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ep35 決着01
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ゼクスの護衛対象の最優先はエルマーだが、その他にヴィルゴと俺も入っている。
俺はしがない侍従ではあるが、持っている能力は特別だ。
マルゴーン帝国第七皇子であるレリウスがヴィルゴに敵意を向けている時点で、こういったことが起き得ると想定されていた。
だからゼクスが俺の拉致されたこの部屋に来たことに疑問はなかった。
そして冷静だった分、ゼクスがこの部屋に転移してきた時、俺は気づいた。
ゼクスの転移陣が現れなかったことに。
ゼクスは近距離で転移する時、転移陣を必要としない。
つまり、この部屋へは近距離から転移してきたということだ。
ゼクスは転移前にある程度転移先の状況がわかるのだそうで、偵察などを必要としない。
ならば一度別の場所に転移して、再びこの部屋の中央へ転移した理由は何か?
誰かを伴って来たのではないか、と思ったのだ。
そして。もしゼクスがここに誰かを伴うとしたら、それはヴィルゴしか考えられない。
そしてゼクスはあえて部屋の中央に現れることで、敵の目を自分自身に向けたのではないか。
次に、ジェスカとサシャの関係について。
ジェスカに出会った時から俺は気づいていた。
サシャに特別な感情を抱いている。サシャ本人はおそらく気づいていない。
サシャと視線を交わす時、話す時、触れる時。
ジェスカは気取られないようにしていたのだろうが、彼への愛しさが滲んでいた。
わかりやすかったのは他の第三者が周囲にいた時だ。
俺とファルマン伯爵と話している時、サシャに意識が行かないようずっと喋り続けていた。おそらくジェスカは本来おしゃべりな性分じゃない。喋りすぎなことに違和感があった。
レリウスにもサシャを絶対に近づけないようしていた。
俺を拘束していた時も、部屋にいた時も。必ずサシャを後ろに下げていた。
そしてゼクスが現れた時、常にジェスカはサシャとの間に入り、ゼクスの敵意がサシャに向くことがないよう立ち回っていた。
暗殺稼業をしている者が、同胞をそこまで庇うなんてあり得ない。
ジェスカとサシャの関係は、言うなれば側で見ていて愉快でたまらないアレ。
年下無自覚君×過保護お兄さん
の猛烈片想いなワケだ。
おそらくは今回の依頼に伴い、残虐非道な皇子の傍に控えることに加え、バケモノじみた強さのゼクスを相手にすることになり、内心穏やかではなかったのだろう。
ジェスカのサシャへの愛情は俺に悟られてしまった。
暗殺稼業をする者としては失格だ。
…ファルマン伯爵が俺を男好き発見器みたいに扱っていたが、あながち間違ってはいなかったってことだな。
どちらも正直、確証があったわけではなかった。
だが。
ヴィルゴは来てくれていた。
ジェスカの恋心も本物だった。
つまり、俺たちの勝ちだ。
「全員そこから動かないように」
ヴィルゴは淡々とそう言うと、片手に握っていた剣を躊躇いなくサシャの太腿に突き刺し、そのまま床まで貫く。
サシャはさらなる痛みに涙ながらに叫び声をあげた。
今度は怒りに顔を歪ませるジェスカの元へ。
冷たく一瞥すると、引き抜いたもう一本の剣も同様にジェスカの太腿に突き刺し、床まで貫いた。
ジェスカは苦痛に顔を歪めるも、唸り声を押し殺してヴィルゴを睨みつける。
「妙な動きをしたら黒髪の首を捻じ切れ」
暗殺者たちの動きを床に縫い止めたヴィルゴはそうゼクスに言い残し、そのままの足取りでレリウスと俺のいるベッドの前まで来た。
「久しいですな、レリウス殿下」
俺に襟元をつかまれたまま呆然としているレリウスを、ヴィルゴは悠然と見下ろす。
「ずいぶんと、私のお気に入りたちを痛ぶってくれたようで」
ヴィルゴは俺を見ると少し柔らかく微笑み、レリウスから離れるよう指示する。
俺はレリウスの上からベッドの脇へと移動した。
「…まさか貴殿自ら来るとは驚いた。
私が王国に来ていたことは知られていたのだな」
レリウスは半身を起こし、ヴィルゴを見上げた。
「私の情報網を甘く見ない方が良い…と言いたいところですが、グレイがファルマン家の別邸から戻らなくなって、ようやく確証を得たのが正直なところですよ。
貴方こそ自ら動いてその幸運に縋るとは、随分と余裕がなかったようですね、殿下。
…ま、最後の悪あがきとしては悪くない一手でしたよ」
煽るような物言いのヴィルゴをレリウスは睨む。
「…特異点をふたつも独占して、余裕だな」
「貴方とは違って悪趣味な飼い方はしないのでね。だから足元を掬われる」
「………貴殿に私の情報を売っていたのはアレか」
レリウスがはじめて不愉快そうな顔をした。
その言葉を最後に、レリウスはベッドで項垂れたまま口を閉じた。
これ以上争うつもりはないようだ。
俺はしがない侍従ではあるが、持っている能力は特別だ。
マルゴーン帝国第七皇子であるレリウスがヴィルゴに敵意を向けている時点で、こういったことが起き得ると想定されていた。
だからゼクスが俺の拉致されたこの部屋に来たことに疑問はなかった。
そして冷静だった分、ゼクスがこの部屋に転移してきた時、俺は気づいた。
ゼクスの転移陣が現れなかったことに。
ゼクスは近距離で転移する時、転移陣を必要としない。
つまり、この部屋へは近距離から転移してきたということだ。
ゼクスは転移前にある程度転移先の状況がわかるのだそうで、偵察などを必要としない。
ならば一度別の場所に転移して、再びこの部屋の中央へ転移した理由は何か?
