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仲直り
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私が悩んでいるうちに、ケンカはどんどんヒートアップしていく。
「羚衣優ちゃんをいじめるなんて許せない! 羚衣優ちゃんはそんなことする子じゃないから!」
「タマちゃんをたぶらかすほうがどうかしてると思うよ! タマちゃんも可愛くて純粋無垢なんだから!」
星花中等部には羚衣優の隠れファンも多いが私の隠れ保護者も多いのだ。すぐに野次馬は伊澄側と羚衣優側に分かれて睨み合いを始めた。こうなってしまっては私の力では収拾できそうもない。
でも一番可哀想なのは、無実の罪を着せられて争いの渦中に放り込まれた羚衣優だろう。彼女はひたすらおろおろとしている。羚衣優だけは助けないと!
「……あ、あの皆」
「──ちょっと何やってるんですかっ!」
私の言葉は、誰かの大声によって遮られた。見ると、二年生の茉莉が上級生の人だかりを押しのけて、羚衣優を庇うように立ちはだかった。羚衣優はすかさず彼女の背中に隠れるようにしている。
「あたしの彼女に手を出したら、いくら上級生といえども容赦しませんよ!」
「そいつは隣のクラスのタマちゃんをたぶらかしたのよ。副会長さんも気をつけた方が──」
「あたしの羚衣優せんぱいはそんなことしません! ──怖かったねせんぱい……いくよ?」
「……うん」
「あっ、逃げた」
茉莉は羚衣優の手を引きながら再び人だかりをかき分けてその場を後にする。皆それを呆然と見ているしかなかった。なによりも、上級生に対して物怖じせずに毅然と言い返す姿はとてもかっこよくて……もし私が羚衣優の立場だったら惚れてしまいそうだと思った。
なるほど、やっぱりあの二人はお似合いのカップルで、私たちが間に入れる関係じゃない。きっと、遺伝子レベルの絆で結ばれているのだろう。
すごく羨ましい。……とてもすごく、羨ましい。
「……タマちゃん」
私の存在に気づいた伊澄が声をかけてくるが、今この場で彼女と話をするとまた感情を爆発させてしまいそうだったので、私も走ってその場を後にしたのだった。
生徒会室にたどり着くと、案の定茉莉と羚衣優がいて、それに加えて会長の絢愛、三年生副会長の沙樹、二年生書記の杏咲、そして次期会計候補の優芽花に、一年生の熊坂蘭菜と高江洲花音の二人。──中等部生徒会メンバーが勢揃いしていた。
でも、そのうちの何人かは涙ぐむ羚衣優に心配そうに声をかけていて、私が入ってくるなり「羚衣優ちゃんを泣かせたのはあなたでしょう?」みたいな非難の視線を送ってきた。
「タマちゃんせんぱい。これはどういうことなのか、説明していただけますか?」
「え、えっと……タマにも何が起きてるのか……」
「なんで羚衣優せんぱいがこんな目に遭わなきゃいけないんですか? あんなに酷いこと言われなきゃいけないんですか? タマちゃんせんぱいのせいじゃないんですか?」
「た、タマは……」
本当に私は何も知らない。なぜ伊澄がああいう結論に達して暴走してしまったのか。なぜそれがあんなに大事になってしまったのか。
ああ、でも私がつまらない意地を張って伊澄とケンカしなければ……もう少しコミュニケーションが取れていたら、起こりえなかった事態なのかもしれない。
つまりはこれも全部私が悪い。
「……ご、ごめんなさい。こんなことになるなんて思わなくてタマは……ただ、皆にもっと大人として扱ってほしかっただけで、変な意地張っちゃって」
「別にあたしもタマちゃんせんぱいだけ責めるのはどうかと思ってますけど、でも、大切な羚衣優せんぱいが傷ついたのに、その怒りを誰にぶつけたらいいか分からなくて……あたしの方こそごめんなさい」
私が素直に謝ると、茉莉も居心地悪そうに頭を下げた。
「ま、まあいいじゃないわたしもそんなに気にしてないしっ!」
珍しくフォローする側になっている羚衣優だったが、そんな一件落着ムードに待ったをかける者がいた。
「でも、そういう問題じゃないんですよ!」
バンッ! と机を叩いて立ち上がったのは、二年生の鏑木 杏咲。茉莉のライバルで次期副会長候補でもある彼女は、最近やたらと茉莉の意見に口を出すようになった。
「文化祭を前にして、生徒会がギクシャクしてる。これが問題じゃないですか! タマちゃん先輩と会長さんもまだ仲直りしてないんですよね?」
「うん、まあそうだけど……」
