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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
①
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天翔がシャワーを終え浴室から出ると、脱衣所には礼服とは別の衣服が置いてあった。
衣服を広げ、天翔はぎこちない動きで身にまとう。脱衣所の扉を震える手で開き、足を踏み出した。
「あぁ、終わったか」
ソファーに腰掛けていたナイトハルトが、天翔を見て立ち上がる。
彼は先ほどまで読んでいたであろう分厚い本をテーブルの上に置き、天翔のほうに歩いてきた。
彼は歩き方ひとつとっても、美しい。凛としており、自信に満ち溢れた歩き方だ。
「少し動くな」
ナイトハルトがびしっとした声で命じてくる。天翔が身を硬くしていると、彼の手が天翔の首元に伸びる。
少しズレていたのだろう。タイの位置を直す。
(日本の服とは全然違うから――)
この世界の衣服は中世ヨーロッパ風のものだった。天翔には着方がさっぱりわからず、それっぽく見えるように自分で考えて身にまとっていた。
「こちらに転移してきたときの服装からして、衣服の文化はかなり違うようだな」
ナイトハルトがさっと天翔の衣服をチェックし、気になるところをてきぱきと直していく。
彼の予想は正しいはず。
「そうだと思います」
「では、今後は身の回りの世話をするやつをつける」
彼の口調は当然と言いたげなものだった。確定事項を報告しているかのよう。
「いえ、その。慣れれば自分で出来ます」
「その慣れるまでが大変だろ」
確かにそれはそうだ。
「信頼ができ、口の堅いやつを用意する。困ったことがあれば、ソイツに言えば俺に伝わるようにもしておく」
「はぁ」
至れり尽くせりとはまさにこのことではないだろうか?
呆然と天翔が立っていると、ナイトハルトは「これでいい」とつぶやいた。
「サイズもぴったりなようだし、しばらくはこれでいいだろ」
「ありがとう、ございます」
「いや、俺が子供の頃に着ていたものがあってよかった」
なんだろうか。今、天翔は無性に腹が立っていた。
(この口ぶり、絶対に俺が子供みたいな体型だって言っているだろ!)
むっとしつつナイトハルトを見つめるものの、彼は気にする様子もない。
「今日の朝食はこちらに用意させる。朝食を摂っている間に、諸々説明しよう」
「は、い」
彼の流れるような言葉の数々に、天翔は圧倒され口を挟むことさえ出来ない。
相槌を打つので精いっぱいだった。流されている感が否めない。
「ここは王城がある敷地内に建っている俺個人の邸宅なんだけれどな」
「はい」
「アマトには今後ここで暮らしてもらうことになる。――俺の婚約者として」
だが、さすがに黙って聞き流すことが出来ない単語が聞こえてきた。
今、聞き間違いではなければ『婚約者』と聞こえたような気がするのだ。
(婚約者!?)
天翔の慌てぶりはナイトハルトにもしっかりと伝わっていたようだ。彼は首を縦に振る。
「さすがに未婚の二人が同じ邸宅に住むと、外がなんとうわさをするかわからない。だったら最初から婚約者にしておくほうが都合がいい」
「使用人さんとかも、住んでいるんじゃないですか?」
「使用人は基本的に専用の棟に住んでいる。ここは深夜になると警備兵と俺だけになる」
ナイトハルトの言葉は少しおかしくも感じられてしまう。まるで、天翔を別の場所に住まわせるという選択肢が初めからないようだ。
眉間にしわを寄せる天翔に対し、ナイトハルトは「不満か?」と尋ねてくる。
「いえ滅相もないです」
「だったらいいだろ」
「この国って、同性婚はありなのですか?」
もしも違うならば――。
(俺は女装して過ごすことになるんだろうか?)
