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第3章
一番の味方 2
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先輩のその言葉は、とても嬉しい言葉だった……はず、なのに。
なんだか、胸騒ぎがするみたいな。そんな感覚に、襲われる。
先輩は俺にとって一番信頼できる人で、一番尊敬している人のはずなのに。
「……えぇ、ありがとう、ございます」
返事をした俺の声は、震えていた。視線を彷徨わせながら、先輩から逃げるみたいに足を引いた。
「フリント君?」
「い、いや、なんでもないです。ちょっと、顔、洗ってきますね」
それっぽい理由をでっちあげて、俺は先輩の側から早足で離れる。先輩は、追ってはこなかった。
(……なんだろ。本当、先輩の様子がおかしい気がする……)
それは別に、確証があるとか、確信があるとか。そういうことじゃない。ただ、俺の中の勘が騒いでいるというか。
「もしかして、なにか悟られた、とか……?」
先輩は勘が鋭い。もしかしたら、俺とジェム、クォーツの関係を悟ったとか。
そんな想像をしたものの、それはないなと思い直す。そんなことがあったら、もういたたまれない。だって、職場の人に知られるほど、嫌なことってないじゃんか……。
洗面所で、鏡に映った自分自身を見つめる。……おかしなところは、ない。表情も顔色もいつも通り。大丈夫。大丈夫……。
(っていうか、先輩のこともだけれど、帰ってクォーツと顔を合わせるのも、なんだかなぁ……)
そう思ったら、自然とへたり込んでしまう。
今日、問題多くない? 朝からクォーツとほぼ一方的な言い争いをして、先輩を疑って。
と思ったけれど、これは全部俺の所為だ。先輩にも、クォーツにも。きちんと謝ろう。二人とも、俺のことを思ってくれていたんだから。
「よし、きちんと謝ろう――」
そう思って、立ち上がった俺は洗面所を出る。瞬間、誰かに手首を引っ張られた。驚いてそちらに視線を向けると、そこには――イアンがいた。
「イアン?」
きょとんとしつつイアンの名前を呼ぶと、彼は気まずそうに視線を逸らす。かと思えば、勢いよく頭を下げた。
「すみませんでした、先輩!」
「……は?」
いきなりの行動に驚いて、俺の口から素っ頓狂な声が零れた。
目をぱちぱちと瞬かせていれば、イアンは頭を下げたまま言葉を口にする。
「その、多分、先輩が倒れたのって……その、僕の所為、だと思うんです」
「……どういうこと?」
自分でも驚くほどに冷たい声が零れた。俺が倒れた原因がイアンにあるっていうことは……つまり、薬を盛ったのはイアンだっていうことなのか?
「僕、その……先輩に、休んでほしかったんです」
けれど、意味がわからなかった。だって、そうじゃないか。興奮剤の類を盛っておいて、休んでほしいなんてありえない。
「先輩、忙しそうだったし。それに……ちょっとだけでいい。僕を頼ってくれたらって、思って……」
……なんだろうか。イアンの言葉の意味が、俺の中でイマイチぴんと来ない。
(これ、なんか勘違いしてるんじゃないか……?)
そう思って、イアンの目を見つめる。イアンの目は、潤んでいた。
「なぁ、イアン。あのとき、俺になにをしたんだ?」
彼の目を見つめて、そう問いかける。すると、イアンがぐっと唇を噛んだ。けれど、すぐに意を決したように口を開いた。
「……知り合いから、もらった薬を盛りました」
「知り合い?」
「はい」
確かに俺はあのときイアンが差し出してきたお茶を口にした。……あそこに、薬が入っていたのか。
「その、少し体調が悪くなる薬だって、言われて……」
しどろもどろになりつつ、イアンがそう教えてくれる。……体調が悪くなる薬。
(興奮剤だって、知らなかったのか……?)