私はチラッと絢愛の方に視線を送ろうとして、目が合いそうになってやめた。向こうも反射的に目を逸らしたようだ。やっぱり、すぐに仲直りとはいかないみたいだった。
「いつまでそんな子どもみたいにケンカしてるつもりですか! こんなんじゃ生徒会の雰囲気もどんどん悪くなるし、文化祭もきっと楽しくなくなりますよ!」
「そう、じゃああずにゃんはどうしたらいいと思う?」
「どうしたらって……私バカだからよく分かりませんけど、とにかく今のままじゃダメです! 私たちが楽しくないと星花の皆を楽しませることなんてできないた思います! さらに言えば、楽しくない文化祭なんてやっても意味ないと思います!」
「そう言われてもね……」
上級生に対して熱弁を振るう杏咲に、さしもの絢愛もたじろいだ。杏咲の言葉は直情的で付け焼き刃のものだったけれど、その勢いに押されて私も茉莉も羚衣優も優芽花も、沙樹でさえも、なにも口を挟めなかった。
「……ごめんなさい。ちょっと頭冷やしてきます。──行こう、たかえす」
「えっ、私もですかっ?」
杏咲は空気に耐えきれずに、一年生の高江洲花音を拉致して足早に生徒会室を去っていった。後にはただただ葬式のような重苦しい空気だけが残された。
皆、杏咲の言いたいことは嫌というほどわかっていた。
私が一番悪いかもしれないけれど、誰もそれを問答無用で責めることはしない。自分も悪いと思っているのだろうか。
「──あずにゃんの言うとおりですよ。このままじゃあ生徒会は空中分解します。これは、次期会長であるあたしの力不足です。ごめんなさい」
「そんなことないよ。今の会長は私なんだから、私がしっかりしていれば……!」
「タマが……タマがもっと大人になっていたら……結局タマは子供っぽくゴネてただけなのに……」
茉莉と絢愛が揃って項垂れたところで、私はやっと声を上げることができた。自分が悪いのに他の人がネガティブになるのはおかしいと思ったから。
「たまきん……」
「ごめん絢愛……」
やっと、私と絢愛は目を合わせることができた。久しぶりに直視した絢愛の顔はなんだかとても懐かしく感じて、まるで実家に帰ってきたような安心感を覚えた。そして、かなりの罪悪感が押し寄せてきたのも事実だった。
「私、生徒会の皆にどう接したらいいのか分からなくなって……正直疑心暗鬼になってたのよね……」
「そうだね。皆、文化祭が目の前に迫っていて余裕を失っていた。タマちゃんも羚衣優も、づきちゃんも……あやめちゃん、キミもだ。あずにゃんはそれを気づかせてくれたんだよ」
「さきりん……」
頼れる副会長の沙樹がすかさずフォローに入って絢愛の頭を撫でる。絢愛は今日も大人しく沙樹に甘えている。
周りよりしっかりしてはいるかもしれないけれど、私たちは所詮中学生なのだ。分からないことも多いし、気持ちを上手く他人に伝えられないことも多い。こうやってぶつかることも多いし、その分仲直りも早い。
「タマちゃん。僕はタマちゃんが無理して大人になる必要は無いよ。なぜならあやめちゃんも、僕も、タマちゃんも、まだ中学生の子どもなのは事実だから。──大人って、意識してなるものじゃなくて、気づいたらなっているものだって僕は思うね」
「気づいたらなっているもの……」
「うん、だから気にする必要はない。そのうち、大人になったら子どもっぽかった自分を羨ましく思える日も来るんじゃないかな?」
何故だろうか。沙樹の言葉は妙にすんなりと私の心の中に入ってきた。夕陽が射し込む生徒会室で、いつものようにミステリアスな笑みを浮かべる沙樹は、いつも以上に妖しげなオーラを放っていたが、さっきその場を治められたのは彼女をおいて他にはいなかっただろう。
ボーイッシュな副会長は、勇気づけるようにポンポンと私や茉莉の背中に触れると、流れるようなアルトボイスでこう口にした。
「さあみんな、あずにゃんを迎えに行こうじゃないか」
「羚衣優ちゃんをいじめるなんて許せない! 羚衣優ちゃんはそんなことする子じゃないから!」
「タマちゃんをたぶらかすほうがどうかしてると思うよ! タマちゃんも可愛くて純粋無垢なんだから!」
星花中等部には羚衣優の隠れファンも多いが私の隠れ保護者も多いのだ。すぐに野次馬は伊澄側と羚衣優側に分かれて睨み合いを始めた。こうなってしまっては私の力では収拾できそうもない。
でも一番可哀想なのは、無実の罪を着せられて争いの渦中に放り込まれた羚衣優だろう。彼女はひたすらおろおろとしている。羚衣優だけは助けないと!