ズレた心配が天翔の脳内に浮かんだ。ナイトハルトが「ふっ」と笑う。
「同性婚が主流だ」
「えっと」
「男は男同士で、女は女同士で結婚するのが理想とされている。特に王侯貴族の社会ではな」
そんな国、あるんだなぁ。
(って、ここは異世界だし、地球の常識は通じないか)
天翔の常識はここでは非常識の可能性があると考えたほうがよさそうだ。
衣服を広げ、天翔はぎこちない動きで身にまとう。脱衣所の扉を震える手で開き、足を踏み出した。
「あぁ、終わったか」
ソファーに腰掛けていたナイトハルトが、天翔を見て立ち上がる。
彼は先ほどまで読んでいたであろう分厚い本をテーブルの上に置き、天翔のほうに歩いてきた。
彼は歩き方ひとつとっても、美しい。凛としており、自信に満ち溢れた歩き方だ。
「少し動くな」
ナイトハルトがびしっとした声で命じてくる。天翔が身を硬くしていると、彼の手が天翔の首元に伸びる。
少しズレていたのだろう。タイの位置を直す。
(日本の服とは全然違うから――)
この世界の衣服は中世ヨーロッパ風のものだった。天翔には着方がさっぱりわからず、それっぽく見えるように自分で考えて身にまとっていた。
「こちらに転移してきたときの服装からして、衣服の文化はかなり違うようだな」
ナイトハルトがさっと天翔の衣服をチェックし、気になるところをてきぱきと直していく。
彼の予想は正しいはず。
「そうだと思います」
「では、今後は身の回りの世話をするやつをつける」
彼の口調は当然と言いたげなものだった。確定事項を報告しているかのよう。
「いえ、その。慣れれば自分で出来ます」
「その慣れるまでが大変だろ」
確かにそれはそうだ。
「信頼ができ、口の堅いやつを用意する。困ったことがあれば、ソイツに言えば俺に伝わるようにもしておく」
「はぁ」
至れり尽くせりとはまさにこのことではないだろうか?
呆然と天翔が立っていると、ナイトハルトは「これでいい」とつぶやいた。
「サイズもぴったりなようだし、しばらくはこれでいいだろ」
「ありがとう、ございます」
「いや、俺が子供の頃に着ていたものがあってよかった」
なんだろうか。今、天翔は無性に腹が立っていた。
(この口ぶり、絶対に俺が子供みたいな体型だって言っているだろ!)
むっとしつつナイトハルトを見つめるものの、彼は気にする様子もない。
「今日の朝食はこちらに用意させる。朝食を摂っている間に、諸々説明しよう」
「は、い」
彼の流れるような言葉の数々に、天翔は圧倒され口を挟むことさえ出来ない。
相槌を打つので精いっぱいだった。流されている感が否めない。
「ここは王城がある敷地内に建っている俺個人の邸宅なんだけれどな」
「はい」
「アマトには今後ここで暮らしてもらうことになる。――俺の婚約者として」
だが、さすがに黙って聞き流すことが出来ない単語が聞こえてきた。
今、聞き間違いではなければ『婚約者』と聞こえたような気がするのだ。
(婚約者!?)
天翔の慌てぶりはナイトハルトにもしっかりと伝わっていたようだ。彼は首を縦に振る。
「さすがに未婚の二人が同じ邸宅に住むと、外がなんとうわさをするかわからない。だったら最初から婚約者にしておくほうが都合がいい」
「使用人さんとかも、住んでいるんじゃないですか?」
「使用人は基本的に専用の棟に住んでいる。ここは深夜になると警備兵と俺だけになる」
ナイトハルトの言葉は少しおかしくも感じられてしまう。まるで、天翔を別の場所に住まわせるという選択肢が初めからないようだ。
眉間にしわを寄せる天翔に対し、ナイトハルトは「不満か?」と尋ねてくる。
「いえ滅相もないです」
「だったらいいだろ」
「この国って、同性婚はありなのですか?」
もしも違うならば――。
(俺は女装して過ごすことになるんだろうか?)
ズレた心配が天翔の脳内に浮かんだ。ナイトハルトが「ふっ」と笑う。
「同性婚が主流だ」
「えっと」
「男は男同士で、女は女同士で結婚するのが理想とされている。特に王侯貴族の社会ではな」
そんな国、あるんだなぁ。
(って、ここは異世界だし、地球の常識は通じないか)
天翔の常識はここでは非常識の可能性があると考えたほうがよさそうだ。
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