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第三章 エルフの森

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「……ああ、聞こえていたか。今までは医学に頼らずに生きてきたエルフが……それもエルフの王が医学に頼るかたちになってしまってすまないが……どうしてもお父様に元気になって欲しくてな」
 姫はうつむいた。

「なにをおっしゃってるんですか! 医学でもなんでも王が回復するならいいではないですか。我々エルフも変わる時が来ているのかもしれません。しかし……紫牙草が必要なのか?」
 そう言いよどみ、女剣士の顔色が曇る。

「そうよ、どこに咲いてるか分かるの?」ミルリーフは女剣士に尋ねる。

「ああ、それは分かるが……いや正確には咲いているわけじゃない。昔はどこの森にも咲いている花だったが、今の紫牙草は凶暴なモンスターだ!」

「モ、モンスター……!?」
 一同は声をあげ、女剣士は話を続けた。

「姫は、最近『眠りの谷』と呼ばれるようになった森の奥深くにある谷をご存知ですか?」

「ああ、聞いたことはある。ここ数ヶ月、その谷に近づく者は眠ってしまうという谷か?」

「はい。以前からその谷に紫牙草は咲いていたのですが……数ヶ月前から紫牙草は巨大化し暴れています。おそらく暗黒水晶の影響によるモンスター化でしょう」

「そんな……花がモンスターに!?」ミルリーフも驚いていた。

「はい。今のところ紫牙草は谷底で暴れているだけなので問題はないので放っておいています。イタズラ半分で近づくと睡魔が襲ってくるだけです。モンスターになり眠気を誘う花粉でも撒いているのでしょう」

「そうか……しかし、その花の根っこが必要となると……激しい戦いになりそうだな。お父様の体力もいつ尽きるか分からないと言うのに……」
 姫の表情が暗くなる。それとは裏腹にあっけらかんとアルカンタラが口を開く。

「つまり……その花のモンスターを倒せばいいんだろ?」

「ああ、そうだが……簡単な相手ではないだろう。近づくと眠ってしまうんだぞ?」姫は言う。

「おいおい、何言ってんだ? 俺にはこれがあるんだぞ?」
 アルカンタラは服の袖をグイと捲り、腕を出す。魔法陣の入れ墨が刻まれた腕だ。

「そ、そうか! アルカンタラは……古代魔法がまだ使えるのか!」
「これが魔法陣……!? 初めて見た……」
 姫と女剣士はアルカンタラの魔法陣に魅入っていた。長生きのエルフといえども若いエルフは魔法陣を見たことない者も少なくない。
 100年前、魔王が滅びてからは魔法陣が禁止されたからだ。

「……そうね、今回はアルカンタラにサクッとその紫牙草を倒してもらいましょう。早速いくわよ!」
 ミルリーフが立ち上がる。

「おう! 森の奥の『眠りの谷』だな? おい女剣士、早く案内しろ!」

「わ、わかった! では姫、彼らを案内してきます。必ずや紫牙草の根っこを持ち帰ります」
 女剣士は姫にひざまずき、約束をした。

「……ああ、頼んだぞ三人とも。私はここで帰りを待つ。お父様を……頼む」

 三人は部屋を飛び出した。
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