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episode1 意地悪な先輩を黙らせろ!
16. 卑劣な策略
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☆ ☆
「結局追い払われちゃいましたね……」
農地を見学していた私たちは、セリムに追い払われ、逃げるようにして城に戻ってきたのだった。
「すまん、冒険者なのにオレらの領地すら自由に歩けないなんて前代未聞だよな?」
「どうでしょう? 誰でも自分の土地に勝手に入られるのは嫌だと思いますけど……」
「ティナは優しすぎだろ……」
(私よりも多分ユリウス様の方が優しいのに……)
城の一室で椅子に腰掛けた私とウーリの間にはなんとも言えない空気が流れていた。
「農業ギルドの奴らは、数少ないヘルマー領に残ってくれた奴らだから、オレたち親衛隊もあまりキツいこと言えないんだよな」
「大変ですね……色々と……」
ユリウスやギルドマスターたちもそうだが、ウーリもウーリで苦労が耐えないようだ。それに比べれば私がミリアムに目をつけられてるのくらい、なんてことはないのかもしれない。
これも領地を立て直せれば解決できること。私が頑張るしかない。
私が決意を新たにしていると、廊下から慌ただしい物音が聞こえてきて、部屋の扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、ウーリの同僚の親衛隊の筋肉マッチョだった。
筋肉マッチョは私とウーリの姿を確認すると、口をわなわなと震わせて何かを言おうとしているようだった。──慌てぶりが尋常ではない。
「あ、あわあわ……」
「落ち着け! なにがあった!?」
ただならぬ気配を察したウーリが問いただすと、筋肉マッチョは数回深呼吸を繰り返してからやっとの思いで口を開いた。
「──た」
「た?」
「大変です!」
「なにがどう大変なんだ!?」
「それは……えっと、あの……市場の食料品が冒険者ギルドに買い占められて……」
「なんだって!?」
ウーリが部屋の壁を揺らすほどの大声で驚いたので、私はその声にびっくりしてしまった。
「冒険者ギルドということは……」
「あぁ、ミリアムの仕業だ……あいつ、きっとティナに食材が行き渡らないように仕組みやがったんだ!」
「えぇっ!?」
今度は私が驚いた。なんと……古典的でかつ効果的な嫌がらせだろう。いくら腕利きの料理人でも食材がないことには料理はできない。ミリアムがあれほど自信たっぷりだった理由がわかった。彼女は戦わずして勝とうとしている。
補給を断ち戦わずに勝つということは、戦においてはこれ以上ないほど理にかなった策略だ。しかし、この場合は市場から食材が消えたことでハイゼンベルクの街全てに迷惑がかかるし、端的に言って頭がおかしいと思う。
(そこまでして私に勝ちたいならもう勝たせてあげていい気がする……あ、でもそしたら私がヘルマー領を出ていかなきゃ行けなくなるのか……弱ったなぁ……)
「なんとかして食材を手に入れる方法は……」
「ギルドマスター共にかけあってみるか……」
私たちが知恵をしぼっていると、ウーリの同僚の筋肉マッチョが言いづらそうに口を開いた。
「あの……農業ギルドと酪農ギルドに尋ねてみたんですがとりあってもらえなくて……」
すると、ウーリはしまったといった表情をしながら膝を叩いた。パーンといういい音がした。そしてそのまま悔しそうに目を伏せるウーリ。
「どうしました?」
「そっかぁ……あのジジイ共、ミリアムのグルか……」
「グル……?」
「あぁ、奴らが手を組んでティナの嫌がらせをしているとみて間違いない。農業ギルドと酪農ギルドが敵方についているとなると、いよいよ食材の調達は厳しくなってきたな……城の倉庫にも余分な食材はないし……」
ウーリと筋肉マッチョは同時に私の方に視線を向けてきた。まるで私なら何か解決策を持っていると期待しているような、そんな雰囲気だ。
(買いかぶりすぎだよ……)
レシピならいくらでも浮かんでくるけれど、こういう時の対処法は私にはイマイチ思い浮かばない。ユリウスにも話したとおり、料理人は魔導士ではないのだから無から有を生み出すことはできないのだ。
(……ん? 魔導士? 無から有?)
