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episode4 特産品を売り込め!

55. ゴーレム使役

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 その後、男たちからは何も聞き出せなかった。リアやアクセルが脅すなどしたが「話すくらいなら死んだ方がマシだ」とまで言われたら私は困ってしまう。
 結局、男たちを次の町の冒険者に預けることにしてしばらくは共に連れていくことになった。

 いつ男たちが拘束を逃れて襲ってくるか不安ではあったが、リアが目を光らせていたこともあり、無事次の町にいた冒険者たちに預けることができた。盗賊としてどこかで指名手配されているはずの彼らのことだから、あとは冒険者たちが煮るなり焼くなり売るなり好きにするだろう。

 盗賊のリーダー格の男が言っていた言葉は気になるところだが、そんなよく分からない脅しに屈してせっかくの品評会の機会を逃すわけにはいかないので、私たちはそのまま王都に向けて進むことにした。
 ホラーツとセリムの二人にはここで引き返すことも提案したが、彼らも男の脅しを「バカバカしい。負け惜しみに口からでまかせを言っているに決まっている」と笑って、予定通り同行を続けるようだった。


 そして数日の間、特になんの問題もなく旅は続いた。

「なぁ宰相殿……」
「ティナです! ──どうしました?」
「ティナは……誰がオレたちを襲わせたんだと思う?」

 ある時前を歩くアクセルが不安そうに話しかけてきた。なんだかんだ言って盗賊の男の口にしたことが気になるらしい。正直私も気にならないと言ったら嘘になる。

「普通に考えて私たちが品評会に行くことをよく思わない人……ライバルでしょうか?」
「あの矢は真っ先にティナを狙っていたぞ? 誰かに命を狙われていたりしないか?」
「一人いますけど……」

 頭の中に浮かんだのライムントの顔である。しかし私は頭を振ってそれを否定した。

「でも、ライムントが私を狙う理由は『自分の手で七天を倒す』という目的のため……プライドの高い彼が誰かに殺させるというのは考えにくいです」
「そうか……じゃあやっぱり誰かから聞き出さないとな……」
「……」
「……」

 重苦しい沈黙が流れる。皆いつ突然襲われるかわからないという緊張感を持っているようだ。数日前に領地の境界線を越えてアルベルツ領に入っているというのもあるのだろう。私たちは完全にアウェーだった。
 リアなんかいつも耳をピンと立たせて神経を張りつめさせている。夜もあまり休めていないようだし、彼女はだいぶ疲れているように見えた。

「──リアさん」
「は、はいっ!」
「リアさん、少し休んでください。いざと言う時にリアさんが疲れていると私たちは全滅してしまいます」
「で、でも……あたしが休んでる時に襲われちゃったら……」
「アクセルさんもカルロスさんもいるので大丈夫ですよ。私だって戦えますし!」

 牛の上で揺られているリアに握りこぶしを作ってみせると、リアは「そう……? だったら……」と牛の上にぐでーっと伸びてしまった。そしてすぐさま聴こえてくる寝息。

「寝るの早っ!」

 私が感心していると──突然周囲で強力な魔力の反応があり──


 ──ゴゴゴゴッ!

 と地鳴りのような音が響いた。リアのいびきかな? と首を傾げた私をアクセルが突き飛ばす。と、一瞬前まで私の頭があった場所を大きな岩の塊が通過していった。

「ふわぁっ!?」

 慌てて起き上がった私は目を疑った。
 街道の両脇にあった岩、完全に自然のものかと思っていた岩が変形して、二体の巨大なモンスターと化したのだ。3メーテルほどのゴツゴツした身体は人間のように頭と手足がついており、目の部分には青色に光る魔導メダルが埋め込まれている。

 そこら辺を歩いていた通行人たちもモンスターの姿を見て慌てて逃げていく。誰も助けてくれそうな人はいない。

(あれは確か──ゴーレム! 確かに前に通った時にはあの岩はなかったような……)

