俺たちのステータスと真剣な表情でにらめっこを始める。

「……あの? なにか分かりました?」

 ルナは俺の言葉に答えず、ひたすらに何かを考え込んでいるようだった。しばらくしてから俺達に「ありがとうございました」と言うと、軽く手を振ってステータス画面を閉じる。

「リックさんのステータスは平均値以下、しかしこれはあなたが支援職である以上仕方の無いことです。……クロエさんのステータスが平均値より大幅に高いのは、無理な人体実験によって無理やり引き出されたものだとすれば辻棲つじつまが合う。……そしてなによりも」

 そう言うと、彼女はまたも黙り込んでしまった。その横顔からは、先程までのような穏やかな印象は一切感じられない。その凛とした佇まいに、思わず目を奪われてしまうほどだった。やがて彼女は口を開く。

「まず最初にお伝えしなければなりませんが、わたしの力ではお二人の『リジェネレーション』と『ライフドレイン』のスキルについて、お二人が理解している以上の詳細──すなわちデメリットや副次効果などの『裏情報』が一切分かりませんでした。恐らくその二つのスキルは世の中に二つとない固有のもの。すなわち『ユニークスキル』なのではないかと推測します」
「な、なによそれ? 確かにリッくんのはおかしなスキルだと思ってたけど、私のも普通のスキルじゃなかったってことなの?」

 クロエが驚きに目を丸くした。俺も正直驚いている。まさか、噂にしか聞いた事のない『ユニークスキル』とかいうものが実際に存在していたとは思いもしなかったからだ。
 しかもそれが、自分に発現していたなんて……!

「おそらくは。ですが一つだけハッキリと言えることがあります。特にリックさんの『リジェネレーション』は聖フランシス教団にとっては喉から手が出るほど欲しい無限回復スキルです。その存在を知られれば彼らは地の果てまでも追ってきて、リックさんを実験材料にしようとするでしょう」
「やっぱり、クロエと出会わなくてもどのみち俺は追われる運命だったんだな……」

 ルナの口から語られた事実に愕然としながら、自嘲気味につぶやく。

「いずれにせよ、これ以上のことはわたしには分かりません。……なので、知り合いの研究者の所に行きましょう。その人に調べてもらえばあるいは……ただ、あくまで研究者としての視点からの鑑定結果になりますので、信用しすぎないようにお願いします」
「あ、はい……」

 ルナは申し訳なさそうに顔を曇らせている。どうやら自分の力不足を気に病んでいるらしい。彼女のせいではないのだが、まぁ、そういう性分なんだろう。そんなことを気にしていても始まらない。ここは前向きに行くべきだ。それに、彼女のおかげで俺たちのスキルがどうやらユニークスキルであることがわかったのだから。

「さて、そろそろいい時間ですね。食事でも摂りながら続きは明日ということにしましょうか。今日は泊まっていってくださいね。せっかくだから部屋を用意してもらいますから」
「すみません。ありがとうございます」

 俺は礼を言って頭を下げた。するとルナは自分の従者を呼ぶための鈴を鳴らした。程なくしてメイドたちが数人やって来る。
 彼女たちは、てきぱきと俺たちを応接室から客室へと案内してくれた。

 クロエと出会ったことから始まり、激動の一日だったが、今夜くらいはゆっくり休むことができるはずだ。俺はふかふかのベッドにダイブした。柔らかい布団が俺の体を包み込む。その感触に癒されていると、いつの間にか意識を失っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】底辺冒険者の相続 〜昔、助けたお爺さんが、実はS級冒険者で、その遺言で七つの伝説級最強アイテムを相続しました〜

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 試験雇用中の冒険者パーティー【ブレイブソード】のリーダーに呼び出されたウィルは、クビを宣言されてしまう。その理由は同じ三ヶ月の試験雇用を受けていたコナーを雇うと決めたからだった。  ウィルは冒険者になって一年と一ヶ月、対してコナーは冒険者になって一ヶ月のド新人である。納得の出来ないウィルはコナーと一対一の決闘を申し込む。  その後、なんやかんやとあって、ウィルはシェフィールドの町を出て、実家の農家を継ぐ為に乗り合い馬車に乗ることになった。道中、魔物と遭遇するも、なんやかんやとあって、無事に生まれ故郷のサークス村に到着した。  無事に到着した村で農家として、再出発しようと考えるウィルの前に、両親は半年前にウィル宛てに届いた一通の手紙を渡してきた。  手紙内容は数年前にウィルが落とし物を探すのを手伝った、お爺さんが亡くなったことを知らせるものだった。そして、そのお爺さんの遺言でウィルに渡したい物があるから屋敷があるアポンタインの町に来て欲しいというものだった。  屋敷に到着したウィルだったが、彼はそこでお爺さんがS級冒険者だったことを知らされる。そんな驚く彼の前に、伝説級最強アイテムが次々と並べられていく。 【聖龍剣・死喰】【邪龍剣・命喰】【無限収納袋】【透明マント】【神速ブーツ】【賢者の壺】【神眼の指輪】  だが、ウィルはもう冒険者を辞めるつもりでいた。そんな彼の前に、お爺さんの孫娘であり、S級冒険者であるアシュリーが現れ、遺産の相続を放棄するように要求してきた。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

すろらいふ・おんらいん

TaHiRo
ファンタジー
「ソラタ」 「なに? アカネ」 「この作品、説明するんだって」 「――だれが見るの?」 「いや、少しは見るでしょ」 「長いの、見ないよ。読まないよ。Cマスも同意してるし」 「自分のAIを同意に使わないの」 「じゃあ、なに?」 「なんでもいいから。このネクストワールドオンラインで――」 「何にもしない」 「あのね――。そうだけど。といいつつ、かなりやるよね」 「――そうだっけ」 「ただゲームはしないから」 「いい加減、タウンから出て、ゲームでも」 「しない」 「……何で制作に参加してるのよ」 「いいじゃん。別に。仕事だし」 「あのね、オンラインでスローライフしてもね……」 「オンラインでも!」 「自慢しないの。というか、いつ働くの?」 「――気が向いたら」 「あのね~~」 「というか、オンラインでスローライフ。長くない?」 「え、じゃあ、スローライフ、オンライン?」 「すろらいふ、おんらいん。で」 「――短くなってる?」 「適当でいいじゃん」 「――ソラタのテンポに付いていくのって、大変なんだけど」 「遅いのに? 慣れればラクだよ」 登場人物〈運営〉 ソラタ (タウン制作チームの責任者) アカネ (エネミー制作・担当) サオリ (アカネの元先輩) カンシス(気象・機材接触部チーム責任者) 〈AI〉 Cマス(猫)/マッサン(フクロウ)/ クルリ / コウ / オカン(マザーAI) 〈プレイヤー〉 エリオ / マリネン / タロス(元チータ) 写真 © GAHAG / エモピク

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

処理中です...