「──閃いた」
「え?」
「無から有を生み出す方法、思い浮かびました!」
「本当か!?」
「はい! でもこれはほんとにたまたま思い浮かんだだけで、あまり期待されても私はポンコツですので!」
「何言ってるんだ?」
私はまだ具体的なアイデアを示していないというのに、ウーリ達は私がすでに問題を解決したかのように尊敬の眼差しを向けてきているのでかなりやりづらい。
「えっと……思い浮かんだんですけど私一人の力じゃ無理なので……」
「うん」
「狩猟ギルドのアントニウスさんを呼んでいただけますか? あと──」
「よしきた、待ってろ!」
ウーリともう一人の筋肉マッチョは私の言葉を全て聞かずに部屋から駆け出していってしまった。せっかちだ。
「まあ、いいか……でも、ほんとにこれくらいしか手がないしな。それに……」
(これが上手くいったとしても、私の不利は揺るがないんだよなぁ……)
それでも、一縷の望みをかけて私は足掻くことにした。魔法学校を追放されても冒険者になることを諦めなかった私には、これしきのことで勝負を投げることはどうしてもできなかったのだ。
(諦めるのなんて、私らしくないよね)
そうだ。私らしくない。どんなことがあっても死ぬ気でしがみついて、少ない可能性を必死で追いかけて、いつもなんとか掴んできた。今回だってそうするつもりだ。ミリアムに……負けたくはなかった。領地を出ていくなんて嫌だった。
☆ ☆
ウーリ達はアントニウスを連れて三十分ほどで戻ってきた。
筋骨隆々の親衛隊たちが、筋骨隆々のアントニウスを連れていると、かなり筋肉度合いが高い。ユリウスがいたら喜びそうだ。
「お呼びだてして申し訳ありません!」
立ち上がってアントニウスに頭を下げると、彼は一言「いや」とだけ答えた。セリムやミッターのように私を拒絶してくることはない。──やはりこの人なら。
「あの、狩猟ギルドのマスターであるアントニウスさんにお願いしたいことがあって……」
「なんだ?」
「えっと、市場の食材をミリアムさんや農業ギルド、酪農ギルドが買い占めてしまったらしくて」
「知っている。俺も迷惑している」
「このままじゃ私、食材がなくて料理対決で負けちゃうんです! ──だから」
「だから?」
「──私を狩りに連れて行ってもらえませんか? そして食材をとるのを手伝ってもらえませんか?」
「結局追い払われちゃいましたね……」
農地を見学していた私たちは、セリムに追い払われ、逃げるようにして城に戻ってきたのだった。
「すまん、冒険者なのにオレらの領地すら自由に歩けないなんて前代未聞だよな?」
「どうでしょう? 誰でも自分の土地に勝手に入られるのは嫌だと思いますけど……」
「ティナは優しすぎだろ……」
(私よりも多分ユリウス様の方が優しいのに……)
城の一室で椅子に腰掛けた私とウーリの間にはなんとも言えない空気が流れていた。
「農業ギルドの奴らは、数少ないヘルマー領に残ってくれた奴らだから、オレたち親衛隊もあまりキツいこと言えないんだよな」
「大変ですね……色々と……」
ユリウスやギルドマスターたちもそうだが、ウーリもウーリで苦労が耐えないようだ。それに比べれば私がミリアムに目をつけられてるのくらい、なんてことはないのかもしれない。
これも領地を立て直せれば解決できること。私が頑張るしかない。
私が決意を新たにしていると、廊下から慌ただしい物音が聞こえてきて、部屋の扉が勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、ウーリの同僚の親衛隊の筋肉マッチョだった。
筋肉マッチョは私とウーリの姿を確認すると、口をわなわなと震わせて何かを言おうとしているようだった。──慌てぶりが尋常ではない。
「あ、あわあわ……」
「落ち着け! なにがあった!?」
ただならぬ気配を察したウーリが問いただすと、筋肉マッチョは数回深呼吸を繰り返してからやっとの思いで口を開いた。
「──た」
「た?」
「大変です!」
「なにがどう大変なんだ!?」
「それは……えっと、あの……市場の食料品が冒険者ギルドに買い占められて……」
「なんだって!?」
ウーリが部屋の壁を揺らすほどの大声で驚いたので、私はその声にびっくりしてしまった。
「冒険者ギルドということは……」
「あぁ、ミリアムの仕業だ……あいつ、きっとティナに食材が行き渡らないように仕組みやがったんだ!」