誰かを伴って来たのではないか、と思ったのだ。
そして。もしゼクスがここに誰かを伴うとしたら、それはヴィルゴしか考えられない。
そしてゼクスはあえて部屋の中央に現れることで、敵の目を自分自身に向けたのではないか。
次に、ジェスカとサシャの関係について。
ジェスカに出会った時から俺は気づいていた。
サシャに特別な感情を抱いている。サシャ本人はおそらく気づいていない。
サシャと視線を交わす時、話す時、触れる時。
ジェスカは気取られないようにしていたのだろうが、彼への愛しさが滲んでいた。
わかりやすかったのは他の第三者が周囲にいた時だ。
俺とファルマン伯爵と話している時、サシャに意識が行かないようずっと喋り続けていた。おそらくジェスカは本来おしゃべりな性分じゃない。喋りすぎなことに違和感があった。
レリウスにもサシャを絶対に近づけないようしていた。
俺を拘束していた時も、部屋にいた時も。必ずサシャを後ろに下げていた。
そしてゼクスが現れた時、常にジェスカはサシャとの間に入り、ゼクスの敵意がサシャに向くことがないよう立ち回っていた。
暗殺稼業をしている者が、同胞をそこまで庇うなんてあり得ない。
ジェスカとサシャの関係は、言うなれば側で見ていて愉快でたまらないアレ。
年下無自覚君×過保護お兄さん
の猛烈片想いなワケだ。
おそらくは今回の依頼に伴い、残虐非道な皇子の傍に控えることに加え、バケモノじみた強さのゼクスを相手にすることになり、内心穏やかではなかったのだろう。
ジェスカのサシャへの愛情は俺に悟られてしまった。
暗殺稼業をする者としては失格だ。
…ファルマン伯爵が俺を男好き発見器みたいに扱っていたが、あながち間違ってはいなかったってことだな。
どちらも正直、確証があったわけではなかった。
だが。
ヴィルゴは来てくれていた。
ジェスカの恋心も本物だった。
つまり、俺たちの勝ちだ。
「全員そこから動かないように」
ヴィルゴは淡々とそう言うと、片手に握っていた剣を躊躇いなくサシャの太腿に突き刺し、そのまま床まで貫く。
サシャはさらなる痛みに涙ながらに叫び声をあげた。
今度は怒りに顔を歪ませるジェスカの元へ。
冷たく一瞥すると、引き抜いたもう一本の剣も同様にジェスカの太腿に突き刺し、床まで貫いた。
ジェスカは苦痛に顔を歪めるも、唸り声を押し殺してヴィルゴを睨みつける。
「妙な動きをしたら黒髪の首を捻じ切れ」
暗殺者たちの動きを床に縫い止めたヴィルゴはそうゼクスに言い残し、そのままの足取りでレリウスと俺のいるベッドの前まで来た。
「久しいですな、レリウス殿下」
俺に襟元をつかまれたまま呆然としているレリウスを、ヴィルゴは悠然と見下ろす。
「ずいぶんと、私のお気に入りたちを痛ぶってくれたようで」
ヴィルゴは俺を見ると少し柔らかく微笑み、レリウスから離れるよう指示する。
俺はレリウスの上からベッドの脇へと移動した。
「…まさか貴殿自ら来るとは驚いた。
私が王国に来ていたことは知られていたのだな」
レリウスは半身を起こし、ヴィルゴを見上げた。
「私の情報網を甘く見ない方が良い…と言いたいところですが、グレイがファルマン家の別邸から戻らなくなって、ようやく確証を得たのが正直なところですよ。
貴方こそ自ら動いてその幸運に縋るとは、随分と余裕がなかったようですね、殿下。
…ま、最後の悪あがきとしては悪くない一手でしたよ」
煽るような物言いのヴィルゴをレリウスは睨む。
「…特異点をふたつも独占して、余裕だな」
「貴方とは違って悪趣味な飼い方はしないのでね。だから足元を掬われる」
「………貴殿に私の情報を売っていたのはアレか」
レリウスがはじめて不愉快そうな顔をした。
その言葉を最後に、レリウスはベッドで項垂れたまま口を閉じた。
これ以上争うつもりはないようだ。
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