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第2章 美少女天使スクリュー・ドライバー
天才天使はドSなの? 恐怖の指揮官
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学校から東京港までは7キロほどある。普段なら電車とかバスを使って行くんだけど、今は緊急事態。走っていく。でもただ走るんじゃなくて
「機装変身(メイクアップ)!」
私は黄色いブレスレットに触れながら叫んで、『スクリュー・ドライバー』を身にまとった。
身体能力を強化する私の機装(ギア)は、軽く走るだけでも時速50キロは超える。マラソンの要領で走れば東京港まで10分足らずでたどり着ける。その分エネルギーは消費してしまうから、戦闘に割けるエネルギーは減ってしまうんだけど。
機獣警報が出て、車両は軒並み路肩に停められている幹線道路を、私は駆け抜けた。足の調子が万全ならもっと速く走れたのに。
東京港のコンテナターミナルには、既にピンク色の舞台(ステージ)が展開されていた。しかし様子が変だ。舞台の中に機獣の姿はなく。30人ほどの天使がその周囲に突っ立っているだけだった。
「『青海プロダクション』の第二世代機装天使、梅谷彩葉、参戦します!」
とりあえず私は舞台に駆け込んで参戦を告げた。すると、そこにいた天使のうちの一人、後輩の柊里ちゃんが私のところに駆け寄ってきた。
「おいこら彩葉(センパイ)、出撃はやめておけとP(ぴー)に言われていたんだろ? だからあえて連絡しなかったんだから学校で授業受けてろ」
「いやでもどうしても柊里ちゃんが心配で……」
柊里ちゃんは全身を黒い装甲に覆われて、所々に赤のラインが入った機装、『エル・ディアブロ』をまとっているので表情はよく分からないけど、顔面部分には目や口のようなものがあるし、おでこにはブイ字型の黄色いツノが生えているので結構かっこいい。
「まあ来ちゃったものはしょうがないか……」
「そうそう、で、どうなってるの? おかしくない? この状況」
「あぁ、センパイの言う通り、今日の作戦(ライブ)はおかしい。……機獣が攻めてこない」
「機獣が攻めてこない!?」
私はびっくりして聞き直してしまった。そんなの前代未聞、機獣はいつも舞台のガンマ線に引き寄せられて次から次へと押し寄せてくるはずなのに……。
困惑する私たちの元に、銀色の鎧を身にまとった天使が歩いてきた。手には光り輝く槍を持ち、背中には白い羽根、頭の上には同じく白い輪っかが浮かんでいる。まさに『天使』といった容貌だ。そして私はその天使に見覚えがあった。
「STの天使兼指揮官の『シルバー・ストリーク』だ。よく来た『スクリュー・ドライバー』。私から状況の説明をしてやろう。どうせこの膠着状態はしばらくは動かないだろうしな」
若い男の人の声。シルバー・ストリーク――最強の第二世代天使。その正体は謎に包まれているけれど、まさかこんな所で出会うなんて。それほどSTは本気だということだ。ということはやはり未確認が……?
「機獣の大群は今シールドの外に集結している。上陸してきた機獣はごく一部、第一波を我々が撃退したところ、それ以降機獣の上陸はない。つまりは睨み合いの状態ということだ。……奴ら、我々に活動限界があることを知って持久戦をやるつもりだな。とはいえ、敵がシールドの外に集まっている以上我々も撤退はできない」
「……今まで機獣がそんな頭を使ってきたことありましたっけ?」
いやない、機獣にそんな複雑な思考はできない。ただ本能のままに動いている……はず。それなのに何故……。
「いや、恐らくは機獣を操っている輩……『未確認』のせいだろうな」
「じゃあやはり未確認がいるのか?」
「姿は見えないが、いるだろうな」
柊里ちゃんの問いかけに、シルバー・ストリークは頷いた。すると、彼の周りに続々と仲間の天使たちが集まってくる。『トライブライト』に『ΣCROSS(シグマクロス)』、81プロデュースやアイルの天使、みんなエース級の天使ばかりだ。
「シルバーくん、このままじゃ日が暮れちゃうよー! シールドを開けて外の群れを入れちゃうっていうのはどう?」
「少しは想像力を働かせろ『アラウンド・ザ・ワールド』。そんなことをしたらネットで叩かれるぞ。国民を危険に晒したってな」
『トライブライト』の第三世代天使、笑鈴が馴れ馴れしく話しかけると、彼は面倒くさそうに答えた。なんでこのシルバーくんは人のことを機装名で呼んで、名前で呼ばないんだろう。自分も名前名乗らないし。
「自分らはちょくちょくシールドに穴開けて機獣を招き入れている癖に」
柊里ちゃんがボソッと呟いた。背筋が凍った。柊里ちゃんそれうっかり聞かれたらまずいやつだよ!