そう考えれば、イアンのその『知り合い』とやらが怪しく思える。が、イアンの言葉を完全に信じることが出来るかどうか。
そこが一番の問題だろう。
なんだか、胸騒ぎがするみたいな。そんな感覚に、襲われる。
先輩は俺にとって一番信頼できる人で、一番尊敬している人のはずなのに。
「……えぇ、ありがとう、ございます」
返事をした俺の声は、震えていた。視線を彷徨わせながら、先輩から逃げるみたいに足を引いた。
「フリント君?」
「い、いや、なんでもないです。ちょっと、顔、洗ってきますね」
それっぽい理由をでっちあげて、俺は先輩の側から早足で離れる。先輩は、追ってはこなかった。
(……なんだろ。本当、先輩の様子がおかしい気がする……)
それは別に、確証があるとか、確信があるとか。そういうことじゃない。ただ、俺の中の勘が騒いでいるというか。
「もしかして、なにか悟られた、とか……?」
先輩は勘が鋭い。もしかしたら、俺とジェム、クォーツの関係を悟ったとか。
そんな想像をしたものの、それはないなと思い直す。そんなことがあったら、もういたたまれない。だって、職場の人に知られるほど、嫌なことってないじゃんか……。
洗面所で、鏡に映った自分自身を見つめる。……おかしなところは、ない。表情も顔色もいつも通り。大丈夫。大丈夫……。
(っていうか、先輩のこともだけれど、帰ってクォーツと顔を合わせるのも、なんだかなぁ……)
そう思ったら、自然とへたり込んでしまう。
今日、問題多くない? 朝からクォーツとほぼ一方的な言い争いをして、先輩を疑って。
と思ったけれど、これは全部俺の所為だ。先輩にも、クォーツにも。きちんと謝ろう。二人とも、俺のことを思ってくれていたんだから。
「よし、きちんと謝ろう――」
そう思って、立ち上がった俺は洗面所を出る。瞬間、誰かに手首を引っ張られた。驚いてそちらに視線を向けると、そこには――イアンがいた。
「イアン?」
きょとんとしつつイアンの名前を呼ぶと、彼は気まずそうに視線を逸らす。かと思えば、勢いよく頭を下げた。
「すみませんでした、先輩!」
「……は?」
いきなりの行動に驚いて、俺の口から素っ頓狂な声が零れた。
目をぱちぱちと瞬かせていれば、イアンは頭を下げたまま言葉を口にする。
「その、多分、先輩が倒れたのって……その、僕の所為、だと思うんです」
「……どういうこと?」
自分でも驚くほどに冷たい声が零れた。俺が倒れた原因がイアンにあるっていうことは……つまり、薬を盛ったのはイアンだっていうことなのか?
「僕、その……先輩に、休んでほしかったんです」
けれど、意味がわからなかった。だって、そうじゃないか。興奮剤の類を盛っておいて、休んでほしいなんてありえない。
「先輩、忙しそうだったし。それに……ちょっとだけでいい。僕を頼ってくれたらって、思って……」
……なんだろうか。イアンの言葉の意味が、俺の中でイマイチぴんと来ない。
(これ、なんか勘違いしてるんじゃないか……?)
そう思って、イアンの目を見つめる。イアンの目は、潤んでいた。
「なぁ、イアン。あのとき、俺になにをしたんだ?」
彼の目を見つめて、そう問いかける。すると、イアンがぐっと唇を噛んだ。けれど、すぐに意を決したように口を開いた。
「……知り合いから、もらった薬を盛りました」
「知り合い?」
「はい」
確かに俺はあのときイアンが差し出してきたお茶を口にした。……あそこに、薬が入っていたのか。
「その、少し体調が悪くなる薬だって、言われて……」
しどろもどろになりつつ、イアンがそう教えてくれる。……体調が悪くなる薬。
(興奮剤だって、知らなかったのか……?)
そう考えれば、イアンのその『知り合い』とやらが怪しく思える。が、イアンの言葉を完全に信じることが出来るかどうか。
そこが一番の問題だろう。
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