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第1章

⑫【※】

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 ベッドサイドにあるテーブルの引き出しから、亜玲が小さな容器を取り出したのがわかった。

 そして、なんのためらいもなくその容器のふたを開けて、中身を指に垂らす。ぬるりとした液体が、亜玲の指を濡らしていた。

「……じゃ、ちょっと力抜いてね」

 亜玲がそう言って、その濡れた自身の指を俺の後孔に挿しこんでくる。

「ぁっ」

 自然と喉が鳴る。

 身体がびくんと跳ねて、亜玲の指を自然と追い出そうとしてしまった。

 けれど、亜玲は容赦がなかった。液体でぬるついた指を、奥へ、奥へと押し込んでいく。

「あ、れい……やめろ……」

 身体の奥底がきゅんきゅんとして、亜玲の指を締め付けているのがわかってしまう。

 でも、それを認めたくない。

 ぶんぶんと首を横に振って、亜玲の手から逃れようとする。なのに、亜玲は手を止めてはくれない。

「ほら、力抜いて。……力入れると、傷つけちゃうかもだから」

 普段通りの柔らかい声音だった。

 奴の声はさも当然のことをしているとでも言いたげだった。

(こういうの、身体だけの関係って言うんだよな……)

 抱いて、抱かれて。

 かといって、そこに愛情はない。ただの性欲処理とでも言えばいいのだろうか。

 亜玲からすれば、長年側にいた幼馴染を抱くというのは、どういう感じなのだろうか。

 ……そんなこと、俺が想像したところでわからないだろうに。

「ひぃっ」

 そんなことを考えている間にも、亜玲の指が俺の身体の中でうごめいている。

 ぬちゃぬちゃと音を立てて、俺の身体を暴いていた。

 ……羞恥心なんてとっくに飛び越えて、おかしくなってしまいそうだった。

「……祈、怖いの?」

 亜玲がそう問いかけてくる。

 ……怖い……のは、認める。だって、未知の体験なのだ。

 自分がオメガである以上、抱かれる側であるということは薄々感じていた。

 けどさ、いきなりこんなことになって狼狽えないわけがない。

「だ、れがっ!」

 ただ、亜玲には素直に「怖い」と言えなかった。

 怖くない。恐ろしくもない。だから、俺はお前には屈しない。

 振り向いて、亜玲を睨みつけようとした。

 ……亜玲の目を見た瞬間、背筋が凍った。

「……あ、れい」

 亜玲の目が、完全に雄だった。

 獲物を見つけて、捕食しようとしている肉食獣か。または、確実に孕ませると決めた雄なのか。

 そんな風に、見えてしまう。……自分の気持ちとは裏腹に、腹の奥が疼く。

「可愛いね。……本当は怖い癖に、認めないなんて」

 そう呟いた亜玲が、舌なめずりをする。

 その仕草の艶っぽさとかで、俺は亜玲から視線を逸らせない。

 惹きつけられたように亜玲を見つめ続けていれば、亜玲が目を細めて笑った。

「なに? 俺に孕まされたくなった?」

 直球の問いかけだった。慌てて顔を背けて、そんなわけがないと態度で伝える。

 そうだ。違う。腹の奥が疼いていても、本能が亜玲というアルファを求めていたとしても。

 俺は、亜玲にだけは犯されたくない。孕まされたくない。間違いなく、そう思っている。

「けど、ナカはひくひくしてるよ。……口ではなんとでも言えるのに、身体は素直に教えてくれるんだよ」

 亜玲が、指を思いきり曲げた。そのとき、目の前がちかちかとした。

 今までに感じたことのない快感で、自然とベッドのシーツを握りしめる。

「祈、可愛いね。……孕ませたいって、俺は本気で思っているから」

 亜玲が俺に覆いかぶさってきたことから、背中越しに伝わる体温。

 奴の手は、指は。絶え間なく動いている。俺のナカを拡げるようにうごめいていて、俺の身体を作り替えていく。

「大丈夫だよ、怖くない、怖くない」

 まるで幼子をあやすかのような口調に、腹を立てることさえできなかった。

 喉が鳴って、手でシーツを掻くことしか出来ない。

 身体ががくがくと揺れて、びくびくと震えてしまう。……あぁ、もう、ダメだ。

「……あ、れい」

 名前を呼んだ。俺が見た亜玲は、笑っていた。
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