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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり

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 彼の言葉に胸が高鳴る。天翔は無意識のうちに自身の胸元を手で押さえ、火照ってしまいそうな顔を誤魔化すように息を吐く。

「好きって」

 ナイトハルトの言葉を繰り返してみた。

 もちろん彼が恋愛的な意味で言ったわけではないことくらい、天翔にだってわかっている。ただ、胸がときめいたのは真実だ。

「性的対象に見ることは出来そうにないが、案外友好的な関係が築けそうで安心した」

 悪そうな表情も不思議なほどに似合う人だ。

(友好的な関係、か)

 彼の言う『友好的な関係』とは、どういった関係なのか。

 天翔が問いかけようとするも、先に部屋の扉がノックされた。

 ナイトハルトが返事をすると、ゆっくりと扉が開きテオが顔を出す。

「朝食をお持ちいたしました。失礼してもよろしいでしょうか?」
「アマト、邪魔にならないようにこっちに」

 手首を掴み、ナイトハルトが天翔の身体を引き寄せる。彼は天翔をソファーに連れて行き、半ば無理やり腰掛けさせた。

 すると、室内にたくさんの使用人たちが入ってくる。

「えっと、俺もなにか」

 ソファーに腰掛けてみているだけというのが申し訳なく、天翔は立ち上がろうとする。天翔の行動をナイトハルトが視線だけで止める。自然とソファーの上に戻った。

「お前の出自は貴族令息となっている。怪しまれないように座っていろ」

 天翔にだけ聞こえるような声量で、ナイトハルトが注意をする。納得することしか出来ない。

 食事を並べ終えると、テオ以外の使用人は出て行った。最後にぺこりと頭を下げたのは、黒髪を撫でつけた執事。彼が責任者だろう。

「食べるぞ」

 ナイトハルトが立ち上がり、食事の並んだテーブルのほうに近づいていく。天翔も彼に続いて移動をする。

 食事用のテーブルには真っ白なテーブルクロスが敷かれていた。上に載っているのは豪華な料理の数々。

(まるでホテルの朝食バイキングみたいだ)

 陳腐な表現かもしれないが、天翔にとってこのたとえ以上にぴったりな言葉は出てこない。

「何人分ですか?」

 どう見ても二人分ではないだろう――と思って尋ねていた。が、ナイトハルトは「二人分だ」と迷いなく答える。

「俺が一人のときはもっと少ないがな。俺が誰かを連れ込んだときは、豪華なものを用意させている」
「はぁ」

 食事を運んできた使用人たちは天翔を見ても怪訝そうな表情をしなかった。ナイトハルトは本当に奔放なのだろう。

 実感すると、天翔の胸がチクっと痛んだ。

(俺は一途な人がいいんだけどな……)

 自分の好みのタイプなんてわからない。唯一わかるのは【一途な人】がいいということ。

 浮気や不倫は軽蔑するべきものだと天翔は個人的に思っている。

(そりゃあナイトハルトさんは独身らしいし、特定の相手はいないみたいだけど)

 今後は少しくらい控えてほしい――という想いが天翔の中に芽生えた。しかし、伝える勇気はない。

「ナイトハルトさんと関係を持った人は、きっと幸せなんでしょうね」

 拗ねたように皮肉を言うことしか出来ない。

「だろうな」

 天翔の精いっぱいの皮肉は、どうやら彼には通じなかったようだ。モヤモヤが募っていく。

「とにかく、食べるぞ」
「……はい」

 これ以上とやかく言う気は起きなかったため、天翔はナイトハルトの言葉に頷いた。

 椅子に腰を下ろし、視線を数々の料理に向ける。手元にあるのはナイフとフォーク。スープの前にはスプーンが置かれていた。どうやらこのカトラリーで食事をしろということらしい。

 天翔はフォークを手に取り、サラダに手を付けてみる。レタスのような葉物はシャキシャキとしていてみずみずしい。かかっているドレッシングらしきものは天翔にとってなじみのない味だ。食べられないことはない味だと思っていたが、慣れてくると美味しく感じることが出来た。

「食べながらでいいから、聞け」

 天翔が野菜を食べていると、ナイトハルトが真剣な表情を作って声をかけてくる。

 少し迷って頷くと、ナイトハルトは頬を緩めた。美しくて、視線を逸らすことが出来ない。
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