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第1部 第1章 失恋したら異世界に転移しました
⑧
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◇◇◇
翌朝。目が覚め、意識が覚醒した天翔の頭は不思議なほどに冷静だった。
(――夢じゃ、なかったのか)
元より寝起きはいいほうである。ただ、この日はいつも以上にすっきりと目覚めることが出来た。
ただし、視界に入ったナイトハルトの寝顔に、天翔の心臓は爆発するのではないかと錯覚するほどに、脈打っている。
それほどに、彼の寝顔は美しいのだ。
(ってことは、これから俺はここで暮らすわけ――?)
この世界で、この国で。天翔は今後暮らすことが確定してしまったのか。
「どう、すればいいんだよ」
不安から声が漏れた。
すると、ナイトハルトが目覚めたらしい。「んっ」と声を上げ、瞼を上げた。
彼の金色の目が、寝起きのためかほうっとしている。美形とは、どんなときでも美形なのだ。
天翔はこのとき、顔面格差社会を実感してしまった。
「あぁ、アマト。おはよう」
当然のようにナイトハルトは朝のあいさつをし、起き上がった。
彼はもちろん眠る前と同じように上半身裸だ。天翔は慌てて目元を手で覆う。
ナイトハルトが天翔の態度を見てけらけらと声を上げて笑う。
(本当、意地が悪い――!)
天翔の戸惑いなど彼は知らないのだ。だから、こんな風に笑うことが出来る。
「いつも俺はこの格好で寝ているから、慣れろ」
「な、慣れろって」
平然と彼は言うが、天翔からすれば絶対に無理だ。
ぶんぶんと首を横に振って気持ちを伝えるものの、ナイトハルトは無視をする。
ベッドから下り、近くのサイドテーブルに置いてある水差しを手に取った。水をカップに注ぎ、彼はぐいっと水を飲んでいく。
(うわぁ、これだけでもきれいすぎるって――!)
ただ水を飲んでいるだけだ。なのに、ナイトハルトくらいの美形になると、水を飲む姿だけでも絵になる。
本当に恐ろしい。顔面格差社会だ。
「さて、アマト」
「は、はい」
改まったように名前を呼ばれ、天翔はぴくんと肩を跳ねさせていた。
ナイトハルトは天翔の些細な仕草は気にしていないらしい。自身の髪の毛を手櫛で整えている。
「まず、湯浴みでもしてこい。その扉の先が浴室だ」
「はえ?」
彼はいきなりなにを言うのだろうか――。
「一応異世界から来ているわけだし、身体は清めたほうがいい。あのときは夜中だったから言わなかったが」
「あ、そうですね」
思い出せば、天翔は結婚式に参列した格好のままだ。上着はないが。
(この格好、割と寝苦しかったんだよな)
そのせいか、汗でシャツがべっとりと身体に張り付いており、気持ち悪い。
「今から使用人を呼んで、アマトの服を用意させる。俺が諸々説明はするから、行ってこい」
ナイトハルトは天翔を浴室の扉の前まで押した。流れるように扉を開き、中に天翔の身体を放り込む。
バタンと音を立てて閉まる扉。唖然とする天翔だけがこの場にいる。
「とりあえず、シャワーをしよう」
混乱が解けていない。頭も現実を理解してはいない。
(異世界に転移って、どういうことだろ)
まるでライトノベルの世界じゃないか。
頭を掻きむしりたい衝動に駆られつつ、天翔は礼服を脱いでいく。
「ナイトハルトさんって、何者なんだろう」
彼は自らを王弟だと言っていたが、そういう意味ではない。
「あの人は、まるで俺がベッドの上に転移してくることを知っているような様子だった)
天翔が突然現れたというのに、彼は動揺一つしていなかった。
予言や予感などでもあったというのだろうか?
(いやいやいや、非科学的だって)
と思うが、異世界に転移している時点で非科学的なことが起きている。
簡単には納得できないが、納得するしかなさそうだ。
「どうなるかはわからないけど、郷に入っては郷に従え。今は、ナイトハルトさんを頼るしかない」
むしろ、彼に見捨てられた場合天翔はあっさりと死んでしまうだろう。
ナイトハルトに従い、彼に守ってもらうことが今の天翔が生きていくうえで一番必要なことだとわかる。
(あの人の様子を見るに、俺を無一文で放り出すことはなさそうだし)
ならば、少しくらい安心しても大丈夫そうだ――。
こうして、天翔は異世界のシュタルク王国という場所で、暮らすことになった――。
翌朝。目が覚め、意識が覚醒した天翔の頭は不思議なほどに冷静だった。
(――夢じゃ、なかったのか)
元より寝起きはいいほうである。ただ、この日はいつも以上にすっきりと目覚めることが出来た。
ただし、視界に入ったナイトハルトの寝顔に、天翔の心臓は爆発するのではないかと錯覚するほどに、脈打っている。
それほどに、彼の寝顔は美しいのだ。
(ってことは、これから俺はここで暮らすわけ――?)