 私は自分の迂闊さを恥じた。そうこうしているうちにゴーレムのうちの一体が牛の上で寝ていたリアを掴み上げた。

「わぁぁぁっ! なになに!?」
「リアさん!」

 リアは驚いた様子で逃れようともがくが、ゴーレムは尋常ではない力でリアの身体を掴んで離さない。

「痛いよ助けて!」
「クソッ! 宰相殿と牛を守れ! それが最優先だ!」

 リアを救出しようとしたカルロスにアクセルが叫んだ。彼は私と、リアを掴んでいない方のゴーレムとの間に割って入る。暴れだした牛を必死にセリムが宥めていた。

(考えろ……! 魔法学校で習ったことを思い出すんだ……ゴーレムの対処法は……)

 目の魔導メダルが弱点ではあるのだが、狙うには飛び道具かよじ登って叩くしかない。リアが捕まっている状態では私たちだけではそれは難しそうだ。

 ──あとは

「使役者を叩く!」
「……!? ティナ?」
「リアさんアクセルさんカルロスさん! この場を少しだけ、少しだけお願いします! 私を信じて!」
「「わかった!」」

 三人は同時にそう答えた。
 親衛隊のマッチョ二人はゴーレムの足元を体格に似合わぬ素早い動きで動き回り、敵の注意を引きつける。
 もう一体のゴーレムに捕らえられているリアはその体勢のままピューッ! っと口笛を吹いた。すると、どこからともなく猛スピードで現れたシルバーウルフのマクシミリアンが、リアを捕らえているゴーレムに襲いかかる。

 ドォォォッ! っと地面に押し倒されたゴーレム。リアは解放されていないものの、ゴーレムの動きは止まった。今なら二体とも私を見ていない──今しかない!


 私は慎重に二体のゴーレムから伸びている魔力を辿った。
 街道を外れて草むらの中へ……フライパンを構えながら慎重に進む。二本の魔力の糸は同じ場所に繋がっているようだ。恐らくそこに使役者がいる。
 二体のゴーレムを同時に操れるということはかなりの手練だろう。しかし一瞬でもゴーレムから気を逸らすことができたら、再びコントロールを取り戻すまで時間がかかる。その間にリアやアクセルたちがゴーレムの弱点を潰してくれるだろう。

 魔力の反応──かなり近い。本人は魔法を使って姿を巧妙に隠しているようだ。しかし魔力に敏感な私にはそこにいる『使役者』がはっきりと認識できた。

 そして──その魔力には少し見覚えがあった。昔、魔法学校で見せてもらったゴーレムを使役する土属性魔法。──恐らく『彼女』だ。

 なんで彼女が私たちを襲うのか、それは分からないが今は何とかして止めるしかない。
 私は音を立てないように注意しながらこっそり横から接近する。右手でフライパンを振りかぶるがまだ相手はこちらに気づいていないようだ。ゴーレムの操作に集中しているのだろう。

「……ふぅっ!」

 気合いを入れて魔力の集まっているところに左手を伸ばす。左手がなにか紙のようなものに触れたので、それを一気に引き剥がした。左手にあったのはなにやら筆で文字が書かれた紙──東邦の魔導師が好んで使う『御札』というやつだ。
 ということは……。

「ドンピシャですね!」

 御札を剥がされたことによって認識遮断の魔法が解ける。
 そこに立っていたのはまだ年端もいかない少女だった。額に汗を浮かべながらゴーレムを操作しようとしているが──もう一つ大きな問題があった。

「ふぁぁぁっ!?」

 私の存在に気づき、ついでに今の状況を把握した少女が悲鳴を上げる。私も思わず言葉を失った。

 ──その子は一糸まとわぬ姿だったからだ

 肩まで垂れた艶やかな黒髪に少し上気してピンク色に染まっている肌色の身体。身長は私よりも低いかもしれないが、体つきは私よりもメリハリのある身体をしている。茶色っぽい瞳は驚きで見開かれている。

「???」

 当然混乱した。それは向こうも同じだったようだ。

「うぁぁぁぁっ!? た、たすけてぇぇぇっ!!」

 少女がどこからか取り出した札を構えてなにか魔法を使おうとしたので、私は慌てて振りかぶっていたフライパンを振り下ろした。

「いろいろとごめんなさいっ!」

 ゴーン! と間抜けな音がしてフライパンは少女の額にヒットした。

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