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20話
しおりを挟む「ぅえ…っ」
コルセットというものは初めて聞いたし、初めて着用したが、もう一生着けることはないだろう。いや、絶対に無い!
そう思える程、ぎゅうぎゅうに締められた腹部が苦しかったが、その上からドレスを着れば、本当に誰だか分からない程の変貌を遂げた少女が鏡の中にはいたのだった。
「チヨ様…本当にお綺麗ですわ…」
エマとモニカは殆ど涙ぐんでおり、増員侍女は非常に満足そうである。
「ふう…やりきりましたわ…!」
「素晴らしいですわ!!チヨ様の美しさを余すことなく皆さまにお披露目出来ますのね!」
…この侍女は何を恐ろしいことを言っているのだろうか。
美しくも無ければ、披露する気もチヨには全く無いのだ。
「これなら陛下も…あるいは!」
「いぃいえぇ!ルーカス様だって!」
?????
この人達は何を言っているのか、いよいよ分からなくなってきたが、エマとモニカは生暖かい目で見守っている。
「…さぁ、おしゃべりはそのへんにしてヘアセットに参りましょう!」
…このあとにもまた何かあるんですか?
チヨは思わず遠くを見つめるが侍女は気付かないのかスルーしたのか、そのまま作業を進め続ける。
結局、髪型は「ああでもない、こうでもない」と協議された結果、緩いシニヨンになったのだった。
———————
エスコートはルーカス様がして下さるそうですよ、とモニカは言いニコニコしながら側に控えていた。
程なくしてノックの音が部屋に響く。
入室の許可をすると、正装をしたルーカスが入ってきた。
「——失礼致します」
ルーカスがそっとチヨを覗き見る。
その途端に真っ赤になり「素敵です」とか「美しいです」とかぶつぶつ言っていた。
「え?なんですか?」
「あっ!あ、いえ、なんでも…あの…良くお似合いです…」
意外と初心である。
この見た目なので、経験豊富だと勝手に判断していたがそうでもないのだろうか。
しかし、その言葉に嘘はなく、手放しで褒めてくれているのが伝わるのでとても嬉しい。
「あ、ありがとうございます…」
モニカがニマニマとしているのが気になる。
「…特訓の成果を見せる時が来たようです」
「まだまだ不安なんですが…頑張ります」
ルーカスは笑顔で頷くと、手を差し出す。
「それでは…チヨ様。参りましょう」
「…はい」
緊張し過ぎて震えそうだ。
しかし、その手をルーカスがギュッと握ってくれた。
その行動に心強さを感じ、チヨは会場への1歩を踏み出した。
————————
チヨとルーカスが入場したとき、会場が水を打ったように静かになる。
全員の視線が集中していることが分かる。
こんなに注目されたことは未だかつてない。
祝言のときが最高人数だっただろう。
身体が強張るのを感じ取ってルーカスが小声で声をかけてくる。
「大丈夫ですよ。こんなに美しのですから…私を見て!くらい思って堂々としていたら良いのです」
「ふっ、なんですかそれ…」
こんなこと言う人には見えなかったので意外だ。
今日はルーカスの発見が多くあるな、と感じたとき。
大広間に良く通る声が響き渡った。
「皆で聖女を見つめては萎縮してしまうのではないか?せっかくこうして帰ってくることが出来たのだから私にも注目してはくれなちだろうか?」
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