この世界で、この国で。天翔は今後暮らすことが確定してしまったのか。
「どう、すればいいんだよ」
不安から声が漏れた。
すると、ナイトハルトが目覚めたらしい。「んっ」と声を上げ、瞼を上げた。
彼の金色の目が、寝起きのためかほうっとしている。美形とは、どんなときでも美形なのだ。
天翔はこのとき、顔面格差社会を実感してしまった。
「あぁ、アマト。おはよう」
当然のようにナイトハルトは朝のあいさつをし、起き上がった。
彼はもちろん眠る前と同じように上半身裸だ。天翔は慌てて目元を手で覆う。
ナイトハルトが天翔の態度を見てけらけらと声を上げて笑う。
(本当、意地が悪い――!)
天翔の戸惑いなど彼は知らないのだ。だから、こんな風に笑うことが出来る。
「いつも俺はこの格好で寝ているから、慣れろ」
「な、慣れろって」
平然と彼は言うが、天翔からすれば絶対に無理だ。
ぶんぶんと首を横に振って気持ちを伝えるものの、ナイトハルトは無視をする。
ベッドから下り、近くのサイドテーブルに置いてある水差しを手に取った。水をカップに注ぎ、彼はぐいっと水を飲んでいく。
(うわぁ、これだけでもきれいすぎるって――!)
ただ水を飲んでいるだけだ。なのに、ナイトハルトくらいの美形になると、水を飲む姿だけでも絵になる。
本当に恐ろしい。顔面格差社会だ。
「さて、アマト」
「は、はい」
改まったように名前を呼ばれ、天翔はぴくんと肩を跳ねさせていた。
ナイトハルトは天翔の些細な仕草は気にしていないらしい。自身の髪の毛を手櫛で整えている。
「まず、湯浴みでもしてこい。その扉の先が浴室だ」
「はえ?」
彼はいきなりなにを言うのだろうか――。
「一応異世界から来ているわけだし、身体は清めたほうがいい。あのときは夜中だったから言わなかったが」
「あ、そうですね」
思い出せば、天翔は結婚式に参列した格好のままだ。上着はないが。
(この格好、割と寝苦しかったんだよな)
そのせいか、汗でシャツがべっとりと身体に張り付いており、気持ち悪い。
「今から使用人を呼んで、アマトの服を用意させる。俺が諸々説明はするから、行ってこい」
ナイトハルトは天翔を浴室の扉の前まで押した。流れるように扉を開き、中に天翔の身体を放り込む。
バタンと音を立てて閉まる扉。唖然とする天翔だけがこの場にいる。
「とりあえず、シャワーをしよう」
混乱が解けていない。頭も現実を理解してはいない。
(異世界に転移って、どういうことだろ)
まるでライトノベルの世界じゃないか。
頭を掻きむしりたい衝動に駆られつつ、天翔は礼服を脱いでいく。
「ナイトハルトさんって、何者なんだろう」
彼は自らを王弟だと言っていたが、そういう意味ではない。
「あの人は、まるで俺がベッドの上に転移してくることを知っているような様子だった)
天翔が突然現れたというのに、彼は動揺一つしていなかった。
予言や予感などでもあったというのだろうか?
(いやいやいや、非科学的だって)
と思うが、異世界に転移している時点で非科学的なことが起きている。
簡単には納得できないが、納得するしかなさそうだ。
「どうなるかはわからないけど、郷に入っては郷に従え。今は、ナイトハルトさんを頼るしかない」
むしろ、彼に見捨てられた場合天翔はあっさりと死んでしまうだろう。
ナイトハルトに従い、彼に守ってもらうことが今の天翔が生きていくうえで一番必要なことだとわかる。
(あの人の様子を見るに、俺を無一文で放り出すことはなさそうだし)
ならば、少しくらい安心しても大丈夫そうだ――。
こうして、天翔は異世界のシュタルク王国という場所で、暮らすことになった――。
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