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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
⑧
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それからお茶を飲みつつ、テオと他愛もない話に花を咲かせる。
互いのこと。天翔が元々いた世界のこと。
様々なことを話していて気が付いたことだが、テオは聞き上手だった。
天翔の話を興味深そうに聞き、気になったことは適切なところで質問する。彼は当然のことをしていると思っているようだが、天翔からすると聞き上手なのも立派な才能の一つだ。
「ちょっと話過ぎたかも」
時計の針を見て、天翔は困ったような笑みを浮かべた。お茶を一口飲み、渇いた喉を潤す。
「俺ばっかり話過ぎたよな。ごめん」
「いえ、アマトさまのお話はとても興味深いものばかりでしたので。聞いていて楽しかったです」
テオが笑う。彼の笑みは柔らかな印象を与え、人に癒しを与えるのかもしれない。天翔の心も穏やかになっていく。
(ナイトハルトさんだったら、ここまで穏やかにはなれないもんなぁ)
彼には風格と迫力がある。美しいというのももちろん、彼のオーラは他者に怯えも与えてしまう。
天翔にとってナイトハルトという男は友人になることは叶わない存在だった。そもそも友人になったところで、気を許すことは出来そうにない。少ししか関わっていないが、自分と彼が仲良くなる未来が見えない。
(なのに、俺はナイトハルトさんと婚約者のふりをしなくちゃならない。憂鬱だ)
天翔の身を守るためだとはいえ、憂鬱なことに間違いはない。
無意識のうちにため息を零せば、テオが「アマトさま?」と声をかけてきた。無理やり笑みを作って、誤魔化すように笑う。
「いや、なんでもない。ちょっと今後に不安が」
「さようでございますか。ですが、ナイトハルトさまが付いているので大丈夫です!」
そのナイトハルトが不安の原因なんだが――などと言えるわけもなく、天翔は誤魔化すようにお茶を飲む。
ティーカップから口を離し、ソーサーの上に戻したとき。部屋の外が騒がしくなったのがわかった。そして誰かが部屋の扉をノックする。ノックの音を聞いた天翔の身体がかたくなった。
「来客でしょうか?」
対するテオはのんびりと扉のほうに近づいて、返事をする。
扉越しにしばらく会話をし、テオは扉を開けた。入ってきたのは一人の男性。
短い黒髪はさらりとしており、まるで日本人のようだ。が、彼の目は日本人ではありえないエメラルド色だった。
男性は室内にいる天翔を見つめる。まるで吟味するかのような視線は鋭く、天翔の肩が跳ねてしまう。
「お前がナイトハルトの言っていた転移者か?」
「えっと」
「あぁ悪い。お前に聞いてもわからないよな」
彼は軽く手を挙げ、天翔に向かって笑いかけた。とても人懐っこい無邪気な笑みだ。子供っぽくも見える。
「レイモンドさま。こちらはアマトさまでございます。本日よりこちらの邸宅でナイトハルトさまと共に生活をされます」
テオは冷静に説明をしているようだが、内容が少しおかしい。もっと違う説明の方法があっただろう。
「俺は天翔って言います」
レイモンドと呼ばれた男性に向かって軽く頭を下げると、彼は「気を遣うな」と言う。
「こっちが勝手にお前を呼んだんだからな。お前のほうがお客さまだ」
ソファーに腰を下ろし、男性はテオにお茶を要求する。テオは静かに頷き、お茶を淹れに部屋の隅に移動した。
「俺はレイモンド・ケーニッヒ。ナイトハルトの学友という名の悪友だな」
彼の言葉に天翔はハッとした。
(ナイトハルトさんが俺に紹介するって言ってた人か?)
