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転 If story
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この物語に勇者と魔王は存在しない。
そんなものが最後にいたのは数千年ほど前の話だったか。
そんな場所で一組の男女が歩いていた。
その場所は王都だったが、いつものような華やかさはない。
戦時下に陥るかどうかの瀬戸際だからだろうか。
住民たちも意気消沈しているためにその人組の男女の姿は周囲から浮いて見えた。
____それでも、だ。
その男女は手を繋いで無理矢理にでもその雰囲気を醸し出していた。
「ねぇねぇ、次はあっちに行こうよ」
「ちょっと待って。流石に今日は金使いすぎだって……あぁもう!!」
にこやかに、軽やかに。
トン、トトトン。
軽いステップがどこからか響いてくるような気がする。
周囲の人間がそれをどう思うかは知ったことじゃない。
戦時下に陥るかもしれないんだぞ、と言われればそんなことなった時に考えろよ、と言い返すだろうし、うるさいと言われれば周りが静かすぎるだけだと返す。
しかしどこかそれに対して有無を言わせない雰囲気を二人は纏っていた。
「ねぇ、昔もここにきてよくこうやって遊んでたよね」
「あぁ、本当に昔な。その時はこの店とは違っていたし、ここまでデザートも甘くはなかったけど」
聞いた女の方が、フフッとにこやかな笑みをこぼした。
何を言っているのと言ったふうに。
「私は美味しかったと思うけど?」
「そうかもしれないけどさ。少なくとも甘くはなかったよ。苦いことが多かった」
「確かに、あの頃はね」
男は気だるげに背伸びをして、それを女が押す。
椅子が後ろにひっくり返りそうになって男は慌てる。
ワタタ、と腕をぐるぐる回してなんとか体勢を戻した男が女にジトッとした目を向けた。
「そ、そうやって無防備になる方が悪い」
目を背けながらいうと、男ははぁとため息をつく。
「俺がそうやって隙を見せるとイタズラをしてくる癖いい加減治してくれませんかね」
「いいじゃん。別に命をかけてるわけじゃないんだし。こうして二人ではしゃげるわけだし____」
ニヤニヤと女が顔を近づけながらいうのでその顔を押し除けながら、まぁそうだなと男は感慨深そうに言った。
何かを思い出すような姿勢をとりながら言う。
「確かに、昔はこうもいかなかったもんな」
「私たちがこうやってまた遊んでるなんて、当時なら考えられないことよね」
アッハッハ、と男が笑う。
「俺がこいつともう遊べないなんて言ったやつめザマァみろ! 俺たちはこうして生きているぞぉ!!」
「……それ、なんのパロディ?」
「なんだっけな。確かどっかで買った本の誰かが叫んでたやつだった気がする。ちなみにその後そいつは殺される」
「ダメじゃん!!」
「いいんだよ。パロディいなんだし。それに戦争をまたしようとか考えてる馬鹿どもがいる中でこれくらいのジョークは許してくれ」
「最悪のブラックジョークだよ……」
女はやれやれと首を振って、男はまた豪快にハッハッハと笑った。
少なくとも女の方もそれを頑なに否定するつもりはないようで、小さくクスリと笑う。
一つ、彼らの上を照らしていたシャンデリアがぷつりと消えた。
燃料不足になったか、それともシャンデリアそのものの寿命か。
少しだけ暗くなったその場所で、同じように二人はそれを見上げる。
「この先に光なんてあるのかな」
「さ、それはわからないな。同じような歴史を繰り返すかもしれないし、もしくはまったく違う歴史を作り出していくかもしれない。未来のことはわからないさ」
「でも、だよ。それでも私たちはこうやって上を向いて生きてる」
「ハッハッハ、これから見るのが敵じゃないといいけどな!」
「だからそれ、最悪のブラックジョークだって」
コツン、と男は女を優しく小突いた。
その後、呆れた表情の女に行くぞ、という。
女もそうだねと返して席から立ち上がった。
そして男を揶揄うように、扇情するように上目遣いでねぇねぇ、とそう声をかけた。
「わかったわかった、帰りになんか買ってやる」
「やった!!」
「お前なぁ、いくらこうやって定期的に俺と出掛けてるからってあんま食い過ぎると太るんだぞ?」
「あ、それ女の子にいっちゃダメなんだぞ?」
「お前はこれくらいで傷つかないからいいんです~~」
「急にデレた?」
男の声も、女の子声もどんどんどんどん遠くなっていく。
彼らの歩みは止まらない。止められない。
ずっと、ずっとそれは永遠に。
あの頃終わった物語を、きちんと一つずつ振り返っていくために。
繰り返さないために。
平和に、そして笑顔で。
____彼らはいったい誰だったのだろうか。
人々は遅れてそう呟いた。
あぁ、もしかしたらこの世界では内どこかの世界で、男と女の親族は未だ彼らのことを思っているのか。
この光景を愛おしく思っているのか。
そして、
そしてそして____
この世界には皮肉にも。
最後に聞こえたのは、彼らが普通に手を取り合って名前を言い合う姿だった。
「行くぞ、シリア」
「まったくもう、本当にせっかちなんだからハルはさぁ」
世界は一度終わったはずだ。
かの大英雄の呪いで人類は死に絶えたはずだ。
それなのに、今ここに人類は存在した。
なぜなのか、なんて問わない。
さぁ、続けよう。
