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勇者に選ばれた恋人が、王女様と婚姻するらしいので、

待つ恋人アデルミラの話(3)

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『貴女にピッタリのお相手が見つかりました。ですので、以下の日時に『リナリア』へお越しくださいませ』

 そんな手紙がアデルミラの住まうアパートに届いたのは、アデルミラが『リナリア』に登録して一週間が過ぎた頃だった。

 シンプルな便箋に綴られた美しい文字には、アデルミラにピッタリの相手が見つかったということ。以下の日時に『リナリア』に来てほしいということ。断る場合は指定の日時の三日前までに断りの手紙を入れてほしいということが書いてあった。もちろん、アデルミラに断るつもりは一切ない。一刻も早く、ロレンシオのことを忘れたかったためだ。

(……なんというか、嫌な予感もするのだけれど……)

 そう思ってしまうが、それでも運命の出逢いのチャンスを逃すわけにはいかない。だから、行くしかないのだ。

 そんな風に考えて、アデルミラはとりあえずと近いうちに美容院に行くことを決めた。その後、服屋に行って新しい服を用意する。最低限は自分をよく見せたいものだ。そんな考えは、きっと女性ならば誰しもが持つ考えだと思う。

「……どんな格好が、いいかなぁ?」

 一応、その後にデートをすることを考えれば、動きやすい方が良いかもしれない。シンプルなワンピースに上着を羽織る程度の装いが、一番いいのかもしれない。シンプルなものにするのは、気合が入っていると思われないためだ。変に気合を入れてしまうと、相手が臆する可能性がある。

「髪型は……シンプルに編み込みにしてみようかな。……お兄ちゃん、よくやってくれたっけ」

 まだロレンシオがアデルミラの側にいた頃。彼はよくアデルミラの髪を編み込んでくれた。ロレンシオには妹がおり、そのこともあり髪を編み込んだり結ぶのが大層上手かったのだ。アデルミラも幼少期にやってほしいとよく頼み込んでいた。それ以来、ずっとおしゃれをするときはロレンシオに頼んだものだ。……ロレンシオとのデートの際に、彼に髪を編み込んでほしいと頼むのは、少しいかがなものだろうかと思ったことはあるのだが。

「ううん、考えちゃダメよ。お兄ちゃんは私を捨てたのだもの。……今は、王女殿下と愛し合っているのよ」

 自分に言い聞かせるように、アデルミラはそう零す。愛し合っていたとは言っても、アデルミラとロレンシオの関係は清いものだ。決して、身体の関係はない。ロレンシオはアデルミラが十八歳になるまで手を出さないと、常々言っていた。手を繋ぎ、身体を密着させるくらいの関係。ただ唯一、別れ際にしてくれた口づけだけが、忘れられない。

(あれ、私にとってファーストキスだったのに……! お兄ちゃんのバカ……!)

 心の中で地団太を踏み、アデルミラはとりあえず編み込みの練習をしようと鏡台の前の椅子に腰かける。アデルミラの髪はさらさらとしているため、編み込みが綺麗に出来る。まぁ、ほどけやすいというデメリットもあるのだが。

「えっと……ヘアゴムはっと」

 鏡台の引き出しを漁り、ヘアゴムを探し出す。綺麗な薄紫色のヘアゴムを見ると、これもロレンシオからのプレゼントだったと思い出してしまう。……捨てた方が、良いのだろう。それでも、捨てられない。それはきっと、アデルミラの中でロレンシオへの想いが消えていない証拠なのだ。

「……お兄ちゃん」

 やっぱり、彼が自分を捨てて王女を選んだとは考えにくい。あんなにもアデルミラのことを大切に扱い、意思を尊重してくれたのだから。そんな彼が、浮気をするとは到底考えられなかった。もしかしたら、王女に迫られて断ることが出来なかったのかも……という考えさえ、思い浮かんでしまう。それでも、もう結婚相談所に登録したのだ。……今更、引き返すことなんて出来やしない。

(やっぱり、お兄ちゃんじゃなきゃ嫌だよ……)

 きっと、どれだけほかの人を紹介されたとしても、ロレンシオと比べてしまうのだろう。彼のあの優しい手が、忘れられない。どれだけ素敵な人と口づけをしても、身体の関係を持っても。ロレンシオじゃないと嫌だと、思ってしまうのだろう。それに、そもそもそれ自体が相手に失礼だ。

(けど、やっぱり引き返せないの。だって、私たちの関係は終わったのだもの)

 そう、それで間違いない。だからこそ、新しい出逢いを求めるべきであり、新しい恋を見つけるべきなのだ。頭では分かっている。ただ……心が、分かってくれないだけなのだ。それが一番の問題だったのかもしれないが。

 そんなことを考えながら、アデルミラは運命の相手との出逢いを待つことにした。……もちろん、その先に待つ結末など、知るわけもない。

 だから――……。

「どう、して」

 『その人物』と予想外の再会を果たすことも、知るわけがなかった。
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