でも、幸いなことにSTの天使たちの耳に柊里ちゃんの言葉は届いていなかったようだ。笑鈴とシルバーくんは相変わらず言い争っている。STも一枚岩ではないらしい。
片や第二世代最強のベテラン。片や第三世代の天才。誰も口を挟めるような状態ではなかった。
「でもみんなエネルギー切れになっちゃうよ?」
「……お前はもう撤退しろ」
「どうして!?」
シルバーくんは意味深な溜めを作ってから、落ち着いた口調で淡々と続けた。
「気づいてないとでも思ったのか? 今日のお前は〝動きがおかしい〟ぞ」
「!?」
「それは私も気になってました」
「ええ、なってました」
シルバーくんの言葉に、オレンジ色の機装を身にまとったショートカットの双子――関枚(せきひら)姉妹が同意した。
「ちょっと調子悪いの……でも大丈夫。ちょうどいいハンデだよっ!」
笑鈴は左足が気になるのか、左足首をぐるぐると回してみせた。まあ私だって右足怪我してるしね……。彼女にとっては自分が活躍できずにチヤホヤされないのが嫌みたいだ。……自分が一番輝いていたい。そう思う気持ちは分からないでもない。トップ天使(アイドル)ともなるとその想いはひとしおだろう。
「じゃあローテーションで休むっていうのはどうだ? せっかくこれだけたくさんの天使がいるんだから、変身して待つのは何人かで大丈夫だろう」
兄妹ユニット『ΣCROSS』の兄、魁人(かいと)が提案した。しかしシルバーくんは首を横に振った。
「いや、戦闘が長引けばライブ配信の視聴数はどんどん下がる。長期戦になればなるほど不利なのは確かに『アラウンド・ザ・ワールド』の言う通りだ」
「だったら……」
「問題はそのやり方だ。機獣をシールドの中に入れるのではなく、何人かでシールドの外に出て叩く。その方がネットウケはいいだろうからな」
笑鈴を遮ってシルバーくんは続ける。誰も何も意見しない。恐らく皆わかってる。それ以外にいい方法はないって。
異論がないことを確認して、シルバーくんは頷いた。
「STがチヌークを手配しよう。搭載できる天使は6名。メンバーは私が決めていいか?」
私たちは黙って頷いた。ベテランでしかも指揮官(プロデューサー)だというのだから、彼に従って悪いようにはならないだろう。八雲Pさんからなにも指示がないということから考えても、とりあえず現場の指揮官であるシルバーくんの指示通りに私は動くしかない。
「……本当に行けるんだな? 『トライブライト』?」
「もちろんだよっ!」
「私は問題ありません」
「同じく私も」
トライブライトの三人が声を上げると、シルバーくんも満足げに頷いた。
「『トライブライト』に加えて私も行こう。そしてアイルの『ラスティー・ネール』、青海の『スクリュー・ドライバー』にも攻撃隊に加わっていただきたい」
「ほえっ!?」
「私ですか!?」
知らないうちに柊里ちゃんの側に寄ってきて彼女とじゃれ合い始めた(柊里ちゃんは心底嫌そうな顔をしていた。私もちょっと嫌だった)『ラスティー・ネイル』、秋茜(あきせ)華帆(かほ)、と突然名前を呼ばれた私はほぼ同時に間抜けな声を出した。
私はてっきり残り二人は『ΣCROSS』の二人かと思っていた。
「戦闘力、機装の特性、その他を鑑みての人選だ。『ΣCROSS』には残った天使を率いて、我々が撃ち漏らした機獣の掃討をお願いしたい」
「よし、わかった。『ファイバーブレイダー』もいるし、こっちは問題ない」
魁人の言葉に、後ろに控えていた騎士集団――ファイバーブレイダーが「オーッ!」という暑苦しい雄叫びを上げた。彼らは81プロデュースのエースで、別にΣCROSSの部下じゃないはずなんだけど……。
要するにあえてΣCROSSを防衛隊として残すことで、攻撃隊と防衛隊、どちらでもSTの天使が活躍して見せ場を作る。そうやって評判を上げたいのだろう。なかなか考えるじゃん。
「おい銀色。ウチのセンパイは怪我してるんだ。代わりにわたしを連れて行け」
「言っただろう? 私は機装の特性を考えて『スクリュー・ドライバー』にお願いしているんだ。……行けるか?」
最後の問いかけは私に対してだ。私は深く頷くと、こう答えた。
「行けます!」
「機装変身(メイクアップ)!」