そしてあなたへ、あの頃終わった物語を____
《If story 完____終章へ続く》
そんなものが最後にいたのは数千年ほど前の話だったか。
そんな場所で一組の男女が歩いていた。
その場所は王都だったが、いつものような華やかさはない。
戦時下に陥るかどうかの瀬戸際だからだろうか。
住民たちも意気消沈しているためにその人組の男女の姿は周囲から浮いて見えた。
____それでも、だ。
その男女は手を繋いで無理矢理にでもその雰囲気を醸し出していた。
「ねぇねぇ、次はあっちに行こうよ」
「ちょっと待って。流石に今日は金使いすぎだって……あぁもう!!」
にこやかに、軽やかに。
トン、トトトン。
軽いステップがどこからか響いてくるような気がする。
周囲の人間がそれをどう思うかは知ったことじゃない。
戦時下に陥るかもしれないんだぞ、と言われればそんなことなった時に考えろよ、と言い返すだろうし、うるさいと言われれば周りが静かすぎるだけだと返す。
しかしどこかそれに対して有無を言わせない雰囲気を二人は纏っていた。
「ねぇ、昔もここにきてよくこうやって遊んでたよね」
「あぁ、本当に昔な。その時はこの店とは違っていたし、ここまでデザートも甘くはなかったけど」
聞いた女の方が、フフッとにこやかな笑みをこぼした。
何を言っているのと言ったふうに。
「私は美味しかったと思うけど?」
「そうかもしれないけどさ。少なくとも甘くはなかったよ。苦いことが多かった」
「確かに、あの頃はね」
男は気だるげに背伸びをして、それを女が押す。
椅子が後ろにひっくり返りそうになって男は慌てる。
ワタタ、と腕をぐるぐる回してなんとか体勢を戻した男が女にジトッとした目を向けた。
「そ、そうやって無防備になる方が悪い」
目を背けながらいうと、男ははぁとため息をつく。
「俺がそうやって隙を見せるとイタズラをしてくる癖いい加減治してくれませんかね」
「いいじゃん。別に命をかけてるわけじゃないんだし。こうして二人ではしゃげるわけだし____」
ニヤニヤと女が顔を近づけながらいうのでその顔を押し除けながら、まぁそうだなと男は感慨深そうに言った。
何かを思い出すような姿勢をとりながら言う。
「確かに、昔はこうもいかなかったもんな」
「私たちがこうやってまた遊んでるなんて、当時なら考えられないことよね」
アッハッハ、と男が笑う。
「俺がこいつともう遊べないなんて言ったやつめザマァみろ! 俺たちはこうして生きているぞぉ!!」
「……それ、なんのパロディ?」
「なんだっけな。確かどっかで買った本の誰かが叫んでたやつだった気がする。ちなみにその後そいつは殺される」
「ダメじゃん!!」
「いいんだよ。パロディいなんだし。それに戦争をまたしようとか考えてる馬鹿どもがいる中でこれくらいのジョークは許してくれ」
「最悪のブラックジョークだよ……」
女はやれやれと首を振って、男はまた豪快にハッハッハと笑った。
少なくとも女の方もそれを頑なに否定するつもりはないようで、小さくクスリと笑う。
一つ、彼らの上を照らしていたシャンデリアがぷつりと消えた。
燃料不足になったか、それともシャンデリアそのものの寿命か。
少しだけ暗くなったその場所で、同じように二人はそれを見上げる。
「この先に光なんてあるのかな」
「さ、それはわからないな。同じような歴史を繰り返すかもしれないし、もしくはまったく違う歴史を作り出していくかもしれない。未来のことはわからないさ」
「でも、だよ。それでも私たちはこうやって上を向いて生きてる」
「ハッハッハ、これから見るのが敵じゃないといいけどな!」
「だからそれ、最悪のブラックジョークだって」
コツン、と男は女を優しく小突いた。
その後、呆れた表情の女に行くぞ、という。
女もそうだねと返して席から立ち上がった。
そして男を揶揄うように、扇情するように上目遣いでねぇねぇ、とそう声をかけた。
「わかったわかった、帰りになんか買ってやる」
「やった!!」
「お前なぁ、いくらこうやって定期的に俺と出掛けてるからってあんま食い過ぎると太るんだぞ?」
「あ、それ女の子にいっちゃダメなんだぞ?」
「お前はこれくらいで傷つかないからいいんです~~」
「急にデレた?」
男の声も、女の子声もどんどんどんどん遠くなっていく。
彼らの歩みは止まらない。止められない。
ずっと、ずっとそれは永遠に。
あの頃終わった物語を、きちんと一つずつ振り返っていくために。
繰り返さないために。
平和に、そして笑顔で。
____彼らはいったい誰だったのだろうか。
人々は遅れてそう呟いた。
あぁ、もしかしたらこの世界では内どこかの世界で、男と女の親族は未だ彼らのことを思っているのか。
この光景を愛おしく思っているのか。
そして、
そしてそして____
この世界には皮肉にも。
最後に聞こえたのは、彼らが普通に手を取り合って名前を言い合う姿だった。
「行くぞ、シリア」
「まったくもう、本当にせっかちなんだからハルはさぁ」
世界は一度終わったはずだ。
かの大英雄の呪いで人類は死に絶えたはずだ。
それなのに、今ここに人類は存在した。
なぜなのか、なんて問わない。
さぁ、続けよう。
そしてあなたへ、あの頃終わった物語を____
《If story 完____終章へ続く》
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