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♡ガチャ召喚とハードクエスト♡

どうして泣いてるの?

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 急襲クエスト【アンラマンユ襲来】を達成しました!

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 私の目の前――というか多分NPCを除いたここにいる全員の目の前にこんなメッセージが表示されただろう。

「いやはや素晴らしい! やはり見込んだだけのことはあったな!」

「いやいや、見込んだのは俺だから!」

 手を叩きながら賞賛する『ハーフリング』の長老さんにフェリクスさんがツッコんだ。以前と打って変わって長老さんの機嫌がいいような気がする。これが『クエスト進捗ボーナス』ってやつなのだろう。急襲クエストを達成したので長老さんの私たちに対するイメージが変わったのかもしれない。


「さあさあ皆さん、是非とも我々の村の中へ!」

 さっきまでは散々嫌がっていたのにこれだ。長老さんは上機嫌で私たちを村へ招き入れたのだった。


 ◇  ◆  ◇


 長老さんは私たちを自分の家に招いた。『ハーフリング』の村は、身長が低い彼らのために設計されているようで、なにもかもが私たちには少し小さかったが、長老の家だけは少し造りが違うようで、私は特に背を屈めなくても入る事ができた。まあ他の人はほとんど背を屈めて入っていたけどね。私がちんちくりんだっただけ。

『ハーフリング』の家の見た目は、日本史の授業で習った『竪穴式住居』に良く似たものだった。土を固めて作られたようなお家で、入口は狭いけど中は意外と広い。それでも私たちパーティと長老さん、フェリクスさんが入ると結構キツキツだった。

「先程は不意をつかれたが、しっかりと備えをすれば魔王『イブリース』を撃退することも可能だと俺は考えます」

「なるほど……具体的な作戦は――」

「まず村の四方に――」

「そうすると――」

「次にここに――」


 魔王の軍を迎え撃つ相談だろうか……皆の話し声がする。でも私はあまり興味無いというか、何か別のことが無性に気になって、全然耳に入ってこなかった。

 そう。


 ――初めてホムラちゃんに抱っこされた時のあの感覚

 ――ユキノちゃんの照れ顔

 ――クラウスさんの背中

 ――リーナちゃんのニヤニヤ笑い

 ――キラくんの心配そうな顔

 ――アオイちゃんの尻尾

 ――セレナちゃんのミステリアスな微笑み


 私……なにか忘れてない? なにか……すごく大事なものを失っているような。あと少しで思い出せるような気がするんだけどな……。いかんせん頭に靄(もや)がかかったようにぼーっとして、上手く思考がまとまらない。

「――ご主人様、大丈夫と?」

 気づいたらミルクちゃんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「う、うん、大丈夫」

 ミルクちゃんは何か思い詰めるような、言わなければいけないことを言おうか言うまいか逡巡しているような、そんな表情を浮かべた。変なの、この子はゲーム内のデータのはずなのに、なんでこんなに感情豊かなのだろう?
 そして、やがて意を決したようにこう口にした。


「ご主人様、!」

「えっ?」


 何? なんのこと? よく分からないんだけど。ミルクちゃんが訛っているからかな? いや、そんなはずはないと思う。

「ご主人様、こっち!」

「ちょっと!!」

 私はミルクちゃんに手を引っ張られて私は長老さんの家の外に出た。外はもうすっかり真っ暗になっていた。――ということは現実世界(リアル)だと朝になってるってことで……もう起きなきゃ!

「なるほどそういうことね! 早くしないと学校に間に合わないって意味だったんだね、ありがとうミルクちゃん!」

「違うばい!」

「え?」

「ご主人様! 早く――早く思い出しんしゃい! 友達のこと、家族のこと、――

 ミルクちゃんは両目に涙を浮かべて必死に訴える。でも、そんな事言われても私にも分からないし……。私は私で友達は友達で家族は家族。それ以上でも以下でもないじゃない。

「ごめん、ミルクちゃんの言ってること分からないや。とりあえず今は行かなきゃ。――また今夜」

「だめ!!」

「――っ!?」

 だめ? なにがだめなの?

「行く前に思い出しんしゃい! ――やないと、手遅れになると!」

「なんで? 起きてから学校とかでゆっくり考えてみるよ」

 しかし、それに対するミルクちゃんの答えは耳を疑うようなものだった。



「行ったらもう――!」


「なーに言ってるの、大丈夫だよ心配性だなぁミルクちゃんは。心配しなくても私はちゃんと今夜ログインしにきます! 嫁を見捨てるわけないじゃない。ね?」

「そうじゃなくて……」

 もーう、可愛いんだからミルクちゃんは……。
 ぎゅっと、寂しがるミルクちゃんを抱きしめてあげる。ミルクちゃんはなにか言おうとしていたようだけど、私にハグされて言うのを諦めたようだ。
 私はパーティメンバーに、ログアウトする旨をメッセージで送ると、ミルクちゃんから離れて彼女に手を振った。


「――それじゃあまたね!」

「――

 ミルクちゃんはそれしか言わなかった。


 強制ログアウトのボタンを押すと、たちまち私の意識は暗闇に飲み込まれていく、ミルクちゃんの姿が霞んで見えなくなる寸前、彼女のぱっちりとした目から一粒の涙が溢れるのがわかった。


 ――どうして泣いているんだろう?


 ◇  ◆  ◇


 ココア――小見 心凪がログアウトしていった村の中で、彼女に『ミルク』と呼ばれていたメイド服の少女は、右腕でゴシゴシと目元の涙を拭うと、一言呟いた。

「バカみたい……運命は変えられんって分かっとんに……」
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