私は黄色いブレスレットに触れながら叫んで、『スクリュー・ドライバー』を身にまとった。
身体能力を強化する私の機装(ギア)は、軽く走るだけでも時速50キロは超える。マラソンの要領で走れば東京港まで10分足らずでたどり着ける。その分エネルギーは消費してしまうから、戦闘に割けるエネルギーは減ってしまうんだけど。
機獣警報が出て、車両は軒並み路肩に停められている幹線道路を、私は駆け抜けた。足の調子が万全ならもっと速く走れたのに。
東京港のコンテナターミナルには、既にピンク色の舞台(ステージ)が展開されていた。しかし様子が変だ。舞台の中に機獣の姿はなく。30人ほどの天使がその周囲に突っ立っているだけだった。
「『青海プロダクション』の第二世代機装天使、梅谷彩葉、参戦します!」
とりあえず私は舞台に駆け込んで参戦を告げた。すると、そこにいた天使のうちの一人、後輩の柊里ちゃんが私のところに駆け寄ってきた。
「おいこら彩葉(センパイ)、出撃はやめておけとP(ぴー)に言われていたんだろ? だからあえて連絡しなかったんだから学校で授業受けてろ」
「いやでもどうしても柊里ちゃんが心配で……」
柊里ちゃんは全身を黒い装甲に覆われて、所々に赤のラインが入った機装、『エル・ディアブロ』をまとっているので表情はよく分からないけど、顔面部分には目や口のようなものがあるし、おでこにはブイ字型の黄色いツノが生えているので結構かっこいい。
「まあ来ちゃったものはしょうがないか……」
「そうそう、で、どうなってるの? おかしくない? この状況」
「あぁ、センパイの言う通り、今日の作戦(ライブ)はおかしい。……機獣が攻めてこない」
「機獣が攻めてこない!?」
私はびっくりして聞き直してしまった。そんなの前代未聞、機獣はいつも舞台のガンマ線に引き寄せられて次から次へと押し寄せてくるはずなのに……。
困惑する私たちの元に、銀色の鎧を身にまとった天使が歩いてきた。手には光り輝く槍を持ち、背中には白い羽根、頭の上には同じく白い輪っかが浮かんでいる。まさに『天使』といった容貌だ。そして私はその天使に見覚えがあった。
「STの天使兼指揮官の『シルバー・ストリーク』だ。よく来た『スクリュー・ドライバー』。私から状況の説明をしてやろう。どうせこの膠着状態はしばらくは動かないだろうしな」
若い男の人の声。シルバー・ストリーク――最強の第二世代天使。その正体は謎に包まれているけれど、まさかこんな所で出会うなんて。それほどSTは本気だということだ。ということはやはり未確認が……?
「機獣の大群は今シールドの外に集結している。上陸してきた機獣はごく一部、第一波を我々が撃退したところ、それ以降機獣の上陸はない。つまりは睨み合いの状態ということだ。……奴ら、我々に活動限界があることを知って持久戦をやるつもりだな。とはいえ、敵がシールドの外に集まっている以上我々も撤退はできない」
「……今まで機獣がそんな頭を使ってきたことありましたっけ?」
いやない、機獣にそんな複雑な思考はできない。ただ本能のままに動いている……はず。それなのに何故……。
「いや、恐らくは機獣を操っている輩……『未確認』のせいだろうな」
「じゃあやはり未確認がいるのか?」
「姿は見えないが、いるだろうな」
柊里ちゃんの問いかけに、シルバー・ストリークは頷いた。すると、彼の周りに続々と仲間の天使たちが集まってくる。『トライブライト』に『ΣCROSS(シグマクロス)』、81プロデュースやアイルの天使、みんなエース級の天使ばかりだ。
「シルバーくん、このままじゃ日が暮れちゃうよー! シールドを開けて外の群れを入れちゃうっていうのはどう?」
「少しは想像力を働かせろ『アラウンド・ザ・ワールド』。そんなことをしたらネットで叩かれるぞ。国民を危険に晒したってな」
『トライブライト』の第三世代天使、笑鈴が馴れ馴れしく話しかけると、彼は面倒くさそうに答えた。なんでこのシルバーくんは人のことを機装名で呼んで、名前で呼ばないんだろう。自分も名前名乗らないし。
「自分らはちょくちょくシールドに穴開けて機獣を招き入れている癖に」
柊里ちゃんがボソッと呟いた。背筋が凍った。柊里ちゃんそれうっかり聞かれたらまずいやつだよ!