「えぇっ!?」
今度は私が驚いた。なんと……古典的でかつ効果的な嫌がらせだろう。いくら腕利きの料理人でも食材がないことには料理はできない。ミリアムがあれほど自信たっぷりだった理由がわかった。彼女は戦わずして勝とうとしている。
補給を断ち戦わずに勝つということは、戦においてはこれ以上ないほど理にかなった策略だ。しかし、この場合は市場から食材が消えたことでハイゼンベルクの街全てに迷惑がかかるし、端的に言って頭がおかしいと思う。
(そこまでして私に勝ちたいならもう勝たせてあげていい気がする……あ、でもそしたら私がヘルマー領を出ていかなきゃ行けなくなるのか……弱ったなぁ……)
「なんとかして食材を手に入れる方法は……」
「ギルドマスター共にかけあってみるか……」
私たちが知恵をしぼっていると、ウーリの同僚の筋肉マッチョが言いづらそうに口を開いた。
「あの……農業ギルドと酪農ギルドに尋ねてみたんですがとりあってもらえなくて……」
すると、ウーリはしまったといった表情をしながら膝を叩いた。パーンといういい音がした。そしてそのまま悔しそうに目を伏せるウーリ。
「どうしました?」
「そっかぁ……あのジジイ共、ミリアムのグルか……」
「グル……?」
「あぁ、奴らが手を組んでティナの嫌がらせをしているとみて間違いない。農業ギルドと酪農ギルドが敵方についているとなると、いよいよ食材の調達は厳しくなってきたな……城の倉庫にも余分な食材はないし……」
ウーリと筋肉マッチョは同時に私の方に視線を向けてきた。まるで私なら何か解決策を持っていると期待しているような、そんな雰囲気だ。
(買いかぶりすぎだよ……)
レシピならいくらでも浮かんでくるけれど、こういう時の対処法は私にはイマイチ思い浮かばない。ユリウスにも話したとおり、料理人は魔導士ではないのだから無から有を生み出すことはできないのだ。
(……ん? 魔導士? 無から有?)
「──閃いた」
「え?」
「無から有を生み出す方法、思い浮かびました!」
「本当か!?」
「はい! でもこれはほんとにたまたま思い浮かんだだけで、あまり期待されても私はポンコツですので!」
「何言ってるんだ?」
私はまだ具体的なアイデアを示していないというのに、ウーリ達は私がすでに問題を解決したかのように尊敬の眼差しを向けてきているのでかなりやりづらい。
「えっと……思い浮かんだんですけど私一人の力じゃ無理なので……」
「うん」
「狩猟ギルドのアントニウスさんを呼んでいただけますか? あと──」
「よしきた、待ってろ!」
ウーリともう一人の筋肉マッチョは私の言葉を全て聞かずに部屋から駆け出していってしまった。せっかちだ。
「まあ、いいか……でも、ほんとにこれくらいしか手がないしな。それに……」
(これが上手くいったとしても、私の不利は揺るがないんだよなぁ……)
それでも、一縷の望みをかけて私は足掻くことにした。魔法学校を追放されても冒険者になることを諦めなかった私には、これしきのことで勝負を投げることはどうしてもできなかったのだ。
(諦めるのなんて、私らしくないよね)
そうだ。私らしくない。どんなことがあっても死ぬ気でしがみついて、少ない可能性を必死で追いかけて、いつもなんとか掴んできた。今回だってそうするつもりだ。ミリアムに……負けたくはなかった。領地を出ていくなんて嫌だった。
☆ ☆
ウーリ達はアントニウスを連れて三十分ほどで戻ってきた。
筋骨隆々の親衛隊たちが、筋骨隆々のアントニウスを連れていると、かなり筋肉度合いが高い。ユリウスがいたら喜びそうだ。
「お呼びだてして申し訳ありません!」
立ち上がってアントニウスに頭を下げると、彼は一言「いや」とだけ答えた。セリムやミッターのように私を拒絶してくることはない。──やはりこの人なら。
「あの、狩猟ギルドのマスターであるアントニウスさんにお願いしたいことがあって……」
「なんだ?」
「えっと、市場の食材をミリアムさんや農業ギルド、酪農ギルドが買い占めてしまったらしくて」
「知っている。俺も迷惑している」
「このままじゃ私、食材がなくて料理対決で負けちゃうんです! ──だから」
「だから?」
「──私を狩りに連れて行ってもらえませんか? そして食材をとるのを手伝ってもらえませんか?」
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