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「ふぅ…」


思わず溜息をついてしまうチヨ。
もう何十年も変化のない毎日を過ごしてきたのだ。ここ最近のイベントといえば、ひ孫が産まれたこと、夫が逝ってしまったことだ。
この1日に今まで無かった刺激や変化が凝縮されている…楽しいなどと思える心はチヨには無く、身も心も疲れて当然なのである。

その様子を見て、エマが声をかける。


「チヨ様、湯あみの準備も出来ておりますが…一度お茶に致しましょう」


そう言うと、2人はテキパキと用意をしてくれる。


「どうぞ、こちらにお座り下さい」

「ありがとう」

「失礼致します」

そう言ってカップに注がれたのは薄い緑色の液体。
漂ってくるのはハーブの香り。


(そうか…緑茶ではないのね…)


紅茶も飲めないことはないが、頻度としてはやはり少ない。
しかし、休む直前ということに配慮されて緑茶ではないのかもしれない。


「いただきます」


口に広がる香りと温かさがチヨの身体をゆるめてくれる。


「おいしい…」

「ありがとうございます」


モニカが嬉しそうに微笑む。
エマはほっとした表現だ。


「お口に合いましたようで何よりでございます」

「とてもいい香りがするのね」

「はい、リラックス効果のあるものをいくつか合わせました」

「そうなのね…あの、1つ聞きたいのだけれど…いいかしら」

「なんなりとお聞き下さい」

「こちらには緑茶というものはある?」

「リョクチャ…でございますか?」


チヨの質問に答えていたエマだが、ちらりとモニカを見る。
モニカが小さく横に首を振った。


「どのようなものでしょうか?」

「お茶なのだけど、緑色で……えー、なんというか…」


説明が難しい。
緑色のお茶ならば他にもあるかもしれない。が、チヨが欲しいのは日本茶なのだ。


「日本茶、とも言うかもしれないのだけれど…」

「申し訳ございません。聞いたことはございません」

「ですが、こちらで扱っていないだけで貿易商などを探せば見つかるかもしれません。手配しますのでお時間を頂けますでしょうか?」

「あ、いえ!いいのよ!無いのなら大丈夫…何かの拍子に見つかったら教えてほしいだけ」


思ったより人が動きそうで困ってしまう。
申し出はありがたいが探すまではしなくてもいいのだ。
あったら飲みたかったなぁというだけで。


「ですが…」

「本当に。変なこと聞いてごめんなさい、ありがとう」

「…いいえ、とんでもございません」


エマは食い下がろうとしていたようだが、チヨの瞳を見て諦めたように笑って答えた。


「それじゃあお風呂…行ってもいい?」


こちら…ルゥナ帝国に落ちて来る前に寝る準備をしていたので、お風呂には入っていたのだが色々あったため身体を解したかった。
ハーブティーである程度はリラックス出来たとはいえ、眠れるかといえば変に目が覚めてしまい、到底寝付けそうには無かったのだ。


「ご案内致します」


そうして広い部屋を移動していくと姿見が目に入る。
そういえば若返っているのだ…たぶん。


「チヨ様?」

「あ、あの、鏡を見てもいいかしら?」

そう言ってチヨは早足で近づくと、ドキドキしながら覗き込んだ。
そしてそこには————若かりしき頃のチヨがいた。
何十年も前に過ぎ去った少女時代、花の盛りだったあのときのままである。


「え…?本当に?いや、嘘でしょう…」


側から見たらとんだナルシストであるように見えるだろう。
それくらいチヨは鏡に釘付けだった。
顔をペタペタと触り、確認し、髪を持ち上げ、皺の無くなり、すらりと伸びた手足でくるくると回ってみる。
思うように動かなくなっていた身体はまるで羽がついているのではないかと思うほどだった。
年齢的には18くらいだろうか?


「すごい…えー、ほんとすごい…」


何故このようになったか仕組みは全く、これっぽっちも分からないが、やはり嬉しい。
…決しておばあちゃんの身体が嫌だったわけではない、ということを言っておきたい。
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