龍の花嫁

アマネ

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カナタ

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その表情を見た女は憑物が落ちたような気持ちになった。

カヤにずっと仕えていたかった。
花嫁になるところも見たかった。
ずっと笑顔でいて欲しかった。

しかし、それはもう無理なのだ。
この少女が来なけれ訪れたかもしれない未来だが、叶わなかったことを言っていても仕方がない。

カヤが変わってしまった原因は確かにこの少女かもしれないが、それで少女を責めるのは違う。
それまでは悲しみや怒りが感情の大部分を占めていた。
しかし、少女の話を聞き、冷静になりそう思ったのだ。

この人を好きになれ!愛せ!なんていうのは難しい話で、好きになった人と想い会いたいというのは当然の思考ではないか。

自分が同じ立場なら、と考えたら自然にそう思えた。


だから。


「…いいんですか?」

「え…」

「だから…いいんですか?また…側でお世話しても」


その言葉を告げた瞬間、少女の瞳が輝いた。
暗かった表情が一転して明るいものになる。


「…はいっ!!!」


少女の笑った顔は可愛らしく、女は自分がこの子のことをドン底に落としたのだと初めて申し訳ない気持ちになった。


「……申し訳、ありませんでした」


深々と頭を下げる女に少女は頭を上げるように言った。


「もう、いいんです。だってこうして無事なんで!」


笑顔で言った少女に、女は泣きたくなったが少女はそのまま言葉を繋げた。


「それより…お名前教えて下さい!」


あの事件より、謝罪より自分の名前の方が気になるのかと思うと、少女には誰も敵わないなと女は思ったのだった。



————————



彼女はカナタといった。
その様子を見ていたヒスイは少し考えてから大きく溜息を吐き、持っていた鍵でカナタの部屋を開ける。


「…部屋はまだそのままにしてある。今日は休んで明日からまた仕事だ」

「はい、ありがとうございます」


行っていい、と言うと最後にもう一度だけ頭を下げてカナタは階段を上っていった。


「…ハルカ」

「ごめんなさい…」


呆れたような咎めるようなヒスイの声にハルカは素直に謝った。
何の相談も無しにあんなことを言ったのだから当然だろう。
特にヒスイはハルカのこととなると過保護気味というか心配性になるのだ。


「ハルカのそういうところは美点だけど…それでも心配なんだよ」

「うん」

「…分かってる?本当に?」

「たぶん…」


本当にと聞かれると言い切れないのがハルカである。
しかしヒスイはまた大きく息を吐き、笑った。


「まぁ俺が側にいるし、今度は絶対守るからいいんだけどさ」


その言葉にハルカはこの人を選んで良かったと改めて思った。

ハルカは思わずギュッとヒスイに抱きつく。
そして慌てているヒスイの頬にキスを落とす。

わあわあ言っていたが、キスをされると固まり、真っ赤になったヒスイにハルカは「こちらが攻めると弱い人なのかも」と思い、笑った。

明日からはまた新しく、楽しい毎日が始まるのだ。
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