名前こそ聞いていないが、学友で悪友だと言っていた。学友はともかく、悪友はたくさんいるものではない――と思いたい。ナイトハルトならば悪友もたくさん存在しそうで怖いのだが。
「アマトだったっけか」
「はい」
「まず一つ、俺から言わなくちゃならない」
改まったような表情でレイモンドが天翔を見つめる。じっと見つめられてしまうと、天翔の頬に熱が溜まった。ナイトハルトには劣るが、彼も大層な美形だ。
「――悪かった」
互いのこと。天翔が元々いた世界のこと。
様々なことを話していて気が付いたことだが、テオは聞き上手だった。
天翔の話を興味深そうに聞き、気になったことは適切なところで質問する。彼は当然のことをしていると思っているようだが、天翔からすると聞き上手なのも立派な才能の一つだ。
「ちょっと話過ぎたかも」
時計の針を見て、天翔は困ったような笑みを浮かべた。お茶を一口飲み、渇いた喉を潤す。
「俺ばっかり話過ぎたよな。ごめん」
「いえ、アマトさまのお話はとても興味深いものばかりでしたので。聞いていて楽しかったです」
テオが笑う。彼の笑みは柔らかな印象を与え、人に癒しを与えるのかもしれない。天翔の心も穏やかになっていく。
(ナイトハルトさんだったら、ここまで穏やかにはなれないもんなぁ)
彼には風格と迫力がある。美しいというのももちろん、彼のオーラは他者に怯えも与えてしまう。
天翔にとってナイトハルトという男は友人になることは叶わない存在だった。そもそも友人になったところで、気を許すことは出来そうにない。少ししか関わっていないが、自分と彼が仲良くなる未来が見えない。
(なのに、俺はナイトハルトさんと婚約者のふりをしなくちゃならない。憂鬱だ)
天翔の身を守るためだとはいえ、憂鬱なことに間違いはない。
無意識のうちにため息を零せば、テオが「アマトさま?」と声をかけてきた。無理やり笑みを作って、誤魔化すように笑う。
「いや、なんでもない。ちょっと今後に不安が」
「さようでございますか。ですが、ナイトハルトさまが付いているので大丈夫です!」
そのナイトハルトが不安の原因なんだが――などと言えるわけもなく、天翔は誤魔化すようにお茶を飲む。
ティーカップから口を離し、ソーサーの上に戻したとき。部屋の外が騒がしくなったのがわかった。そして誰かが部屋の扉をノックする。ノックの音を聞いた天翔の身体がかたくなった。
「来客でしょうか?」
対するテオはのんびりと扉のほうに近づいて、返事をする。
扉越しにしばらく会話をし、テオは扉を開けた。入ってきたのは一人の男性。
短い黒髪はさらりとしており、まるで日本人のようだ。が、彼の目は日本人ではありえないエメラルド色だった。
男性は室内にいる天翔を見つめる。まるで吟味するかのような視線は鋭く、天翔の肩が跳ねてしまう。
「お前がナイトハルトの言っていた転移者か?」
「えっと」
「あぁ悪い。お前に聞いてもわからないよな」
彼は軽く手を挙げ、天翔に向かって笑いかけた。とても人懐っこい無邪気な笑みだ。子供っぽくも見える。
「レイモンドさま。こちらはアマトさまでございます。本日よりこちらの邸宅でナイトハルトさまと共に生活をされます」
テオは冷静に説明をしているようだが、内容が少しおかしい。もっと違う説明の方法があっただろう。
「俺は天翔って言います」
レイモンドと呼ばれた男性に向かって軽く頭を下げると、彼は「気を遣うな」と言う。
「こっちが勝手にお前を呼んだんだからな。お前のほうがお客さまだ」
ソファーに腰を下ろし、男性はテオにお茶を要求する。テオは静かに頷き、お茶を淹れに部屋の隅に移動した。
「俺はレイモンド・ケーニッヒ。ナイトハルトの学友という名の悪友だな」
彼の言葉に天翔はハッとした。
(ナイトハルトさんが俺に紹介するって言ってた人か?)
名前こそ聞いていないが、学友で悪友だと言っていた。学友はともかく、悪友はたくさんいるものではない――と思いたい。ナイトハルトならば悪友もたくさん存在しそうで怖いのだが。
「アマトだったっけか」
「はい」
「まず一つ、俺から言わなくちゃならない」
改まったような表情でレイモンドが天翔を見つめる。じっと見つめられてしまうと、天翔の頬に熱が溜まった。ナイトハルトには劣るが、彼も大層な美形だ。
「――悪かった」
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