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「──ちょっと何やってるんですかっ!」
私の言葉は、誰かの大声によって遮られた。見ると、二年生の茉莉が上級生の人だかりを押しのけて、羚衣優を庇うように立ちはだかった。羚衣優はすかさず彼女の背中に隠れるようにしている。
「あたしの彼女に手を出したら、いくら上級生といえども容赦しませんよ!」
「そいつは隣のクラスのタマちゃんをたぶらかしたのよ。副会長さんも気をつけた方が──」
「あたしの羚衣優せんぱいはそんなことしません! ──怖かったねせんぱい……いくよ?」
「……うん」
「あっ、逃げた」
茉莉は羚衣優の手を引きながら再び人だかりをかき分けてその場を後にする。皆それを呆然と見ているしかなかった。なによりも、上級生に対して物怖じせずに毅然と言い返す姿はとてもかっこよくて……もし私が羚衣優の立場だったら惚れてしまいそうだと思った。
なるほど、やっぱりあの二人はお似合いのカップルで、私たちが間に入れる関係じゃない。きっと、遺伝子レベルの絆で結ばれているのだろう。
すごく羨ましい。……とてもすごく、羨ましい。
「……タマちゃん」
私の存在に気づいた伊澄が声をかけてくるが、今この場で彼女と話をするとまた感情を爆発させてしまいそうだったので、私も走ってその場を後にしたのだった。
生徒会室にたどり着くと、案の定茉莉と羚衣優がいて、それに加えて会長の絢愛、三年生副会長の沙樹、二年生書記の杏咲、そして次期会計候補の優芽花に、一年生の熊坂蘭菜と高江洲花音の二人。──中等部生徒会メンバーが勢揃いしていた。
でも、そのうちの何人かは涙ぐむ羚衣優に心配そうに声をかけていて、私が入ってくるなり「羚衣優ちゃんを泣かせたのはあなたでしょう?」みたいな非難の視線を送ってきた。
「タマちゃんせんぱい。これはどういうことなのか、説明していただけますか?」
「え、えっと……タマにも何が起きてるのか……」
「なんで羚衣優せんぱいがこんな目に遭わなきゃいけないんですか? あんなに酷いこと言われなきゃいけないんですか? タマちゃんせんぱいのせいじゃないんですか?」
「た、タマは……」
本当に私は何も知らない。なぜ伊澄がああいう結論に達して暴走してしまったのか。なぜそれがあんなに大事になってしまったのか。
ああ、でも私がつまらない意地を張って伊澄とケンカしなければ……もう少しコミュニケーションが取れていたら、起こりえなかった事態なのかもしれない。
つまりはこれも全部私が悪い。
「……ご、ごめんなさい。こんなことになるなんて思わなくてタマは……ただ、皆にもっと大人として扱ってほしかっただけで、変な意地張っちゃって」
「別にあたしもタマちゃんせんぱいだけ責めるのはどうかと思ってますけど、でも、大切な羚衣優せんぱいが傷ついたのに、その怒りを誰にぶつけたらいいか分からなくて……あたしの方こそごめんなさい」
私が素直に謝ると、茉莉も居心地悪そうに頭を下げた。
「ま、まあいいじゃないわたしもそんなに気にしてないしっ!」
珍しくフォローする側になっている羚衣優だったが、そんな一件落着ムードに待ったをかける者がいた。
「でも、そういう問題じゃないんですよ!」
バンッ! と机を叩いて立ち上がったのは、二年生の鏑木 杏咲。茉莉のライバルで次期副会長候補でもある彼女は、最近やたらと茉莉の意見に口を出すようになった。
「文化祭を前にして、生徒会がギクシャクしてる。これが問題じゃないですか! タマちゃん先輩と会長さんもまだ仲直りしてないんですよね?」
「うん、まあそうだけど……」
私はチラッと絢愛の方に視線を送ろうとして、目が合いそうになってやめた。向こうも反射的に目を逸らしたようだ。やっぱり、すぐに仲直りとはいかないみたいだった。