でも、幸いなことにSTの天使たちの耳に柊里ちゃんの言葉は届いていなかったようだ。笑鈴とシルバーくんは相変わらず言い争っている。STも一枚岩ではないらしい。
片や第二世代最強のベテラン。片や第三世代の天才。誰も口を挟めるような状態ではなかった。
「でもみんなエネルギー切れになっちゃうよ?」
「……お前はもう撤退しろ」
「どうして!?」
シルバーくんは意味深な溜めを作ってから、落ち着いた口調で淡々と続けた。
「気づいてないとでも思ったのか? 今日のお前は〝動きがおかしい〟ぞ」
「!?」
「それは私も気になってました」
「ええ、なってました」
シルバーくんの言葉に、オレンジ色の機装を身にまとったショートカットの双子――関枚(せきひら)姉妹が同意した。
「ちょっと調子悪いの……でも大丈夫。ちょうどいいハンデだよっ!」
笑鈴は左足が気になるのか、左足首をぐるぐると回してみせた。まあ私だって右足怪我してるしね……。彼女にとっては自分が活躍できずにチヤホヤされないのが嫌みたいだ。……自分が一番輝いていたい。そう思う気持ちは分からないでもない。トップ天使(アイドル)ともなるとその想いはひとしおだろう。
「じゃあローテーションで休むっていうのはどうだ? せっかくこれだけたくさんの天使がいるんだから、変身して待つのは何人かで大丈夫だろう」
兄妹ユニット『ΣCROSS』の兄、魁人(かいと)が提案した。しかしシルバーくんは首を横に振った。
「いや、戦闘が長引けばライブ配信の視聴数はどんどん下がる。長期戦になればなるほど不利なのは確かに『アラウンド・ザ・ワールド』の言う通りだ」
「だったら……」
「問題はそのやり方だ。機獣をシールドの中に入れるのではなく、何人かでシールドの外に出て叩く。その方がネットウケはいいだろうからな」
笑鈴を遮ってシルバーくんは続ける。誰も何も意見しない。恐らく皆わかってる。それ以外にいい方法はないって。
異論がないことを確認して、シルバーくんは頷いた。
「STがチヌークを手配しよう。搭載できる天使は6名。メンバーは私が決めていいか?」
私たちは黙って頷いた。ベテランでしかも指揮官(プロデューサー)だというのだから、彼に従って悪いようにはならないだろう。八雲Pさんからなにも指示がないということから考えても、とりあえず現場の指揮官であるシルバーくんの指示通りに私は動くしかない。
「……本当に行けるんだな? 『トライブライト』?」
「もちろんだよっ!」
「私は問題ありません」
「同じく私も」
トライブライトの三人が声を上げると、シルバーくんも満足げに頷いた。
「『トライブライト』に加えて私も行こう。そしてアイルの『ラスティー・ネール』、青海の『スクリュー・ドライバー』にも攻撃隊に加わっていただきたい」
「ほえっ!?」
「私ですか!?」
知らないうちに柊里ちゃんの側に寄ってきて彼女とじゃれ合い始めた(柊里ちゃんは心底嫌そうな顔をしていた。私もちょっと嫌だった)『ラスティー・ネイル』、秋茜(あきせ)華帆(かほ)、と突然名前を呼ばれた私はほぼ同時に間抜けな声を出した。
私はてっきり残り二人は『ΣCROSS』の二人かと思っていた。
「戦闘力、機装の特性、その他を鑑みての人選だ。『ΣCROSS』には残った天使を率いて、我々が撃ち漏らした機獣の掃討をお願いしたい」
「よし、わかった。『ファイバーブレイダー』もいるし、こっちは問題ない」
魁人の言葉に、後ろに控えていた騎士集団――ファイバーブレイダーが「オーッ!」という暑苦しい雄叫びを上げた。彼らは81プロデュースのエースで、別にΣCROSSの部下じゃないはずなんだけど……。
要するにあえてΣCROSSを防衛隊として残すことで、攻撃隊と防衛隊、どちらでもSTの天使が活躍して見せ場を作る。そうやって評判を上げたいのだろう。なかなか考えるじゃん。
「おい銀色。ウチのセンパイは怪我してるんだ。代わりにわたしを連れて行け」
「言っただろう? 私は機装の特性を考えて『スクリュー・ドライバー』にお願いしているんだ。……行けるか?」
最後の問いかけは私に対してだ。私は深く頷くと、こう答えた。
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