「いつまでそんな子どもみたいにケンカしてるつもりですか! こんなんじゃ生徒会の雰囲気もどんどん悪くなるし、文化祭もきっと楽しくなくなりますよ!」
「そう、じゃああずにゃんはどうしたらいいと思う?」
「どうしたらって……私バカだからよく分かりませんけど、とにかく今のままじゃダメです! 私たちが楽しくないと星花の皆を楽しませることなんてできないた思います! さらに言えば、楽しくない文化祭なんてやっても意味ないと思います!」
「そう言われてもね……」
上級生に対して熱弁を振るう杏咲に、さしもの絢愛もたじろいだ。杏咲の言葉は直情的で付け焼き刃のものだったけれど、その勢いに押されて私も茉莉も羚衣優も優芽花も、沙樹でさえも、なにも口を挟めなかった。
「……ごめんなさい。ちょっと頭冷やしてきます。──行こう、たかえす」
「えっ、私もですかっ?」
杏咲は空気に耐えきれずに、一年生の高江洲花音を拉致して足早に生徒会室を去っていった。後にはただただ葬式のような重苦しい空気だけが残された。
皆、杏咲の言いたいことは嫌というほどわかっていた。
私が一番悪いかもしれないけれど、誰もそれを問答無用で責めることはしない。自分も悪いと思っているのだろうか。
「──あずにゃんの言うとおりですよ。このままじゃあ生徒会は空中分解します。これは、次期会長であるあたしの力不足です。ごめんなさい」
「そんなことないよ。今の会長は私なんだから、私がしっかりしていれば……!」
「タマが……タマがもっと大人になっていたら……結局タマは子供っぽくゴネてただけなのに……」
茉莉と絢愛が揃って項垂れたところで、私はやっと声を上げることができた。自分が悪いのに他の人がネガティブになるのはおかしいと思ったから。
「たまきん……」
「ごめん絢愛……」
やっと、私と絢愛は目を合わせることができた。久しぶりに直視した絢愛の顔はなんだかとても懐かしく感じて、まるで実家に帰ってきたような安心感を覚えた。そして、かなりの罪悪感が押し寄せてきたのも事実だった。
「私、生徒会の皆にどう接したらいいのか分からなくなって……正直疑心暗鬼になってたのよね……」
「そうだね。皆、文化祭が目の前に迫っていて余裕を失っていた。タマちゃんも羚衣優も、づきちゃんも……あやめちゃん、キミもだ。あずにゃんはそれを気づかせてくれたんだよ」
「さきりん……」
頼れる副会長の沙樹がすかさずフォローに入って絢愛の頭を撫でる。絢愛は今日も大人しく沙樹に甘えている。
周りよりしっかりしてはいるかもしれないけれど、私たちは所詮中学生なのだ。分からないことも多いし、気持ちを上手く他人に伝えられないことも多い。こうやってぶつかることも多いし、その分仲直りも早い。
「タマちゃん。僕はタマちゃんが無理して大人になる必要は無いよ。なぜならあやめちゃんも、僕も、タマちゃんも、まだ中学生の子どもなのは事実だから。──大人って、意識してなるものじゃなくて、気づいたらなっているものだって僕は思うね」
「気づいたらなっているもの……」
「うん、だから気にする必要はない。そのうち、大人になったら子どもっぽかった自分を羨ましく思える日も来るんじゃないかな?」
何故だろうか。沙樹の言葉は妙にすんなりと私の心の中に入ってきた。夕陽が射し込む生徒会室で、いつものようにミステリアスな笑みを浮かべる沙樹は、いつも以上に妖しげなオーラを放っていたが、さっきその場を治められたのは彼女をおいて他にはいなかっただろう。
ボーイッシュな副会長は、勇気づけるようにポンポンと私や茉莉の背中に触れると、流れるようなアルトボイスでこう口にした。
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